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6月

安土桃太郎はイケメンであるがゆえに

女子からは好かれ、男子からは嫌われていた。

大半の者が嫉妬していたのだ。

安土が持て囃される理由は一目瞭然だというのに、

「なんであいつだけが」という気持ちが拭えない。


尊大な態度も嫌われる要因の1つだ。

あの、自分以外全ての者を露骨に見下す目。

安土にとって世界の中心は彼であり、

周りの人間は背景の一部でしかなかった。


それでも彼とお近づきになりたい者が後を絶たない。

安土からどう思われようが、彼のそばにいたいのだ。

もっと近くで彼のフェロモンを感じていたいのだ。


なんて馬鹿な女たちだろう。

まるで発情期の動物ではないか。


犬飼杏子もその1人だった。


「ねえ、安土君

 今度の日曜日……空いてるかな?

 実は親戚から映画のチケット貰っちゃってね

 あの、もし暇だったら──」


なけなしの勇気を精一杯振り絞ってみた杏子だが、

無情にも安土は彼女の言葉を遮るように席を立ち、

一度も視線を合わせることなく教室を出ていった。


取り残された杏子はどうすればいいかわからず、

ある言葉を思い出しておろおろと慌て始める。


『お前と友人や恋人になるつもりはない』


安土はキッパリとそう断言していたのに、

冒険活動の同行者として過ごすうちに気が緩み、

自分は他の女子よりも高い位置にいるのだと

盛大な勘違いをするようになったのだ。


禁忌を犯してしまった。


杏子はそれを取り返しのつかない過ちだと思い込み、

これで完全に嫌われてしまった、

もう二度とそばにいられないだろう、と

自分の中で結論づけてみるみる顔が青褪めてゆく。


「わんこ、どうかした?」

「顔色悪いよ? 大丈夫?」


その声に振り返ると、亀山と猪瀬が心配そうに

杏子の様子を窺っていた。


「カメちゃん……ブタちゃん……」


2人は冒険仲間であり、ただの同行者ではない。

お互いにあだ名で呼び合う程度には打ち解けている。

友人たちが気遣ってくれているのだ。

その事実が杏子の乱れた心を少し落ち着かせた。




3人は渡り廊下に場所を移し、

自販機で買ったレモンティーを飲みながら

杏子から事の経緯を聞き出した。


「──それで落ち込んでたってわけね

 まあ、平気でしょ

 ガン無視されたなら、なんとも思ってない証拠よ」


「うぅっ、そうかなあ……」


「そうそう、きっと大丈夫だよ!

 無愛想なのはいつもの安土君じゃん!

 もしわんこちゃんをクビにするつもりだったら、

 その場で何か言ってきたと思うよ!」


2人に励まされ、杏子はまだ暗い表情でありながらも

内心ではだいぶ不安が和らいでいた。


「あいつは私たちをただの駒としか見てないし、

 利用価値のあるうちはそばに置いとくはずよ」


「えっ、ええぇ!?

 駒ぁ!? 利用価値!?」


亀山の口から出てきた冷たい単語に、

杏子の心は再び掻き乱される結果となる。


言葉とは不思議なものである。

それは単なる空気の振動ではない。

人間はその音に魂を揺さぶられ、

心の温度を変化させる生き物なのだ。


「ちょっ、カメちゃん!

 事実でも言っちゃダメだってば!

 今はわんこちゃんを励ますターン!

 元気の出る言葉をかけてあげなきゃ!」


「あら、いけなかったかしら?

 私なりに気遣ったつもりだけど……

 ごめんなさいね、私は国語が苦手なの」


亀山から悪意は感じられない。

本心で友人を励まそうとしていたのだ。

杏子はそれを理解してはいたが、

やはりショックな発言だったことには変わりない。


「ところでわんこ、あんな奴のどこがいいの?

 私にはただの根暗にしか思えないんだけど……

 どうせ相手にされないとわかりきってるのに、

 あいつに群がってる女子たちの心理が知りたい」


そしてこの追い討ちである。

亀山は安土に恋愛的な好意を持たない少数派であり、

正直で、空気を読めない性分だった。


「どこがいい、って……

 その、優しいところ……とか」


「優しいところなんてあったっけ?

 まあいいわ、他には?」


「他には……

 えっと、その…………顔、とか……」


「はい、顔ね」


しょうもない答えに納得したのか、

亀山がそれ以上質問することはなかった。

猪瀬は亀山にそれとなく注意して言い聞かせ、

絶賛落ち込み中の杏子に優しい言葉をかけてやる。


映画のチケット。小さな悩み。他愛もない会話。

渡り廊下。レモンティー。友人と過ごす放課後。

それは幾度となく繰り返されてきた、

まったく穏やかで、退屈な日常風景である。






そして数日後、別の日常風景を目にすることになる。


亀山の言った通り、安土は先日の件について

特に何も思うところが無かったようで、

杏子は冒険活動への参加を許されて安堵していた。


晴れやかな気分で準備を整えていざダンジョンへ、

というタイミングで待ち伏せしていた男子が近づき、

安土パーティーの前に立ちはだかったのだ。


「安土

 急な話で申し訳ないんだが、

 今日は俺も同行させてもらうぞ」


「断る」


即答で拒否された男子、大上(おおがみ)隼斗(はやと)は不気味だった。

造形の話ではない。彼は男前である。

ただなんというか暑苦しい印象の人物であり、

どこか自分に酔っているような、

ある種の勘違いをしている節があった。


背丈は安土よりも少し高く、

一般の高校に通う同年代の男子と比べれば

引き締まった肉体の持ち主だとは思うが、

スポーツの嗜みがあればこの程度は珍しくない。


その程度の存在なのにこの男、大上は何を思ったか

圧倒的強者である安土にしつこくまとわりつき、

事あるごとに自分と手合わせしろとせがむのだ。

まったく身の程知らずも甚だしい。


大上隼斗には魔力が無い。


彼には冒険者にとって必要な素質が

生まれつき備わっていないのである。


当然ながら魔法を使うことはできず、

冒険者用の装備品を手にしたところで

彼にとってはただの金属の塊でしかない。

彼には魔物と戦うための武器が何も無いのだ。


それなのに彼はこの魔法学園に在籍している。

冒険者を目指しているという証に他ならない。

彼がどうやって入学したのかは不明だが、

周りにとってはいい迷惑である。


「断られても俺はついてくぞ

 ようやくダンジョンに入る許可を貰えたんだ

 邪魔はしないと約束するから見学させてくれ」


「……計画書は提出してあるのか?」


「ああ、もちろんだ」


「それはお前1人のパーティーか?」


「ああ、俺1人だ」


「……それなら好きにしろ」


「本当か!?」


無言で頷く安土。喜ぶ大上。

リーダーの意外な決断に驚く仲間たち。


「え、いいの?

 大上君はほら、魔法使えないし

 それに今日が初めてなんだよね?

 私たちは第3層に行く予定なんだけど……」


初心者である大上の心配をする杏子だが、

安土の返答はやはりというか、冷徹であった。


「俺たちは予定通り第3層で狩りを行う

 大上がどこで何をしようが俺には関係無い

 道中で魔物に襲われようが助ける義理も無い

 もし大上が死んだら、その時は奴の自業自得だ」


そう告げる安土は、普段と変わりない彼だった。

心の底から大上のことなど眼中に無いのだろう。


そして冷徹ではあるが、同時に正論でもある。

大上隼斗はおそらく思い込みの激しい男なのだ。

ここであれこれと手助けをしたらどうなる?

活動が上手くいけば自信をつけてしまうだろう。

きっと、この先もやっていけると勘違いするだろう。


力無き者に希望を抱かせるほど残酷なことはない。

ここで彼を突き放すのは正しい選択である。


「ちょっと安土君!

 いくらなんでも酷いよ!

 少しくらい面倒見てあげてもいいんじゃない!?

 そんなだから男子たちから嫌われるんだよ!」


溜まっていたのだろう。猪瀬は不満を表明した。

控えめな彼女でも怒りを抑えられない時はある。

だが、ただ感情的になっているだけであり、

大上のためを思っての発言ではない。

それは優しさではなく偽善というものだ。


味方がいることに気を大きくしたのか、

大上は分を弁えない発言をするのだった。


「ありがとう、猪瀬さん

 でも俺は気にしてないから平気だ

 安土がこういう奴だとは知ってたしな

 何かあっても自業自得なのは覚悟してる

 ただ、安土……

 俺にも1つだけ言わせてくれ」


安土は何も答えなかったが、

大上は構わずにその先を続けた。


「……もしお前のピンチを見かけても、

 俺は絶対に助けないからな

 それでおあいこってことにしようぜ?」


そのあまりにも身の程知らずな発言に

女子3人は絶句し、顔を見合わせた。

誰が誰を助けないって……?と、

思わず吹き出しそうになるのを

こらえるのに必死だった。


そして、安土の反応を窺った杏子は言葉を失い、

自分の中で怒りに似た何かが湧くのを感じ取った。


これまでどれだけ酷い罵倒を浴びせられようが

眉ひとつ動かさなかったあの安土桃太郎が、

大上の言葉でわずかにも目を細めていたのだから。

基本情報

氏名:亀山 千歳 (かめやま ちとせ)

性別:女

サイズ:J

年齢:15歳 (6月9日生まれ)

身長:155cm

体重:40kg

血液型:A型

アルカナ:悪魔

属性:氷

武器:スリップノット (鞭)

防具:ブラックマジック (衣装)


能力評価 (7段階)

P:3

S:1

T:4

F:6

C:6


登録魔法

・デッドエンド

・デッドロック

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