黒薔薇
黒髑髏の鎧に全身を包んだ不気味な戦士が、
大盾を構えながらこちらへ突進してくる。
撮影者は見えない斬撃を飛ばして迎撃を試みる。
しかし最初の一撃は盾を破壊するだけであり、
2発目は鎧に傷を負わせるだけで本体に影響は無い。
髑髏の戦士はそのままの勢いで突進を続け、
撮影者の目の前で壊れた盾を振りかぶった。
画面が揺れ、ゴツゴツした地面が映る。
撮影者はすぐさま体勢を立て直し、
こちらに背中を向ける髑髏の戦士に狙いを定めて
安土流剣術奥義・蠍突きをお見舞いした。
それは兜を貫通し、破損箇所から鮮血が噴き出す。
直後、亜麻色の髪の少女が気を失って倒れる。
仲間の死が相当ショックだったのだろう。
また画面が揺れるが、小さな揺れだ。
どうやら死角から攻撃を受けたらしいが、
あまり大きなダメージは受けなかったようだ。
そして画面は固定されたままである。
敵の位置を確認しないのはあまりにも不自然だが、
おそらく凍結の状態異常を喰らって動けないのだ。
画面に桃之進そっくりの少年が入り込む。
その氷の眼差しの奥底に激しい炎が揺らめく。
そして彼は独特な構えを取って呼吸を整えると、
安土流剣術奥義・双尾の蠍を繰り出した。
画面が激しく揺れる。
「よし!! 完全に入った!!」
桃之進は思わずガッツポーズしながら立ち上がり、
少年の勝利を確信した。
しかし……
画面がより一層激しく荒ぶり出す。
だが攻撃を受けた際の衝撃によるものではなく、
撮影者がカメラを振り回した結果だった。
安土流剣術究極奥義・剣嵐。
剣風の強化版にして安土流剣術最強の戦技。
超高速で四方八方に剣風を放つ雅な乱舞技であり、
特筆すべきはスーパーアーマー付きという点で、
技の最中にダメージを受けても絶対に怯まない。
一度発動したら最後まで出し切ることができるので、
巻き込まれた相手はまず無傷ではいられない。
スタミナ消費が激しいので連発できないのが欠点。
剣風よりも射程距離が短いのも気になるポイントだ。
結果、少年は細切れにされてしまった。
撮影者と13秒間の激しい剣戟を繰り広げた後、
右脚を斬り落とされたのをきっかけに負けたのだ。
「くっ、化け物め……!!
あの攻撃を喰らってなぜ生きていられる……!?
実は画面外で回避していたのか……!?
いや、それより……チャンバラが2秒長引いた!!
確実にレベルアップしている証拠だ!!」
それからは全滅まっしぐらだった。
破廉恥な格好の少女の首が斬られ、
輝夜に似た少女が首切姫を拾い……
そこで桃之進は輝夜にビデオを止めるよう指示し、
黒薔薇の刀に宿る未来の映像を視聴するのをやめた。
「桃之進殿はいっつもここで止めてしまうが、
この先を視なくてもよいのかえ?
何かとんでもないミラクルが起きるやもしれんぞ?
例えば全員HP満タンで生き返ったり……」
「いや、さすがにそれはないだろう
もしもそんな魔法が存在するならば、
あの少年たちは仲間の死を目にしても、
あそこまで強い反応を示さないはずだ」
「そんなもんかのう」
2人は適当な通販番組をBGM代わりにしつつ、
未来の記憶について話し合った。
「しかし、一体何者なんじゃろな?
なぜあやつはいつもダンジョンにおるのか、
どうやって生活しておるのか、謎だらけじゃ
自己紹介でもしてくれればええのじゃが、
一言も声を発しない不気味な奴だしのう」
「おそらくは俺の死後、どこかのタイミングで
安土家から我が愛剣“黒薔薇”を持ち出して、
ダンジョンの奥深くに隠れ住む一族なのだろう
飯やなんかの調達は地上の協力者に任せればよい」
「お主の技が使えるということは、
あの者も安土家の人間なのかえ?
もうそうなら、黒薔薇を盗んだ悪い奴……
さしずめダーク安土一族といったところかのう」
「ならばあの少年は、
黒薔薇を奪い返そうとする良い奴……
ライト安土一族ということになるな
まあ逆である可能性は否めないが、
俺はライト安土一族を支持している」
「儂も同じ気持ちじゃ
もし悪い奴らだったとしても、それは変わらぬ
なにせ儂らと姿形が瓜二つじゃからのう
まず間違いなく儂らの子孫で確定じゃろうて」
「俺とお前の子か……ふふっ」
「なっ……!?
妙な勘違いをするでない馬鹿者!!
そのような意味で言ったのではない!!
安土家の子孫と、鬼島家の子孫じゃ!!」
「これがツンデレというやつか
いいぞ輝夜、もっとやれ」
「ツンデレ言うな!!」
2人は一度現実世界に戻り、お茶を1杯飲んでから
再び未来視空間──“お茶の間”へと移動した。
「して、桃之進殿
儂らには未来についての知識があるわけじゃが、
これを何か面白いことに使えんかのう?」
「もうやらかしてしまっただろう
その結果どうなったかを思い出すがよい
お前が皆の前でムーンウォークを披露した結果、
十二円札と六十円札の存在が歴史から消えたのだ
何がどうしてそうなったのかは見当もつかぬが、
なんにせよ、今の時代にそぐわない行動をすれば
未来の世界が滅茶苦茶になってしまうぞ?」
「そんな中途半端な数字の金券が存在せずとも、
未来の日本では誰も困っておらぬ」
「そういう問題ではない
“何が起こるかわからない”のが怖いのだ
お前がうっかり『西暦』を口走ってしまった結果、
視聴中のアニメで知らん奴が突然レギュラー化し、
初回から見直す羽目になった件を思い出せ」
「それはその、本当にすまんかった……
じゃが、桃之進殿もやらかしておるじゃろ
ライト安土一族を勝利へと導くために、
日々新技の開発に勤しんでおるではないか
その参考資料は黒薔薇で知り得た未来の知識じゃ
ガッツリ未来を書き換えておると思うがのう」
「ははは、許せ」
「軽いなオイ!」
「実際、後世に何かしら影響を与えておるのだろうな
だが俺は妖怪退治を生業としている身だ
強くなければ務まらぬ仕事なのだ
未来の出来事を知っていようがいまいが、
剣の腕を磨くのは当然のことであろう
俺が強くなれば、あの少年も強くなる
それは避けることのできない必然の道理なのだ
まあ、良い影響だと思って目を瞑るしかあるまい」
「そのせいでダーク安土一族も強くなるのじゃが……
あ、そうじゃ
そもそも黒薔薇はよいのかえ?
儂らは教育番組のおかげで知ることができたが、
この時代の日本人は洋バラの存在など知らぬぞ
そんな物をホイホイ見せびらかして平気じゃろか」
「それについてはなんとも言えんな
とりあえず“黒薔薇”の名を知るのは俺たちだけだ
今のところ、周りの連中からすれば
名も知らぬ花の装飾が施された刀に過ぎず、
つい最近まで俺もその程度の認識だった
黙っておれば洋バラの歴史は変わらぬだろう」
「ふむ……?
そういえば黒薔薇が儂を斬った刀ということは、
儂と出会う以前から桃之進殿が持っていたのよな?
洋バラを知らぬというのに洋バラの装飾……?」
「そこが不思議よな
実は黒薔薇も首切姫と同じく出自不明の刀でな、
いつ、どこで、誰が作ったのかさっぱりわからん」
「まさにミステリーよのう」
お茶の間でお茶を飲んだ2人は、尚も会話を続ける。
「首切姫の未来を視れば少年の視点になるじゃろ?
ダーク安土一族の攻略法が見つかるやもしれぬぞ」
「答えはNOだ
お前にあの刀を触らせるわけにはいかぬ
前回は腕を失うだけで済んだが、
また暴走してしまったら命の保証は無い
それに、俺はもうお前を斬りとうないのだ……」
「う、うむ
そうであったな……」
「安心しろ、輝夜
俺たちの子は必ず黒薔薇を取り戻し、
その先の未来へと進めるようになる
俺がその道を切り拓いてやる
首切姫の未来など視ずともな」
「心強い言葉じゃのう
じゃが……『俺たちの子』はやめい!!」
「ははは、照れるな照れるな」
「照れてなどおらん!!」
すると輝夜は照れ隠しのためなのか、
テレビ台の中からある機械を取り出して
速やかに配線作業に取り掛かった。
「ほう、今回はスーファミときたか
であれば、スト2の気分なのであろうな?
ならば飛び道具を使わずに相手をしてやろう」
「魅力的な提案じゃが、早とちりするでない!!
儂は今、マリカーの気分なのじゃ!!」
「クッパは禁止か?」
「クッパは禁止じゃ!!
当然ドンキーもな!!
というかロケットスタートは卑怯じゃ!!
それから赤甲羅を投げるでない!!
あと無敵状態で体当たりしてはならぬ!!」
「やれやれ、注文の多いことで……」
そう言いつつも桃之進は満更でもない笑みを浮かべ、
ピーチを操作して輝夜のマリオに勝利するのだった。




