朧満月
ダンジョンの前までやってきた桃之進は、
今回の護衛対象となるMr.Xと対面する。
彼は自身を取り囲んでいた大勢の武士を掻き分け、
童のように目を輝かせて言い放った。
「さあ、早く案内するでおじゃる!」
そこには烏帽子を被った男が1人。
顔面は白く、眉毛は半分ほどしかなく、口紅を塗り、
パチンパチンと扇子を開閉しているその男は、
絵に描いたような麻呂だった。
(絵に描いたような麻呂じゃねえか……!!)
大河ドラマでしか見たことのないそれを生で拝み、
桃之進は不覚にも少し感動してしまった。
そして笑いを堪えるのに必死だった。
「兄上、このお方が本日の護衛対象であらせられる
安倍晴明様にございます
くれぐれも失礼の無いようにいただきたく存じます
なんでも、あの安倍晴明の流れを汲む家系だとかで、
陰陽術を用いての妖怪退治に関しましては、
安土家よりも古い歴史を誇る一族だということを
ゆめゆめ忘れぬように……」
(自称安倍晴明の子孫の麻呂ときたか……)
「なんでそんな奴が護衛を必要としてるんだ?
俺たちより格上の実力者なんだろ?
そもそも護衛なら間に合ってるように見えるが、
あの連中はただの飾りなのか?」
「兄上、早速……!!
(小声で)要人の御前ですぞ!
そのような軽い口調は控えるべきかと……!」
「ああ、そうだったな
(咳払い)
……して、桜之進
本日の目的を申してみよ
これだけの大所帯で物見遊山に来たのではあるまい
武士たちは皆、甲冑に身を包んでおる
まるでこれから合戦でも始めようかという、
物々しい気配に満ちておる
あの者たちは一体何を企んでおるのだ?」
「それが、どうも晴明様は実戦経験が無いようで、
他の血縁者たちから軟弱者と呼ばれているそうです
実績を積めば悪評を覆せるとでも思ったのでしょう
そしてこれは拙者の憶測にすぎませぬが、
兄上をこの場に呼び寄せた理由は、
安倍家の実力を安土家に知らしめるためかと……
きっと兄上の武勇伝をどこかで耳にしたのでしょう
それで危機感を覚えてしまったのではないかと」
(自称安倍晴明の子孫で、親戚から軟弱者扱いされ、
実際1人では戦えない軟弱者で、
家柄マウントを取りたがる麻呂というわけか)
「面倒臭い奴だな」
「兄上……!!」
総勢48名の一団がダンジョン……
否、妖怪の巣へと討ち入る。
余談ではあるが、この時代にそのような場所は
全国で21ヶ所しか確認されていなかったと云ふ。
ここ山城国に存在する妖怪の巣もその1つであり、
当時はまだ個別の名など与えられていなかった。
この場所が“無間”と呼ばれるようになったのは、
この日の出来事から実に3世紀以上も後の話である。
「ほほう!
これが妖怪の巣の内部であるか!
中はこんなふうになっておったのじゃな!
見よ! そして目に焼き付けよ、お前たち!
明かりを消せい! 壁が光っておるわ!
麻呂の呪力に反応しておるようじゃ!
なんとも不思議な空間よのう!」
麻呂がご満悦そうで何よりだ。
紙と筆を構えていた数名が記録を取り始めるが、
彼らは目を細めており、とても書きづらそうだ。
全ての光源を断つべきではなかったのだ。
「ええい、何をモタモタしておるか!
明かりが欲しければ壁に近寄ればよかろう!」
「しかし、殿!
壁が反応しません!
それも、拙者だけではございません!
どうやら光る者と光らない者がいるようです!」
「ほうほう、ふむふむ……
よし、わかったぞ
壁を光らせることができる者たちには、
生まれつき呪力が備わっておるのじゃろう
ただ、その扱い方を知らぬだけなのじゃ
麻呂のように陰陽師の家系に生まれた者ならば
幼い頃から呪力の扱い方を学ぶことができるが、
そうでない者たちにとっては無縁の話じゃからな」
「おおっ、しっかり勉強なされてきたのですね!
ご隠居様から聞かされていた通りの内容です!」
「麻呂を謀ったでおじゃるか!?
許さんぞ貴様ら!!」
「まあまあ、落ち着いてくだされ」
「今のやり取りのおかげで我々は安心しましたよ」
「ようやくやる気になってくれたようで何よりです」
「殿が怒っても迫力に欠けるでござるな」
「さあ、心して先へ参りましょう」
「う、うむ……」
家来からいいように弄ばれている麻呂を見て、
アットホームな職場だなあと思う桃之進であった。
第1層では一切戦闘を行わなかった。
というのも、この時代の国内に点在するダンジョンは
比較的平和であり、魔物の数が非常に少なかった。
一応道中で何度も魔物と遭遇していたのだが、
桃之進以外はそれがスライムの前身であることを
誰一人として知らなかったのである。
天井から壁を伝う黒い粘液……それがそうなのだ。
地図を見ながら先頭を歩いていた家来が足を止め、
東西南北に通路が伸びていることを確認してから
麻呂に情報提供を行なった。
「さあ、殿
ここからが本番ですよ
記録によれば、この階層には
骸の剣士が出現するとのこと
合戦で命を落とした兵共が成仏できず、
妖怪となってこの地に蘇った者たちでございます」
というのが当時の見解だった。
まあ、彼らがそう勘違いしてしまうのも仕方ない。
後にソードスケルトンと名付けられるその魔物は
合戦の跡地周辺にあるダンジョンでよく出現し、
刀を振り回しながら集団で襲い掛かってくるのだ。
雑兵の亡霊だと思ってしまうのも頷けるだろう。
ちなみに海外版はロングソードやサーベルなど、
持っている武器が地域毎に異なるという特徴がある。
「おっ、早速お出ましですぞ!
皆の者!! 殿を囲めえぇい!!
殿には指一本触れさせるな!!」
「「「 ハハアッ!! 」」」
大柄で髭面の彼が家来のリーダーなのだろう。
他の武士たちは命令に従って速やかに円陣を組み、
各々の武器を構えて骸の剣士との戦闘に備えた。
そして最初の1匹が北方向から襲い掛かり、
家来リーダーは野太刀を豪快に振って迎撃。
すると敵はバラバラの白骨となり壁に打ちつけられ、
これにて戦闘終了──とはならなかった。
「なっ……何ぃ!?」
地面に散らばった白骨がふわりと宙に浮き、
バラバラになる前の姿へと再構築を果たす。
復活──スケルトン系の種族が持つ再生能力である。
「こやつ……蘇りおったぞ!!」
「なんという執念であろうか……!」
「この世への未練が残っておるのだろうな……」
当時の人間にはそうとしか見えない。
桃之進も未来のテレビ番組で情報を得るまでは、
そういうものなのだと思考停止していたくらいだ。
頭蓋骨を破壊するか、魔法ダメージでトドメを刺せば
復活されずに済むのだが、その答えを知る桃之進は
とりあえず口を閉じて成り行きを見守ることにした。
その戦闘はしばらく続いた。
最初の1匹に手こずっているうちに他の方向からも
骸の剣士が出現し、気づけば彼らは包囲されていた。
北側は家来リーダーが指揮を執り、東側は桜之進、
南側は桃之進、西側はその他大勢という布陣で
中央の麻呂を防衛する戦いへと発展したのだ。
「ふんぬっ!!」「せいやっ!!」「とりゃあ!!」
そんな掛け声が大合唱する中、
麻呂はガクガクと震えながら地面で丸まっていた。
「殿ぉ!!
しっかりしてくだされぇ!!
今こそ陰陽術の見せ場ですぞぉ!!」
その通り。
この魔物は攻撃魔法で蹴散らすのがセオリーなのだ。
……なのだが、麻呂は涙と鼻水を垂らしながら
プルプルと首を横に振って拒否するのだった。
まごうことなき軟弱者のあるべき姿である。
(やれやれ、しょうがないな
安倍家の実力とやらを見せてもらいたかったが、
このまま長引かせたら怪我人が出てしまうだろう)
桃之進は中央へ移動し、刀を強く地面に突き立てた。
麻呂が「ヒイィっ!!」と情けない悲鳴を上げたが、
べつに驚かせようとしたわけではない。
「聞け、皆の者!!
この妖怪共に対して刀や槍は有効ではない!!
俺はこれから周囲一帯の呪力を調整し、
陰陽術を使いやすくなるよう支援する!!
よって、心得がある者は陰陽術を使うがよい!!」
そう言い放つと桃之進は深い瞑想状態に入った。
安土流陰陽術奥義・十六夜。
自身の魔法攻撃力を味方全体に上乗せし、
消費MPを大幅に軽減させるだけでなく、
魔物討伐時にMPを回復する効果を与える補助魔法。
後衛を活躍させたい時に最適の、雅な陰陽術である。
「ハアアッ!!」
桜之進は顔の前で右手をピンと立て、
左の掌から小さな火球を発射した。
直撃を受けた敵は骨を撒き散らしながら吹き飛び、
そして、しばらく経っても再生活動を始めない。
ようやく骸の剣士を1匹仕留めたのだ。
「おおおっ!?」「やったでござる!!」
「くうっ、拙者にも術が使えれば……!!」
「ハアッ!! ハアッ!! ハアアッ!!」
念仏を唱える坊さんのようなスタイルで、
桜之進は矢継ぎ早に火球を連射する。
1発放つ毎に敵が1匹ずつ処理されてゆくので
一撃必殺のファイヤーボールと言いたいところだが、
実はソードスケルトンが弱いだけである。
ただでさえスケルトン系で最弱ランクなのに加え、
炎属性が弱点なのでダメージの通りがいいのだ。
(他に魔法を使える奴はいない、か……
まあ、時代が時代だから仕方ないことだが……
しかし、せっかくお膳立てしてやったのに
全然戦おうとしないな、こいつ……)
本当は桃之進の剣術だけで楽に全滅させられるが、
今回は格上である安倍家の面子を潰さないためにも
寛大な心で接待してやるつもりでいた。
が、このザマである。
安土兄弟による華麗なコンビネーションを発揮し、
経験の差を見せつける結果となってしまった。
男たちが茣蓙の上で酒を呑み交わしている。
それは麻呂の初勝利を祝うために用意された酒だが、
安倍家の家来たちは桜之進を褒め称えていた。
まあ、当然だ。
MP管理の重要性を理解していない彼らからすれば、
桜之進が1人で敵を全滅させたように見えたのだから。
「ははは、実にお見事でしたぞ桜之進殿!」
「桜之進殿がいれば、この地の平和は安泰ですな!」
「拙者は仕える主人を間違えたでござるよ」
「どこぞのバカ殿にも見習わせてやりたいですな!」
酒のせい。
酒のせいで本音が駄々漏れになっているだけだ。
そんな部下たちの正直な感想を間近で聞かされ、
麻呂は玄室の隅まで移動してシクシクと泣いた。
いつもならセンチメンタルな男を見かけても
全く気にしない桃之進だが、この時は違った。
麻呂の抱える孤独が少しだけ理解できたのだ。
「晴明殿、よろしいですかな?」
「なんじゃお主……
慰めの言葉などいらないでおじゃる
麻呂は酒が呑みたいでおじゃるよ
あの酒は麻呂が呑むはずだったでおじゃる……」
「いえ、晴明殿に今必要なのは
慰めの言葉でも、酒でもございません
強さです
あの者たちを見返したくば、
あなた自身が強くなるしかありません」
「何を言い出すかと思えば……
そんなの無理に決まっておろう
麻呂は昔から何をやっても駄目な奴で、
一族の面汚しと言われて育ってきたのじゃ
そして、それはやはり当たっておった
お主も見たであろう、麻呂の情けない姿を
どうしようもなく臆病で意気地無しの軟弱者……
それが麻呂なのでおじゃるよ」
「それを解決する術がこちらです」
と、桃之進は麻呂の肩にポンと手を置いた。
すると麻呂は目と口を大きく開き、
自分の中である変化が起きているのだと実感する。
「おっ、おっ……おおっ???
なんじゃこれは……
全身に力がみなぎってきよるではないか!?
お主、麻呂に一体何をしたでおじゃるか!?」
「まあ、一時的に身体能力や呪力を向上させる術です
術式に対する理解力も高まっているはずなので、
効果が切れないうちにご自身の状態をよく分析し、
いつでも再現できるように学習なさるべきかと
……ただし、誰にでも使えるわけではございません
習得できるかどうかは個人の才能によります」
「能力を向上……
ほほう、なんと素晴らしい術じゃ!
元気が湧いてきたでおじゃるよ!
頑張って習得してみるでおじゃる!」
5分後、麻呂は全能力を強化する術をモノにした。
10分後、桃之進はちょっと後悔していた。
麻呂が元気になりすぎたのである。
「きえぇぇぇい!!」
麻呂の突き出した両手から吹雪が巻き起こる。
場所は第3層。
そこには人魂と呼ばれる妖怪が跋扈していた。
物理攻撃が全く効かない難敵であり、
桜之進の火球も通じず、これには皆お手上げだった。
桃之進の無属性攻撃魔法で処理することは可能だが、
それは最後の切り札であり、消耗が激しすぎる。
何がなんでも倒さなければならない敵ではないし、
この場は引き上げるのが得策だろう。
そういう流れをぶち壊したのが麻呂である。
汚名返上のチャンスだとでも思ったのだろう。
実際、麻呂の攻撃は完全に敵の弱点を突いていた。
後にジェリーと呼ばれるその魔物は氷属性に弱く、
麻呂が唯一使用可能な攻撃魔法が合致していたのだ。
「むほほほほ!!
どうじゃ見たかお主らよ!!
これが麻呂の実力でおじゃる!!
もう面と向かって『バカ殿』などと言わせぬぞ!!
陰でそう呼ぶのならばともかく!!」
「おお、殿があれほどの実力者だったとは……」
「あんなにも勇ましいお姿は初めて見ましたぞ」
「陰口を許す寛大な心をお持ちのようで何よりです」
「ほっほっほっ!!
きえぇぇぇい!!
ほれ、ほれ、ほれぇぇぇい!!」
家来から褒められて、ますます麻呂は調子づく。
危険な流れだ。
「晴明殿、そろそろ切り上げるべきかと存じます
その強化はあくまで一時的なものですし、
あまりに長時間その状態に慣れてしまいますと、
効果が切れた際に強い倦怠感が襲い掛かるのです」
「ならば効果が切れる前に上書きすればよかろう!
お主が麻呂の術力を回復し続けてくれる限り、
麻呂は強い麻呂のままでいられるのでおじゃる!」
「それは危険な考えです
いくら消耗した術力を回復させようと、
術力と共に体力も消耗しているのです
短時間で大量に術力を消耗し続ければ、
先にお体の方が参ってしまいますよ」
「むむぅ、そんな落とし穴があったのじゃな
じゃがもう少し、もう少しだけ……
こんなに気分が良いのは久しぶりなのじゃ
それに、家来たちも大層喜んでおる
あの者らにはもっと笑ってもらいたいでおじゃる
わがままな願いであることは重々承知しておるが、
どうかもう少しだけ先へと進ませてはくれぬか?」
「う〜む……」
根は悪い奴ではないのだが……。
と悩んでいると、赤ら顔の桜之進が割り込んできた。
「兄上!
いいじゃないですか、もう少しくらい!
依頼人がそうしたがってるんです!
行かせてやりましょう!
拙者たちがついているのだし、
危険なことなんて何もありませんよ!」
「桜之進、お前なあ……
ベロンベロンに酔っ払ってる奴に、
指揮なんて執らせたくないのだが……」
だが安倍家の家来たちも先へ進みたがっており、
1対47の多数決により桃之進の意見は否決された。
第4層。
「な、なんだ!?
辺りが急に暗くなったぞ……!!」
「ここの壁は光らないのか!?」
「明かりだ! 明かりを持て!」
ダークゾーン。
通常の壁とは違う材質で出来ているため、
魔力で周囲を照らすことができないエリアだ!
懐中電灯やランタンなどの光源があると便利だぞ!
「う、うわああああっ!!」
「なんだこの床はあああ!?」
「まわっ、目が回るでござるううう!!」
回転床。
その名の通り、回転する床だよ!
方向感覚を見失わせるトラップなので要注意だ!
もし引っ掛かったら、落ち着いて地図を見よう!
「ひええええっ!!」
「ぶつかるううう!!」
「ツルツル滑るでござるううう!!」
強制移動マス。
乗ったら最後、終点に着くまで止まらないよ!
このトラップ単体での危険度は低いものの、
行き先でたくさんの魔物が待っていたら大変だね!
「あっ……」
「やばっ……」
「おおっと!!」
落とし穴。
強制的に下のフロアへと移動させられるトラップだ!
「あ……これはマジでヤバい
桜之進!!
今ここにいる奴は何人だ!?」
「えっ、とぉ……
麻呂が1人、麻呂が2人……」
「もういい!!
おい、全員集まれ!!
何人落ちたのか把握する必要がある!!
足元をよく見て、滑る床は踏むなよ!!」
桃之進の剣幕に気圧され、男たちが集合する。
数えた結果、落とし穴に引っ掛かったのは
3人であると判明した。
その中に麻呂は含まれていないので
今回の護衛任務が失敗したというわけではないが、
だからといって彼らを放置するわけにはいかない。
「縄だ!!
縄を垂らせ!!
俺が下へ行って拾ってくる!!
他の連中はここで待機だ!!」
第5層──最奥部。
現場に到着した桃之進は2人と合流。
しかし落ちたのは3人。1人足りない。
「おい、大丈夫か?
もう1人はどこへ行った?」
「ううっ……
落ちた先が泥濘であったとはいえ、
足をやられてしまったでござる……」
「残りの1人は拙者たちの上に落ちてきて、
そのおかげで無事に済んだのだ
無闇に動き回らない方がよいと忠告したのだが、
あやつは『上に戻る方法を探してくる』と……」
「そうか、わかった
とりあえずお前たちを引き上げさせる」
そう言い、2人まとめて縄で縛り上げ、
上で待機している者たちに合図を出した。
すると怪我人2人はゆっくりと上昇してゆき、
これでひとまず安心といったところか。
「兄上ぇー!!
無事、保護しましたぞー!!」
「了解したー!!
俺はあと1人を探してくるー!!
ほどなくして彼を発見することができた。
……のだが、いい状況とは言えなかった。
べつに魔物にやられていたとか、そんなことはない。
その男は不思議な物体の前に立っており、
とても物珍しそうな顔でそれを眺めていたのだ。
それは高さ2mほどの白く光る土筆であり、
500年後の未来ではこう呼ばれている。
“ダンジョンコア”と──。
「おい待て、それに触る──」
桃之進の制止は間に合わず、男はそれを斬った。
後日、彼を問いただしてみたところ、
松明の代わりになると思ってやってしまったらしい。
ゴゴ、ゴゴゴ……。
地面が揺れる。
「じ、地震だ!!」
男は慌てふためき、
「おい、こっちへ来い!!」
桃之進は的確な指示を出す。
ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴ……!!
パラッ……ガラガラガラ……!!
地面が激しく揺れ、壁や天井の一部が崩れてゆく。
ダンジョンが崩壊現象を開始したのだ。
「ひええええっ!!
南無阿弥陀仏!!
南無阿弥陀仏!!」
「祈ってる場合じゃない!!
さっさと縄に掴まれ!!
脱出に間に合わなくなるぞ!」
桃之進は怯える男に無理矢理縄を握らせ、
自身も縄の余っている部分を掴んだ。
……が、その手を離して叫ぶ。
「桜之進!!!
引き上げろ!!!」
桃之進は背後で男が引き上げられるのを確認し、
黒薔薇の装飾が施された刀を抜いて構えた。
「兄上ぇーーー!!!
あとは兄上だけですぞぉーーー!!!
早く縄を掴んでくだされぇーーー!!!」
そうしたいのは山々だが、
桃之進にはそうできない事情があった。
「お前らは先に脱出しろ!!!
俺はこいつらを片付けてから行く!!!」
「えっ、兄上……!!!
まさか妖怪と戦っているのですか!!!
それならば拙者たちも助太刀いたしますぞ!!!」
「来るな!!!
行け!!!
早く!!!」
桜之進は暗い穴底を見つめながら葛藤した。
この下では兄が1人で妖怪共と戦っている。
あの人の強さならば、どんな敵が相手でも
負けることはまずあり得ないだろう。
だが、この地震で瓦礫に埋もれてしまったら……。
「桜之進!!!
お前まさか、まだそこにいないだろうな!!!
もしいたら本気で怒るぞ!!!
その上で言わせてもらうが、務めを果たせ!!!
安倍家の連中を全員無事に脱出させろ!!!
あとは任せたからな!!!」
「あっ、あにうえぇ……っ」
「それから輝夜に──」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
一層揺れが激しくなり、続きは聞き取れなかった。
しかし、桜之進には兄が何を言おうとしていたのか、
なぜ今その名前を口にしたのか察しがついた。
突如、穴底に光の塊が発生する。
それは青白い球体であり、満月のようにも見えた。
呪力によって生み出された物で間違いないが、
攻撃術特有の荒々しい感じはしない。
むしろそれを見ていると穏やかな気分にもなる。
そして、妖怪がそれを作り出したのではない。
桜之進はその満月に兄の気配を感じていた。
初めて目にする術だが、あれは確かに兄の術なのだ。
やはりあの人は天才だ。
この土壇場で新たな術を完成させたのだから。
安土流陰陽術最終奥義・朧満月。
術者本人に全能力強化とHP自動回復を付与し、
敵対者に全能力弱体と継続的なMPダメージを、
更には混乱と睡眠の状態異常を与える補助魔法だ。
ただの光源としての使い道にも期待できる。
まあ細かいことは抜きにして、
見た目が美しいという点が最大の特徴とも言える。
その色鮮やかさたるや、誠雅也。
安土桃之進が後世に遺した最悪の置き土産である。
基本情報
氏名:安土 桃之進 (あづち もものしん)
性別:男
享年:19歳 (9月6日生まれ)
身長:165cm
体重:55kg
血液型:O型
アルカナ:月
属性:無
武器:黒薔薇 (妖刀)
防具:雅 (衣装)
能力評価 (7段階)
力:9
速:9
技:9
呪:9
制:9




