表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
進め!魔法学園2  作者: 木こる
未来を切り拓く意志
56/61

隠された歴史

安土桜之進と安倍晴明は妖怪の巣へと潜り、

その現場を遠巻きに観察していた。

安土桃之進……否、安土桃之進の形を模した妖怪が、

敵もいないのに全ての術力を解き放つ光景を。


「さあ晴明殿、撤退の準備を致しましょう」

「うむ、今回は13日目であったな」


安土桃之進の形を模した妖怪が自滅してゆく様を。


それを見届けた直後、辺りがゴゴゴと揺れ出す。

崩壊の合図だ。

2人は同時に振り向き、地図も見ずに駆け出した。




安土桃之進がこの妖怪の巣の主と化してから7年。

桜之進と晴明は毎日のようにこの地を訪れては、

詳細な記録を取ることに尽力していた。

その甲斐もあり、発見できたことがある。



あの妖怪は概ね10〜20日、特に13〜15日の周期で、

全ての力を使い果たして勝手に自滅するのだ。

ただし完全に滅ぶことはなく、翌日又は翌々日に

巣共々元通りに復活してしまうという性質がある。


これは最初からわかっていたことだが、

あの妖怪は恐ろしく強い。

これまで腕自慢の傭兵を何百と(けしか)けてきたが、

誰一人として太刀打ちできる者は現れなかった。

そして、その大半は朧満月に精神を狂わされ、

戦いを放棄して逃げ出してしまう始末だ。


朧満月……あれはもう本当にどうしようもない。

あれが場に存在する限り、勝機を見出せない。

戦士の戦意を喪失させるばかりか、

中には幼児退行を起こす者までいるのだ。

それにどうやら眠気を誘う効果もあるようで、

巣の崩壊中に突然意識を失ってしまい、

脱出に間に合わなかった者もいた。



結論、無理。



それがこの7年間の調査で導き出した答えである。

だとしても、これからも記録は取り続けるが……。




本日の調査を終えた2人は茶屋に立ち寄り、

きな粉団子を注文した。


「はっはっはっ!

 やはり調査の後のこれはやめられませんな」


「麻呂たちの体が甘い物を欲しているでおじゃる」


当時は南蛮貿易以前の時代であり、

砂糖は庶民には手の届かない超高級品であった。

この2人は共に庶民よりは高い身分ではあるものの、

それでも常日頃から砂糖を口にできたわけではない。

しかし陰陽術の行使には大量の活力を必要とし、

その栄養補給源として甘味の存在は必須であった。


そして、砂糖の代用品として使われていたのが

流通面で圧倒的に勝るきな粉である。

2人は少し勘違いしているが、糖分を補給することで

エネルギーがチャージされる図式自体は合っている。

ただし、きな粉は低糖質の食品なので

糖分を補給する目的で摂取する物ではない。

この場合、大豆由来の豊富なタンパク質が作用し、

それが元気の源となっているのだ。

すごいぞ、大豆パワー。


「ところで桜之進殿

 お主が国境(くにざかい)の峠に建てた茶屋の件じゃが、

 上手く回っておるのかの?」


「ええ、おかげさまで大変繁盛しております

 行商人たちの休憩所として絶好の立地なので

 それに、あの店で働いてもらっているのは

 兄上に仕えていた女中たちが大半ですからね

 皆美人揃いで、礼儀作法を弁えた者たちばかりです

 中には高名な武将の側室に迎えられた者もいます

 あの場所が戦火に見舞われることがないよう、

 武将同士で協定が結ばれたとの話も……」


「しかし桜之進殿が安土家の当主となってから、

 最初に行なった事業がそれとは驚きましたぞ

 安土家の家業とは全くかけ離れておるからな」


「ええ、まったくですよ

 昔、『お前には人を使う才能がある』と

 兄上から言われたことがあるのですが、

 拙者はその言葉をなかなか信じることができず、

 ようやく踏み出したのが父上の亡き後……

 安土家の舵取りを任されてからになりました」


「ほほほ、踏み出して正解じゃったろう?

 お主も桃之進殿に負けず劣らずの切れ者じゃからの

 兄弟揃って誠に天晴れでおじゃるよ」


「いえいえ、とんでもない

 あの人と比べたら拙者なんてまだまだ……

 などと謙遜していたら兄上が怒るでしょうな」


「まったく、目に浮かぶでおじゃるな!」


「ははは」


その後もしばらく2人は談笑を続け、

空が赤らんでくる頃、家路に就いた。






安土家別邸。

屋敷の主である桃之進の死を知らされた女中たちは

働く意義を見失い、一時期自暴自棄になっていた。

朝昼晩と酒を呑んではどんちゃん騒ぎを繰り返し、

近所から大量の苦情が押し寄せたのだ。


桜之進は、彼女たちの愚行を止めるべく動いた。

当主の権限で屋敷から追い出すのは簡単だが、

それでは長年兄に尽くしてくれた相手に対して

不義理だと思い、別の方法で丸く収めることにした。


その解決法が先程の会話に出てきた峠の茶屋、

“あづちや”──安土製菓の前身である。


「いやあ、しかし、ここまで上手くいくとは……

 あの者たちは働く喜びや生きる意味を取り戻し、

 客からの評判は上々で利益は年々増える一方、

 何もかもが順調満帆で怖いくらいです

 これも輝夜殿が背中を押してくれたおかげですよ」


輝夜は天井を見上げながらニコリと笑う。

だがすぐにケホケホと咳込み、その顔色は良くない。

流行り病に罹り、医者が手を尽くしたものの、

当時の医療では彼女を救うことができなかったのだ。


「のう、桜之進よ

 そなたに1つ頼みたいことがある

 儂はもう長くない

 どうか最後のわがままを聞いてはくれぬか?」


「そんな、輝夜殿!

 縁起でもないことを仰らないでください

 最後だなんて……諦めるにはまだ早いですぞ」


「いや、こればかりはどうにもならん

 儂はもう受け入れておる……寿命なのじゃ

 人はいつか死ぬ

 その時が来ただけのことじゃ」


「しかし、ですが……」


悔しそうに歯軋りする桜之進を見て、

輝夜はフゥっとため息を吐いてから言葉を続けた。


「桜之進

 お主は日記を書いておるな?

 それを改竄するのじゃ」


「え、日記……?

 改竄しろとはどういう意味で……」


よくわからない頼みを申しつけられ、

これには目をパチクリさせるしかない。

だが輝夜は困惑する桜之進などお構いなしに、

淡々と要望を伝えるのだった。


「儂はあの日、桃之進殿と出会った時、

 その場で斬り捨てられたことにするのじゃ

 当然その後の生活は全て無かったことにしておき、

 儂の痕跡を綺麗さっぱり消してほしいのじゃ

 そういう辻褄合わせは得意じゃろ?」


「な、なぜそんなことをする必要があるのです!?

 輝夜殿は誠に素晴らしいお方であったと、

 その事実は後世まで伝えられるべきだ!!」


「それだと後々困るから頼んでおる

 とにかく必ず実行せよ、これは命令じゃ」


「は、はあ……?」


本来輝夜は命令できるような立場ではないのだが、

まあ、実に彼女らしい物言いであると

桜之進は呆れ笑いをする。



「それから桜之進よ

 3年後、お主に擦り寄ってくる女子(おなご)が現れる

 安土家の財産目当ての女狐じゃ

 お主はその女を妻として娶るがよい」


「え、えっ!?

 いや、何を仰るかと思えば!!

 嫌ですよそんな女子!!

 そもそも拙者は独り身でも全然──」


「だめじゃ

 お主が奥手なのは知っておるが、

 これも必要なことなのじゃ

 まあ安心せい、その女は野心家じゃからな

 野心家ゆえに相当な切れ物でもある

 自己の利益を最大限に増やすためなら、

 良き妻にも良き母親にもなれる……そんな女じゃ

 あづちやの発展に大きく貢献してくれるじゃろう」


「いや、しかし……って、

 3年後とか仰いましたよね?

 なんだ輝夜殿、拙者をからかったのですね

 まったく、悪い冗談はやめていただきたい」


桜之進はハハハと笑うが、輝夜は真顔のまま続けた。


「儂の死後、お主が菊丸(きくまる)六花(りっか)の親となるが、

 決して菊丸にあづちやの経営を任せてはならぬ

 博打好きな性格が災いして店を畳む結果になる

 あづちやの2代目には純粋に商才ある者を指名せよ

 例えば、いずれお主の妻となる女とかな

 菊丸には本人の好きなようにさせるがよかろう

 色々とやらかしてお主の頭を悩ますじゃろうが、

 やがては立派に当主の務めを果たすようになる」


「またまたご冗談を

 菊丸殿は兄上の忘れ形見なのですぞ?

 博打に溺れるような性格に育つとは思えませぬ」


「六花が陰陽術に興味を持つようになったら、

 安倍家に預けて修行させるがよい

 人並み以上の腕前には育つが、狙いはそこではない

 旧鬼島領の有力者が六花の美貌に一目惚れし、

 鬼島神社なる建造物を作り、そこで暮らし始める

 六花はそやつなどまるで眼中に無かったのじゃが、

 まあ、なんやかんやあって2人は結ばれるのじゃ」


「なんですか、その具体的な予言は……

 まるで未来を見たかのような物言いですな」


「儂には未来が視えておる

 ……と言っても、今のお主には信じられぬよな

 とりあえず3年後を楽しみにするがよい

 その時が来れば、お主は儂の言葉を信じるじゃろ」


「ここはひとまず心に留めておきましょう

 ですが、拙者が金目当ての女を伴侶にするなど

 到底あり得ぬ話ではございますがね」



「それから桜之進」


「まだあるのですか?

 頼み事は1つだったのでは……?」


「まあいいから聞け

 これが一番重要な頼みじゃ

 儂が死んだら、その骨を材料にして杖を作れ

 それから杖に宿る呪力が外へと漏れ出ないように、

 お主と晴明殿の2人がかりで封印術を施すがよい

 そして出来上がった物を鬼島神社に奉納するのじゃ

 よいか、必ず死後5年以内に杖を作るのじゃぞ」


「骨を材料に、ですか……

 なんともおぞましい頼み事ですな

 それにどんな意味があると言うのです?」


「ああ、そうそう

 その杖にはカタカナで“ニルヴァーナ”と名付けよ

 涅槃(ねはん)……

 仏教用語に詳しいわけではないが、

 輪廻を越えた先の境地とかいう意味じゃったかと」


「ええ、そのような意味で合っていたかと

 ……ではなくて、輝夜殿の目的がわかりません

 一体なんのためにそんなことをなさるのですか?」


「未来を切り拓くために決まっておろう

 いずれこの世界は同じ時間を繰り返すようになり、

 永遠にその先へと進めなくなってしまうのじゃ

 未来が訪れない未来など存在してはならぬ

 儂はその未来を改変しようとしておる」


「ますます理解に苦しむのですが……

 輝夜殿、今日はたくさんお喋りになられて

 そろそろお疲れでしょう

 もうお休みになった方がよろしいかと存じます」


「それもそうじゃな

 では眠りに就く前にあの子たちを呼んできておくれ

 挨拶は大事じゃ、いつの時代でもな」


「ええ、ではすぐに──」


桜之進は部屋を立ち去ろうとしたが……


「桜之進

 お主には今まで本当に世話になったのう

 心から礼を言うぞ……ありがとうな」


「そんな、輝夜殿

 これが今生の別れというわけではあるまいし……

 しかしまあ、拙者も輝夜殿には感謝しております

 兄上の分まで礼を言わせてもらいますぞ」



その後、屋敷の者全てに挨拶を済ませた輝夜は、

日付が変わる頃に息を引き取った。

その死に顔はとても安らかであったという──。











──それから時は過ぎ、安土家本邸当主の間にて

桜之進は内心そわそわしながらも平静を装い、

子供たちが口を開くのを待った。

彼らはいつになく真剣な眼差しをしている。

今から大事な話をしようとしているのは確かだ。


菊丸も六花も立派に育ってくれた。

月日が流れるのは早いもので、もうじき成人を迎える

2人を見ていると、在りし日の兄夫婦を思い出す。

幼い頃は周りを困らせてばかりだったあの2人が、

これからは一人前の大人として社会を出歩くのだ。


本当に大丈夫だろうか?



菊丸には少し融通の利かないところがあり、

たとえ友人同士の児戯であっても規則を厳守するため

面倒臭い奴としてよく煙たがれてきたものだ。

その上喧嘩っ早いところがあり、腕っ節が強いので

近所の童を泣かせて帰ってくることが多かった。

まあ弱き者に威張り散らしていたわけではないので、

彼なりの正義あっての行動だったのだろう。


六花は菊丸より柔軟な物腰をしているとはいえ、

夢見がちな性格が甚大な被害を招いたことがある。

一時期、彼女は詩歌を詠むのに夢中になり、

自分でも一筆仕上げてみたものの納得がいかず、

作品を燃やして隠滅を企てたのだ。

その結果、安土家別邸は完全に焼け落ちてしまった。

死者が出なかったのは不幸中の幸いとはいえ、

この火事で貴重な資料を失ってしまったのは痛い。

あの場所には、妖怪となった安土桃之進に関する

詳細な記録が収められていたのだから。


まあ、その他にも色々とやらかしてくれた2人だが、

これからは責任ある大人として生きてゆくのである。


本当に大丈夫だろうか?



「父上、俺はギャンブラーになりとうございます」

「私はモンスターハンターとして生きてゆきます」


「菊丸、六花よ

 今なんと申したのだ?

 なんだ、その…………なんだ?」


「父上は快く思わないでしょうが、

 それが俺の性分であり、ライフワークなのです

 どうかわがままをお許しいただきたく存じます」


「んんん……

 うむ、よくわからぬが許そう

 お前はお前の望む通りに生きるがよい」


「ハハア!

 ありがたき幸せ!」


「して、六花よ

 お前のその、それはどういう……」


「私も安土の家に生まれた者として、

 家業の1つである妖怪退治をしてみたいのです

 しかし残念ながら私は非力な女であるがゆえ、

 刀や槍を振り回すような戦いには向きませぬ

 ……そ・こ・で!

 陰陽術の出番というわけでございます

 それならば腕力に頼らずとも敵と渡り合えます

 なのでどうか父上、

 私に陰陽術を学ぶ機会をお与えください

 できればコーチは安倍晴明様でお願いします」


「むむむ、六花が陰陽術を……

 いや、しかしそれは……まさか、そんな……」


輝夜が言い残した予言が頭をよぎる。

六花が陰陽術に興味を持つだけならまだしも、

わざわざ安倍家の下で修行をしたがるとは……。

『こおち』の意味はわからないが、

おそらく師匠を指名したということだろう。


「輝夜母様が生前に仰っていたのです

 そうすれば素敵な出会いが待っている、と……

 相手が誰なのかまでは教えてくれませんでしたが、

 私はその言葉を疑ったことはございません

 やはり、あの人には未来が視えていたのですから」


「ぬっ、またそのようなことを申すか

 拙者も輝夜殿の言葉を少しだけ信じていたが、

 予言は外れてしまったではないか

 拙者の妻は決して財産目当ての女狐などではない

 美しく、教養があり、礼儀を弁え、優しい女だ

 彼女にあづちやの経営を任せたのは、

 輝夜殿の予言に従ったからでは断じてない

 この拙者が、そうするのが正しいと判断したのだ」


「父上、それこそ──」


反論しようとした六花の肩に手が置かれ、

振り向けば菊丸が苦笑いしながら首を横に振る。

伝えない方がいい真実もあるということだ。


「父上、確認しておきたいのですが、

 ニルヴァーナ……輝夜母様の遺骨で作った杖は、

 現在は保管庫にあるのですか?」


「うむ、危険な呪物というわけではないが、

 何かしらの術が込められている代物だからな

 とりあえず安土家で保管しておくべきだろう」


「いずれどこかの神社に奉納するという約束を

 くれぐれもお忘れにならぬよう、お願いしますね」


「約束か……

 うむ、いいだろう

 万が一そんな神社が建てられた暁には、

 その時こそ輝夜殿の予言を信じることにしよう」


こうして時は未来へと進む──。

基本情報

氏名:鬼島 輝夜 (きじま かぐや)

性別:女

サイズ:AAA

享年:25歳 (3月30日生まれ)

身長:151cm

体重:36kg

血液型:O型

アルカナ:運命の輪

属性:無

武器:未来を切り拓く意志 (熱いスピリッツ)


能力評価 (7段階)

力:1

速:4

技:10

呪:25

制:10

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ