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進め!魔法学園2  作者: 木こる
未来を切り拓く意志
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剣の王

上半身裸の男が一心不乱に木刀を振り回している。

その一切贅肉の付いていない背中には汗が滴り、

振り向きざまに雫が辺りに飛び散ろうとも

見物している者たちには避けるそぶりがない。

むしろもっと汗を飛ばしてほしいとすら願っており、

鍛錬の邪魔をしないように熱く見守るのだった。


夕焼け雲が黒く染まり始めた頃、

男が木刀を振る手を止めたのを見計らい、

手拭いを持った女が恍惚の表情で駆け寄る。


「ああっ、桃之進様!

 本日の鍛錬をこなすお姿も、

 誠に雅でございました!」


「うむ、そうであろう」


安土桃之進は女から受け取った手拭いで汗を拭き、

それを返された女は大喜びで手拭いに顔をうずめる。

他の女たちは『次は私の番』とでも言いたげであり、

女同士で静かな睨み合いを始めた。


「これこれ、喧嘩はいかんぞ

 俺はお前たちが争う姿など見とうない

 同じ屋根の下で暮らす者同士、

 これからも仲良くやってゆこうではないか」


すると女たちは目から火花を出すのをやめ、

ぎこちない笑顔で隣に立つ者と握手を交わし合う。


(まるで首脳会談だな)


桃之進がフッと笑うと、

女たちの表情が砕けてゆく。

ようやく作り笑いをやめたのだ。


「さて、俺はこれから風呂に入るが、

 その後の輝夜の世話は俺に任せるがよい

 よいか、お前たち……

 決して部屋には近寄るでないぞ

 あの娘は安静にしていなければならぬ」


すると女たちは再びぎこちない笑顔になる。

NGワードを聞いてしまったためである。


「んもう、いけずな人!

 輝夜、輝夜って、最近の桃之進様はそればっかり!

 あの娘が来て以来、ずっと付きっきりやないの!

 わたくしは妬いてしまいますわ!」


「ははは、許せ

 あの娘には誰かの助けが必要なのだ

 言葉通り、手が足りぬ状態であるからな

 そんな体にしてしまった俺には責任がある

 寂しい思いをさせて悪いとは思っておるが、

 どうか俺の立場になって考えてみてほしい」


女は何か反論しようとしていたが、

桃之進から頭をポンポンされるとおとなしくなった。




桃之進は2人分の食事を乗せた盆を廊下に置き、

周囲に誰もいないのを確認してから襖を開けた。


「輝夜、晩飯を持ってきてやったぞ」


「おお、やっと来よったか!

 待ちくたびれたぞ桃之進殿!

 (わし)は腹ペコじゃ、早よ食わせるがよい!」


そこには着物の袖をプラプラと揺らす、

黒髪の似合う美少女の姿があった。

その行為はいわゆる萌え仕草の1つではあるが、

わざとサイズの大きい服を着ているのではない。

彼女の腕が短い……というか、肘から先が無いのだ。


鬼島輝夜。

安土家に残された資料を信じるならば、

今から3ヶ月前に死亡したとされている人物である。

史実と真実は紙一重、似て非なるものだ。

輝夜は桃之進に斬られて死んだのではない。


桃之進は輝夜を首切姫の呪縛から解放するため、

やむを得ず彼女の両腕を斬り落とした。

魔法技術が発達した現代ならば他の選択肢もあるが、

当時の状況ではそれが最善にして唯一の方法だった。

輝夜は大量の出血により死の淵を彷徨っていたが、

迅速な応急手当とその後の手厚い介護により、

かろうじて一命を取り留めることができたのだ。


現在彼女は桃之進の屋敷で療養中の身であり、

体調が安定したら鬼島領へと戻る手筈になっている。

……のだが、鬼島領に住まう者たちからすれば

鬼島輝夜は危険人物として周知されているので、

『戻ってこられても迷惑』というのが本音である。




食事を終えた2人はゴロンと仰向けになり、

しばらく無言のまま特に何もせず時間を潰す。

それが終わると桃之進は上半身を起こし、

無防備な体勢の輝夜に向かって囁いた。


「さて、やるか」

「待てい」


「待ちきれん」

「もう少しだけ待つのじゃ」


「……」

「まったく、今日はもう2回もしたというのに、」

「さあ、待ったぞ」

「せっかちな奴め!」


「よいではないか、よいではないか」

「いやじゃ、いやじゃ」


そんなふうに乳繰り合っていると勢いよく襖が開き、

血相を変えた男が乗り込んできたではないか。


「兄上ぇ!!

 乳繰り合っている場合ではござりませぬぞ!!」


安土桜之進。

桃之進の弟である。


「どうした桜之進、そんなに慌てて……」

「儂らは乳繰り合っていたのではない」


「それが、例の場所から妖怪が出現し、

 城下町の方へ向かっているとの報告が!!

 このままでは、このままでは……っ!!」


「まあ落ち着け、それはどんな妖怪なんだ?」

「決して乳繰り合っていたのではないぞ」


「報告によれば……『岩が歩いている』とのこと!!

 ここまで来る途中で拙者も目にしたでござるが、

 あやつはまさしく、歩く岩そのものでした!!

 あれほど不気味な妖怪は今まで見たことがない!!

 恥ずかしながら、拙者の手には負えませぬ!!」


「ふむ、そうか……」

「断じて乳繰り合ってなどおらぬ」


すると桃之進はスッと立ち上がり、

戦の準備を──と言っても刀を腰に差しただけだが、

とにかく現場に向かう準備を完了した。


「では輝夜、俺は妖怪退治に行ってくる

 帰ったら続きをやるぞ」

「うむ、気をつけるのじゃぞ桃之進殿」


「帰ったら乳繰り合うおつもりなのですね?」


「そうだ」

「違う」




現場に到着した桃之進が目にしたのは、

巨大な岩の塊──現代ではゴーレムと呼ばれる魔物。

基本的にはダンジョンの奥でじっとしているので、

一般市民がその姿を拝む機会はまずない。

が、現に奴はこうして娑婆を出歩いている。

おそらく偶然ダンジョンの入り口付近で発生したのが

ひょっこり出てきてしまったパターンなのだろう。


ゴーレムは武器を持った男たちに取り囲まれており、

しかし、いくら槍や刺股などで突っつかれたところで

その堅牢な守りが破られる気配は一切無かった。


「やれやれ、無駄なことを……」


「あっ、兄上!?

 もしやあの妖怪と戦った経験があるのですか!?」


「いや、実物を見るのは初めてだ

 だがまあ、なんとかなるだろう」


そう言い、桃之進は刀を抜き放つ。

黒薔薇の装飾が施された、実に雅な逸品である。


「桜之進、あの邪魔な男共をどかせ

 女ならば俺の命令を素直に聞いてくれるのだが、

 どうも俺は男から嫌われているみたいでな」


「その傲慢な態度が原因かと

 ……では行って参ります」



ほどなくして桜之進が戻ってくる。

そして男たちはゴーレムから離れた位置へと移動し、

戦士から見物人へと立場を変えたのだった。


「おうおう、兄ちゃんよぅ!

 何がしてえのかわかんねえけど、

 さっさと終わらせてくれよな!

 こっちは町の連中を守るために戦ってんだ!

 あんまり時間かけんじゃねえぞ!」


その言葉に、桃之進はフッと笑って返す。

『任せろ』といったニュアンスだったのだが、

見物人たちを苛立たせる結果になってしまった。

これが男女による反応の違いである。


「兄上、言葉にすればよろしいのでは……?」


弟からのありがたい忠告を無視し、

桃之進は敵に対して少し斜め向きになるように立ち、

刀を口元に寄せて、その刃を真横に寝かせた。


「……って、オイオイオイ!!

 まさかそれでやろうってんじゃねえだろうな!?

 刀なんか役に立たねえよドアホゥ!!

 カッコつけてると死ぬぞ!!」


見物人からの野次も無視し、

桃之進はゴーレムに向かって突き進んだ。



安土流剣術奥義・双尾の(さそり)

“蠍突き”の強化版。

前後から同時に攻撃することで威力が2倍になり、

更に背後からの一撃には奇襲ボーナスが付きやすい。

非常に攻撃力の高い必殺剣ではあるのだが、

オリジナル版と同じ欠点を抱えているのがネック。

戦技使用後の硬直時間まで2倍になってしまうので、

スピーディーさを求められる戦いには向かない。



ともあれ、ゴーレムの討伐が完了した。

ガラガラと音を立てて崩れ去る岩の妖怪を目にして、

見物人たちは現実を直視できる状態ではなかった。


「う、嘘だろおお!?

 あんなでっけえ奴を、た、たった一発で!!」

「しかも刀でやりやがった!!

 一体何者なんだあいつは!?」

「まっ、まぐれに決まってらあ!!

 俺たちが痛めつけといたおかげだ!!」

「そうだ、そうに決まってる!!

 おいしいとこだけ持っていきやがって!!」


そんな野次を飛ばす彼らに向かい、

やはり桃之進はフッと笑って立ち去るのだった。


「いや、だから言葉に…………はあぁ」




無事仕事を終えた桃之進が輝夜の部屋に直行すると、

彼女は布団の上にちょこんと正座して待機していた。

そして両腕を広げて受け入れる意思を示したのだ。

その仕草のなんと愛くるしいことか。


桃之進は本能の赴くままに輝夜を押し倒……さず、

輝夜の千切れた腕に黒薔薇の刀を預けると、

背後から抱きつく形で刀を構えるのをサポートした。


「では始めるぞ」

「うむ」






──暗闇と静寂の世界。

そこに1台のブラウン管テレビが置いてある。

テレビの前には小さな円卓が配置されており、

輝夜はそこからリモコンを取って操作を始める。

もちろん手で、だ。

現在彼女は思念体であり、本体が失った両腕を

この空間では自由に扱うことができる。

桃之進は座布団で胡座(あぐら)をかき、煎餅を齧りながら

輝夜の様子を見守っていた。


しばらくすると画面に変化が訪れる。

砂嵐が徐々におとなしくなり、人影が映し出された。

そして画面の下部分に文字が書いてある。日本語だ。


(もと)(はじめ)総理が辞任を表明』


「むむっ、なんと……!!」

「元元元総理の誕生じゃ!!」


2人は3分ほどそのニュースの話題で盛り上がり、

飽きたのでチャンネルを変えた。

すると歌番組に切り替わったのだが、

感性が合わないので再びチャンネルを回す。


「カラオケを採点する企画の何が面白いんだかな」

「うむ、儂にもさっぱり理解できん」


続いて旅番組が始まる。

だが旅というよりも食べ歩きがメインの内容であり、

“芸能人がご当地グルメを食べてリアクションをする”

という企画の面白さが理解できないので却下だ。


芸能人がゲームをして罰ゲームをする番組。

お笑い芸人が素人に面白いことをさせる番組。

芸能人とお笑い芸人が芸能界クイズに答える番組。

芸能人が最近ハマっている趣味を公開する番組。

素人が投稿した面白映像でお笑い芸人が笑う番組。


「つまらん」

「どんどん質が下がってゆくのう……」


輝夜は残念そうな顔でリモコンを操作し、

ビデオモードに切り替えた。

そしてビデオデッキにカセットを挿入し、

少し巻き戻してから再生ボタンを押す。


「さて、桃之進殿の番じゃな」

「これを待っておった」


しばらく砂嵐が続いた後、映像が安定してくる。

そこに映し出されたのは自分とよく似た顔の少年と、

彼の仲間であろう3人の少女たちの姿であった。

その中には輝夜とよく似た顔の少女が含まれている。

あと1人、髑髏の鎧を着ている人物は性別不明だが、

まあ背丈の高さからして男なのだろう。


桃之進と輝夜は、500年先の記憶を視ているのだ。

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