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5月

学園の皆が安土を持て囃していた裏では、

重大な事件が発生していた。


1年5組の名倉という男子生徒が姿をくらましてから

今日でちょうど1ヶ月になる。

同級生たちは只事ではないと理解していたが、

その話題を避けるようにして過ごしていた。


彼らが冷たいわけではない。

入学直後で親睦を深める前の出来事だったため、

名倉と交流のあった者は誰もいないのである。

薄情な言い方になるが、所詮は赤の他人なのだ。


よく知らない奴の問題。

どこか遠くで起きた事件。

自分には関係の無いイベント。

そんな空気が漂っていた。


捜査で訪れた警察に情報提供を求められても、

正直に「知らない」と答えるしかない。

涙ながらに頭を下げる彼の両親に対しても、

「わからない」と伝えるしかない。


名倉について考えると気まずくなる。

だから考えないようにしていたのだ。


生徒たちはそれでもいい。

実際彼らは何も知らないのだし、

責任を負うべき立場ではないのだから。


しかし大人は違う。

それが学園長ともなれば抱える責任の重さは相当で、

その心労は肉体を蝕む症状となって形に表れる。

精神的な重圧に押し潰されそうになりながらも、

一刻も早い問題解決のために動かねばならない。

責任を果たすには休んでいる暇など無いのだ。


彼は、心の支えとなる何かを必要としていた。


「学園長、それ何本目ですか?

 少し控えた方がよろしいかと……」


呆れ顔の落合訓練官から指摘されるも、

内藤(ないとう)真也(しんや)学園長は()()をやめられなかった。

灰皿にはその残骸が積み上げられており、

また1本、役目を終えたそれが山の一部となる。


どうもそれは最後の1本だったようで、

学園長は苛立った表情で椅子から立ち上がると

部屋の隅にある段ボール箱に手を突っ込み、

回収した小箱をいくつかデスクにぶち撒けた。

そしてその中から1つを拾って包装を剥ぎ取り、

お目当ての心の栄養源を口に咥えながら言い放つ。


「人は何かに依存せずにはいられない生き物なんだ

 そう簡単にやめられるもんじゃない

 俺みたいなのは特にな……

 大体、お前だってコーヒージャンキーじゃないか

 カフェインの摂りすぎは体に良くないぞ」


「糖分摂りすぎてる人には言われたくないっすね」


「もう健康は諦めたから放っとけ」


学園長は口内で棒付きキャンディーを転がしながら、

監視カメラの映像に目を走らせる。


名倉は学園の敷地内で消えたのだ。

それは間違いない。

だが、いつ、どこで消えたのかがわからない。

まるで神隠しにでも遭ったかのように、

なんの手掛かりも残さずにいなくなったのである。


早急な解決が望まれる。






──名倉失踪の件で学園が揺れる中、

1年生には新たな訓練メニューが追加された。


対人戦闘訓練。

いかに日々の基礎訓練で屈強な肉体作りに励もうと、

それを実戦で思うように動かせなければ意味が無い。

闘争心を刺激して戦いに対する心構えを学ばせ、

精神的にも成長してもらおうという狙いもある。


といっても本格的な殴り合いをさせるわけではなく、

スポンジのような柔らかい素材で出来た道具を使って

対戦者同士でポイントを奪い合う安全な競技だ。

魔法を使えるようになった生徒にとっては、

努力の成果をお披露目できる絶好の機会でもある。

言うなれば、魔法学園式スポーツチャンバラである。


かつては学園唯一の行事ということで生徒も訓練官も

真剣に取り組んで大きな盛り上がりを見せていたが、

昨今の生徒数増加に伴い内容が変更されてゆき、

より安全で小規模なものへと生まれ変わっていった。

今ではもう賭け事を行うのは全面禁止されており、

年々この訓練に対する熱は失われてゆくばかりだ。


だが、今年は違った。


しばらく手入れが行き届いてなかった会場は、

当日までに清掃業者が綺麗に仕上げてくれた。

売店にはポテトやコーラ、ポップコーンが並び、

応援用のメガホンなどの売れ行きも好調だ。

そして席を埋め尽くす観客たちの姿。

こんな光景は数年振り……いや、初めてだろう。


観客席が女子で埋まったことなど、

これまで一度も無かった。

しかも座っているのは生徒だけではない。

普段訓練には関わらない教師や学園職員の姿もあり、

更には他校の制服を着た者までそこにはいたのだ。


座る場所が無ければ立ち見を強いられるが、

それを不満に思う者は誰一人としていなかった。

それどころか彼女らは興奮を隠し切れない様子で

名前も知らない隣人と本日の主役について語り合い、

競技の開始を今か今かと心待ちにするのだった。


皆の目的は一致していた。


安土桃太郎はイケメンなのである。




試合は安土の圧勝であっけなく終わってしまったが、

観客たちはホクホクした表情で会場を後にした。

最初から試合の内容などどうでもよかったのだ。

対戦相手の顔も名前も、もう誰も覚えちゃいまい。


彼女らは生の安土桃太郎をその目に焼き付け、

戦いに臨む勇姿を映像に残すことができた。

それだけで充分だろう。


だが忘れないでほしい。

鳩中(はとなか)(けん)は決して弱い生徒ではなかったのだと。

その名に恥じず、彼には剣の才能があったのだと。

同じ条件なら互角の試合ができたかもしれない。

だが、安土とは持っているものが違っていたのだ。


アキレスと亀のパラドックスをご存じだろうか?


足の速いアキレスと足の遅い亀が競争し、

亀にはハンデが与えられて先にスタートできる。

アキレスは亀のいた地点に辿り着くが、

その頃にはもう亀はそこにいない。

アキレスはまた亀のいた地点に辿り着くが、

やはり亀はそこから先へ進んでおり、

アキレスは亀に追いつくことができない。


本日の選手2名はそれに通ずる関係にあった。


先述した話のアキレスを鳩中に置き換えたとすると、

安土もまた、アキレスであった。

それも、遥か先にスタートしたアキレスなのだ。

2人の距離が縮まる日は永遠に来ないだろう。

その上イケメンである。敵うはずもない。

基本情報

氏名:犬飼 杏子 (いぬかい きょうこ)

性別:女

サイズ:L

年齢:16歳 (4月15日生まれ)

身長:140cm

体重:38kg

血液型:AB型

アルカナ:塔

属性:雷

武器:エメラルドソード (短剣)

防具:プリテンダー (盾)

防具:ブラックスワン (衣装)


能力評価 (7段階)

P:2

S:2

T:2

F:4

C:5


登録魔法

・ヒール

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