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進め!魔法学園2  作者: 木こる
未来を切り拓く意志
57/62

社長安土桃太郎

また駄目だった。


7月31日。

無謀にも安土桃之進に立ち向かってしまった、

チームブラックの面々が全滅しちゃいました。




というわけで、私は犬飼杏子の第2人格です。

まあ私的には私こそが主人格でありたいのですが、

長らく本体の主導権を握っていた彼女に免じて

その座は譲ってあげようと思います。

私は大人なので我慢できます。

私のことは“裏わんこ”でも“黒わんこ”でも、

どうぞ好きなようにお呼びください。


さて、状況はいつもと変わりません。

車の中で私以外死んだという話を聞かされて、

とりあえずコンビニに立ち寄ってもらい、

これから待ちに待った豪遊をするところです。

ちなみにこの時点で残り3分を切ってます。

私が動けるのは目が覚めてから4分33秒だけですが、

そのうち3分の1以上を既に消費済みという事実……。

どうにかならないんですかね、これ。



今回は懐かしい小技を使ってみようと思います。

最後に使ったのはもう何百周も前の話で、

あの頃と同じようにできるかどうかはわかりません。

なぜそんな技を使う気になったかと言うと……

特に理由はありません。

まあ他にすることが無いからですね、たぶん。


まず入店します。

ここ最近は酒コーナーまで即ダッシュしてましたが、

今回はおとなしく歩いて目的地まで行き、

商品を取ったら歩いてレジまで向かいます。

模範的なお客さんスタイルですね。

正直言って時間のロス以外の何物でもありませんが、

久しぶりに使う小技を成功させたいので、

あまり派手なことをして目立ってはいけません。


「あの、お客様……

 失礼ですが、身分証の提示をお願いします」


はい、来ました。

年齢確認。

はいはい、わかります。

未成年に見えますもんね。

はいはいはい。

実際、この肉体は17歳なんで当然だと思います。

私が何千回と時間のループを繰り返していようが、

中身の年齢なんて他の人にはわかりませんもんね。


そんな時に役立つ小技がこちらです。


「私が未成年に見えますか?」


ここでおっぱいをポロリします。



杏子ちゃんマジックその1・胸パス。


……いや、その1って全裸バリアだったな。

まあどうでもいいか。どうせその場のノリだし。

とにかく自慢のLカップを見せつけりゃいいんです。

しかも生で。

どうせこの人たちの記憶はリセットされるし、

他の周回では全裸を披露しているのだし、

今更恥ずかしがることなんて……


……って、あれ?

なんだろう、この気持ち……

どういうわけか、全裸より恥ずかしいかもしれない。


謎だ…………。



まあとにかく、胸パスは成功したようです。


「お買い上げ、ありがとうございました!

 またのご来店をお待ちしています!」


そうであろう、そうであろう。

またこんなド変態な客に来てほしいのであろう。

安心せい、どうせまた私は来てしまうのだから。



さて、私は店から出ずに一杯やることにします。

レジのカウンターをテーブル代わりにして、

焼酎1:ホッピー5の割合でドリンクを作ります。

実はこれ、私が会社員やってた頃に

先輩から教わった飲み方なんですよ。


以前にも語った通り、この犬飼杏子の人生には

20年以上生きたルートも存在するんです。

今回はその頃の思い出に浸りながら、

次の周回を迎えてみるのもいいんじゃないかなあと。


「お客様!!

 店の外でやってくれませんかねえ!!」






──関東魔法学園に入学した私は

安土桃太郎という名のイケメンと出会い、恋をした。

しかし彼からはただの駒としか思われておらず、

私の恋は完膚無きまでに玉砕してしまった。

それでも彼のそばにいたかった私は

なんとかパーティーをクビにされないように頑張り、

卒業する前に彼からこう言われたのだ。


『これからも頼むぞ』と。


なんと嬉しいサプライズだろうか。

私と亀山千歳、猪瀬牡丹の3人は等しく馬鹿なので、

魔法大学への進学は当然失敗してしまった。

だが、戦闘要員としての実力は認められていたのだ。


それから私は頑張り、頑張り、頑張り抜いた。

来る日も来る日もいろんなダンジョンで経験を積み、

冒険者として着実にレベルアップしていきました。

とはいえリーダーは忙しい大学生活を送ってるので、

ダンジョンに通う頻度は週1回とか月1回とかになり、

オフの日は仲良し3人組で遊んでました。

『来る日も来る日も』はちょっと大袈裟でしたね。


まあそんな感じで遊んでる日の方が多かったので、

『せっかく上がったレベルが下がってる』と、

リーダーから幾度となく指摘されてしまいましたが、

それも今ではいい思い出です。




半年が過ぎた頃、私は飽きました。


というのも私の基本的な立ち位置は回復役(ヒーラー)なんですが、

味方が強いとあんまり出番が無いんですよね。

それなら他の役割と兼任すればいいだけの話ですが、

私はか弱い女の子なので前衛なんてまず無理だし、

攻撃魔法にMPを割きすぎると、肝心な場面で

回復や強化が使えなくなるのでこれも却下です。

荷物持ちや記録係として貢献する手もありますが、

私はそういった面倒なことはしたくありません。


まあそれは最初からずっとそんな感じだったので、

安土桃太郎に飽きた最大の理由にはなりません。


私は“千年童話”というV系バンドのファンであり、

ボーカルの黄泉(よみ)さんにゾッコンでした。

浮気なんてよくないと勝手に葛藤しつつも、

徐々にライブに通う回数が増えていきました。


時にはダンジョンに行く予定があるのを忘れていて、

ライブの日とダブルブッキングしたこともあります。

そんな時はライブを優先し、適当な言い訳をしては

仲間たちから白い目で見られたりもしました。




リーダーが大学2年生になり、

私はパーティーをクビになりました。

『お前はもう頑張らなくていい』と言われ、

とても悲しい気持ちになったのを覚えてます。


しかも私の後釜は既に用意されていて、

以前、『お前の代わりはx人いる』と言ってたのは

本当だったんだなあと思い知らされました。

その子(もちろん女)にはどこか見覚えがあり、

私の小さな脳味噌をフル回転させてみた結果、

学園時代に安土桃太郎の対人戦を見学しに来ていた

他校の女子だったと思い出すことができました。


こんな時だけ無駄に記憶力が良くなるの、

やめてもらえませんかね。




冒険活動をする意味が無くなってしまった私は

3年間のニート生活を満喫した後、親戚からの紹介で

栃木にある印刷工場に就職することになりました。

仕事内容は苦手な事務だったんですが、

まあ命を張った肉体労働よりはマシだと思い、

文句も言わず真面目にコツコツ働いてみたわけです。


そして1ヶ月で辞めました。


面子を潰された親戚は激怒していましたが、

男性社員からはさりげなくセクハラされるわ、

女性社員からはいびられるわで、嫌になったのです。

セクハラはまだ許せますが、いびりは許せません。




再びニート生活突入……したかったのですが、

家族からの視線がやけに冷たいことに気づき、

しばらくはハロワでバイトを探すふりをしながら

1日中ゲーセンやネカフェで過ごす生活をしてました。


そんな時、かつての友人から連絡がありました。

スマホの画面には『ブタ』の2文字が。

一瞬何かの悪戯かなと思ったりもしましたが、

よくよく考えてみると猪瀬牡丹のあだ名でした。


私たちはしばらくお互いの近況を伝え合い、

これもしかしてマルチの勧誘かな?と疑い始めた頃、

ブタが予想外の言葉を投げ掛けてきました。


『わんこちゃんも安土製菓で働いてみいひん?』


えっ……『も』?

その1文字が引っ掛かり、よく考えてみた結果、

あのブタが一流企業の安土製菓で働いているという、

にわかには信じ難い仮説に辿り着きました。


しかもその説は見事に当たっていて、

更に亀山千歳に鬼島神楽、私の後釜である(ワン)までもが

同じ部署で働いているという事実を告げられました。

そして更に驚くべきことに、あの安土桃太郎が

大学卒業と同時に新社長に就任していたのだとか。


どうも彼はD7とかいう最難関ダンジョンの攻略を

目指していたらしいのですが、甲斐晃とかいう人に

先を越され、冒険活動への意欲が低下したそうです。

そこへ先代社長から世代交代の話を持ち掛けられ、

あれよあれよという間に新社長になっていたそうな。




そんなわけで私は安土製菓に就職しました。

ぶっちゃけコネ入社なんで少し肩身が狭いですが、

ちゃんと能力を評価されての入社でもあります。


はい、顔採用です。以上。


顔だけでなくナイスバディーも高く評価されました。

かつてのチームブラックが働いてる部署は宣伝部で、

会社のPRや商品の紹介、CM制作などをしており、

私は企業マスコットキャラクターの中の1匹、

“わんた”の役を演じることになりました。

CM出演だけでなく、キャンペーンガールとして

イベントに参加するのも仕事なんだそうです。


こいつ名前からして雄なんですが、

Lカップの女に演じさせていいんですかね?


というささやかな疑問はあったものの、

世間の皆さんはそんなこと全然気にしませんでした。

“ももこ”役が4人いるというのも些細な問題でして、

社長が演じる“ももたろう”があまりにイケメンすぎて

お茶の間に大反響(イケメンインパクト)を巻き起こしたのです。


こうして新商品“冒険者チップス”は爆売れし、

後に“イケメンチップス”が生み出されることになり、

安土製菓の利益はますます鰻登りになるのでした。


めでたしめでたし。




……とはいかず、弊社には少し問題がありました。


セクシャルハラスメントについてです。


安土桃太郎が社長に就任してからというもの

服装に関する規定が改められたのですが、

“女性社員は80デニール以上の黒タイツを履くべし”

という、ちょっとアレなお触れが出されたのです。


鬼島神楽なのか、それとも別の人間なのか、

とにかく上層部の誰かがそう提案したのでしょう。

なんにせよ、そんなふざけたルールを取り入れて

平然としている社長には問題がありました。


ちなみにデニールとは繊維の太さを表す単位であり、

黒タイツの黒さを表す数字だと社長から聞きました。



ある夏の日、タイツではなくストッキングを

履いて出社してきた女性社員がいました。

私です。

タイツでは暑すぎるという理由もあったんですが、

この妙な社則に逆らった場合どうなるのかという、

よくわからない好奇心からの行動でした。


結果、私は社長から肩を叩かれました。

そして耳元で囁かれたのです。


『お仕置きが必要だな』と。


私、犯人がわかっちゃいました。



お仕置きと聞いて、私はゾクリとしました。

隠すつもりはありません。犬飼杏子はドMです。

彼への恋心はすっかり冷め切っていたはずが、

この時ばかりは再燃しそうになったのを覚えてます。


社長から『そこに座れ』と命令され、

私は素直にコピー機の上に座りました。


コピー機……?


ガー、ガー、ガー、と印刷音が鳴り響く中、

私はどんな反応をするべきなのか迷いました。

その答えは未だにわからないままです。


社長はその印刷物をどこへ持っていったのか、

一体なんの目的であんなことをしたのか、

その行為は果たしてセクシャルなのか、

などと色々考えてみましたが、

やっぱりよくわからないので諦めました。




そんなこんなで順調な日々を送っていた私ですが、

事件は突然起こりました。


千年童話が解散を発表したのです。


まあファンじゃない人にはピンと来ないでしょうが、

当時の私的にはとんでもない大事件でした。

しかも、更にショックなのは……


黄泉さんが女性だった件です。


まあファン(以下略)黄泉さんは中性的な顔立ちで、

とてもミステリアスな雰囲気を持っている人でした。

我々ファン一同はそこに惹かれていたわけですが、

正体を知ってしまい、裏切られた気分になりました。



そして犬飼杏子は時間を巻き戻す魔法を使いました。



このおバカな本体はとんでもなくくだらない理由で、

仲間が誰一人として死ななかった平和な未来を、

一流企業に就職して順風満帆に過ごしていた人生を、

自らの手で全て無かったことにしちゃいました。


本当に馬鹿ですよね、こいつ。

まあ私の主人格なわけですが。

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