後継者
少年がこちらに向かって刀を振ると画面が揺れる。
見えない斬撃を喰らってダメージを受けたのだ。
撮影者は少年に近づこうとするが少年は後退し、
そしてまた見えない斬撃を飛ばして画面が揺れる。
少年は安土流剣術奥義・剣風を撮影者に当て、
少し後退してはまた当てる、の作業を繰り返す。
いわゆる“引き撃ち”と呼ばれる戦術だ。
「セコいやり方じゃのう……」
「だが、今までで一番期待できるぞ
ダーク安土も同じ技術を持っているはずだが、
ライト安土の方が射程距離で勝っているのだ
だから一方的な展開になっているのだ
このリズムを維持すれば勝てるぞ……
しかも、ノーダメージで……!」
絵面は地味だが、桃之進は興奮していた。
どんなに退屈な戦術だとしても勝てればいいのだ。
苦節5年、とうとう願いが成就するかもしれない。
ライト安土の勝利──
「……何ぃ!?」
その時、撮影者が高速で移動したかと思えば
再び高速移動して、少年のドアップが映し出される。
撮影者は少年に近づくための移動手段として、
安土流剣術奥義・轍を連続で使用したのだ。
「くそっ、その手があったか!!」
桃之進は一瞬勝利を諦めかけるも、
少年はこの状況に対応する動きを見せた。
画面から少年が突然消え、撮影者が振り向くと
少年は見えない斬撃を飛ばして画面を揺らした。
窮地からの脱出、そこから反撃を成功させたのだ。
「おおっ、やりおる!
あやつは逃げるための移動手段として、
敵と同じ技術を応用したのか!
なかなか機転が利くじゃあないか!
しかも、やはり距離で勝っておるときた!
これなら負けることはない!」
「儂は画面酔いしそうなんじゃが……
これが剣士の見ている世界なのかえ?
まったく目まぐるしいのう」
そしてまた少年の引き撃ちが開始され、
撮影者が急接近したら少年が逃げて……の繰り返し。
やはり地味な絵面だが、期待感は大きい。
「しかし、桃之進殿……
この黒薔薇の持ち主は本当に人間なのか?
クリーンヒットを何発も貰っておるというに、
全く動きが衰えぬのはおかしいであろう」
「それは俺も気になっているところではあるが、
おそらくとんでもなく硬い鎧を着ているのだろう
何百年後かはわからぬが、未来の戦闘風景なのだ
そのような防具が存在していてもおかしくない」
「ならばライト安土ズも硬い鎧を着ればよかろう
あの中でまともな鎧を着ているのは
髑髏ちゃんだけではないか
……まあ、全然守備力が役に立ってはおらぬが」
「まさにそれだ
黒薔薇の攻撃力の前では、
どんなに防御力を高めたところで無意味なのだ
これは以前にも話したことがあるが、
俺が斬撃を飛ばせるようになったのは
首切姫をこの手にした瞬間からだ
過去の使い手からスキルを継承した……
そういう実感があったのを確かに覚えている
そして、黒薔薇と首切姫は同じ系統の妖刀なのだ
もし俺の予測が正しければ、
黒薔薇はステータスを継承する妖刀なのであろう
それならばダーク安土のチート火力の説明がつく」
「つまり事前にその情報が出回っていて、
5人中4人が回避率重視の軽い装備なのじゃな?
髑髏ちゃんは……まあ、趣味で着ておるのじゃろ
そしてダーク安土のチート火力については
桃之進殿が強くなりすぎたのが原因で、
それでライト安土ズは苦戦しておるのじゃな?」
「ははは、許せ」
「それやめい!!」
その瞬間、画面がほとんど真っ暗になる。
直後、激しく揺れ出し、耳を劈かんばかりの音量で
けたたましい悲鳴のような轟音が鳴り響いた。
「な、なんじゃ……!?」
「あ〜、あやつはこれも使えるのか……」
桃之進は眉間を指でつまみ、ガックリと項垂れる。
何がなんだかわからない様子の輝夜は、
とりあえず画面から目を離さないようにした。
しばらくすると画面が明るさを取り戻し、
そこには地面に片膝を突きながらも、刀を杖にして
立ち上がろうとする少年の姿が映し出されていた。
だが少年が体勢を整えるより早く、
黒薔薇の主は標的への急接近を成功させ、
安土流剣術究極奥義・剣嵐を繰り出したのだ。
少年は死んだ。
「……」
「……」
唖然とする輝夜。
茶菓子をつまむ桃之進。
「いや、解説が欲しいのじゃが」
「ん、今のうるさい技か?
まあ技ではなく術……未来風に言えば魔法だがな
全MPを消費して大ダメージを与える攻撃魔法だ
剣では勝てぬと悟り、博打に出たのだろう
一応俺にとって最後の切り札でもあるのだが、
使うのは本当に追い込まれた時だけと決めておる
滅茶苦茶疲れて、全く動けなくなるのでな」
「じゃが、ダーク安土は平然としておったぞ?
しかも直後に超必殺技まで使いおったぞ?
あやつのスタミナ管理は一体どうなっておる……」
「まったく化け物じみた奴で困ったものよのう
とても人間とは思えん強さでかなわぬよ
……だが、こやつに勝たねばならぬ
あの少年には何がなんでも勝ってほしい
そのためには俺がもっともっと強くなり、
持てる技術の全てを少年に継承させるしかない」
「そのぶんダーク安土まで強くなるのじゃが……」
「それでもやるしかなかろう
勝てる見込みがあるのは、あの少年たちだけなのだ
あやつ以前の挑戦者たちには全く期待できん
なんというか……スキルの熟練度が低いのだ
スキルレベルが1の奴ばかりなのだ!
しかも首切姫を持ってきていないときた!
黒薔薇と渡り合える唯一の武器を装備していない!
『もし回収できなくなったらどうしよう……』、
そんな心の甘えが透けて見えるのだ!!
だが、あの少年は違う……
あやつこそが俺たちの熱いスピリッツを受け継ぐ、
首切姫の真の後継者であると言えよう」
「その台詞を何度聞いたことやら……
まあ、儂もあやつの勝利を願っておる
いつか拝めるといいのう
ライト安土ズが未来を切り拓く、その瞬間を」
「うむ」
一度現実世界で栄養補給をした2人は、
再び黒薔薇を通してお茶の間へと移動した。
まあせっかく来たのだからとテレビを付け、
適当なチャンネルに合わせて放置する。
「ところで桃之進殿
儂に首切姫を触らせたくない件はもう諦めたが、
それなら黒薔薇の未来を視るのではいかんのか?」
「何?
それはどういう意味だ?
俺たちは毎日のように視ているではないか」
「とぼけるでない
あんな何百年先だかわからぬ未来ではなくて、
現在から近い未来……儂らの時代から少し先じゃ
それを視ればもっと詳しい情報が得られるし、
儂らがどう生き、どう死ぬのかもわかるであろう
その後、誰の手に黒薔薇が渡るのかも……」
すると桃之進は渋い顔になり、
輝夜から目を逸らして押し黙る。
「あの戦いの映像にしてもそうじゃ
なぜ最後まで見届けてやらんのじゃ?
桃之進殿はいつも同じ場面で切り上げてしまう
もしかしたらヒントがあるかもしれないのに……」
「俺は……
お前が死ぬのを見たくない
どう死ぬかなんて知りたくないのだ
お前とよく似た娘が死ぬ場面も見たくない
わがままな意見だとは理解しているが、
それだけはどうしてもな……」
「桃之進殿……
気持ちはわかる
儂も、あの少年の死に様を何度も目にしておる
桃之進殿とよく似た、あの少年のな……
決して楽しい気分ではない
いつも嫌な思いになる
じゃが、そろそろ手詰まりじゃろ
儂らは視るしかないのじゃ
本気であの悲惨な結末を変えたくば、
そこに至るまでの過程を知るしかないのじゃ
それができるのは儂らしかおらんのじゃ……」
「輝夜……」
しんみりとした空気の中、
テレビから明るいBGMが流れてくる。
そして笑顔の女性タレントが元気良く歌うのだ。
『ブスッと一発グングニル♪
頑固な便秘にクリティカル♪
つまらない女になろう〜♪
Save us !! Safe ass !! すぐ効くもん♪』
その全然空気を読まないCMに不意を突かれ、
2人は下を向いたまま肩を震わせるのだった。
事故再発を防ぐため、CMの無い局に変更してから
真面目な話し合いを再開する。
「やはり、そうするしかないのか……
頭ではわかっていても、それを実行する覚悟が
俺には足りていなかった……
だが、いつまでもわがままを言ってはおれんな
いい加減覚悟を決めねば、未来は変えられぬ」
「うむ、その通りじゃ
儂はとうに覚悟できておる
いつでも始められるぞ」
「明日にしよう」
「このヘタレが!!」
「いや、待ってくれ
この後ダンジョンへ行く予定があるのだ
大した仕事ではないが、すっぽかすことはできない
依頼人の正体は明かされておらぬが、
どうもそれなりに身分の高い者らしくてな
まあ、珍しい場所を観光でもしたくなったのだろう
俺はそのMr.Xの護衛を任されてしまったのだ」
「ふむ……
ならば仕方あるまいな
知りたくない未来を知ってしまった後では、
仕事に集中するのが難しくなるであろう
万が一にでも失敗することは許されぬ
そなたにはこれからもたんまりと稼いでもらい、
儂らを養ってもらわねばならぬからな」
「ふぅ、まったく……」
と言いつつも、満更でもない笑みを溢す桃之進。
輝夜も優しく微笑み、2人は現実世界へと戻った。




