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進め!魔法学園2  作者: 木こる
屍山血河
48/60

温泉回

夏休みをフライングゲットした神楽は

京都にある鬼島神社、つまり自宅で寛いでいた。

久しぶりの我が家、久しぶりの自分の部屋なのだが、

なんかこう……どうにも落ち着かない。

学園での女子寮暮らしに慣れたせいだろう。


神楽はあまり勤勉な生徒ではなかったが、

サイコメトリーの能力に目覚めたのを機に、

この1年間で努力の大切さを知ることができた。

今は魔法の練習がしたいと思っている。

……のだが、それは止められている。

学園長、落合訓練官、サクラ、安土など色々な人間が

口を揃えて『ゆっくり休め』と念を押してきたのだ。


まあ当然だ。彼らは意地悪で言っているのではない。

神楽は先日の一件でMPポーションを過剰摂取し、

元々疲弊していた状態で大量の魔力を消費したのだ。

その結果、彼女の魔力の流れは不安定な状態となり、

今にも暴走現象を引き起こしそうになっている。


おとなしく従うしかない。

無茶をすれば自身が危険に晒されるばかりか、

心配してくれている者たちにも迷惑がかかる。

今はおとなしく休むのが得策である。


それに腕や脚、背中など、クソガキ2人から

蹴る殴るの暴行を加えられた箇所が痛い。

こちらからは攻撃せず、防御に徹した結果だ。

見た目おっさんのデブは一発ぶん殴ってやったが、

残り2人は完全に小学生なので見逃してやったのだ。


それなのに、あいつらときたら……。

あいつら相手が女だろうが一切手加減しなかった。

男女平等が叫ばれる世の中だが、そうじゃない。

だがまあ、連中が小学生なだけマシだった。

力も弱いし、性欲に目覚める前の生物だからだ。

もしあれが中学生だったらと考えるとゾッとする。



そうやって少しピリピリしていると、

部屋におっさん……否、父が入ってきた。

年頃の娘がいる部屋に、ノックもせずに……。

まあいい、今回だけは許してやろう。次は無い。


「なあ、神楽

 家でゴロゴロするのもいいが、

 せっかく京都にいるんだ

 観光でもしてきたらどうだ?

 綺麗な景色を観て、美味いもん食って、

 温泉にでも浸かれば気分も良くなるってもんだ」


「いや、観光って……

 ここ地元よ?

 たしかに綺麗な景色だなとは思うけれど、

 あたし的には見慣れた近所の風景なわけで……」


「じゃあ景色はいいや

 それなら地元飯はどうだ?

 地元の名物料理を堪能するのも乙だぞ?

 大阪人のソウルフードはたこ焼きだし、

 香川人も毎日うどん食ってるだろ?」


「京都人のソウルフードって何?」


「そりゃ、京懐石だろ」


「それって料亭とかで出るやつでしょ?

 高そうだし、予約とか面倒臭そう

 庶民には無縁の贅沢品って印象しかないわ」


「だからこそだろう

 今のお前には贅沢が必要だ

 体はボロボロだし、ずっと機嫌悪そうにしてるし、

 これじゃ一緒にいる俺たちまで気が滅入っちゃうよ

 とにかく外ぶらついてリフレッシュしてこい!」


と、父から万札を何枚か握らされた神楽は、

半ば追い出される形で自宅を後にした。

まあ、両親も心配していたのだ。

今回の出来事だけが原因ではない。




神楽は小学生の頃、スカートめくりやパンツ下ろし、

ブラ外しなどの悪戯を繰り返す問題児だった。

このままではろくな大人にならないと判断した両親は

厳しい校則で有名な中学校へと通わせることにした。

しかし、そこで後の悪友となる佐倉香織と出会う。


神楽と佐倉はすぐに打ち解け、問題行動を起こす。

校則の厳しさにうんざりした彼女らは反旗を翻し、

放送室を占拠して激しめのロック音源を流したのだ。

そのアーティストのことは何一つ知らないが、

とりあえずレコード店員からおすすめされた一品だ。


若気の至り。体制への反抗。自由の解放。

実に青春ドラマっぽいエピソードではあるが、

他の生徒たちは2人の行動に関心を示さなかった。

音楽の趣味が合わず、ただうるさく感じていたのだ。


心を動かしたのは教師たちである。

古き良き時代のサウンドで若かりし頃を思い出し、

厳しすぎる校則に対して異を唱える者が現れたのだ。

多くの生徒が静観する中、教師たちは分裂した。

保守派と改革派による派閥争いが始まったのである。


学校は荒れた。

校舎の壁や窓ガラスは一面落書きだらけになり、

教師は改造バイクを乗り回し、便所でタバコを吸い、

酒を飲みながら授業を行う者まで現れた。

改革派が勝利したのだ。

生徒らは『あんな大人になってはいけない』と学び、

問題の発端である2人とは関わらないよう過ごした。



魔法の才能に優れていると判定された神楽は

地元から遠く離れた関東魔法学園に通うようになり、

1年目で早速、カンチョー百人斬りをやらかす。

まあ悪戯の延長だし、中学時代に比べればマシだ。

それに入院するほどの反撃を受けて反省している。

と、両親は少し感覚が麻痺していた。


2年目の神楽は問題を起こさなかった。

それどころか学業成績はグングンと急上昇し、

国内最高峰の冒険者と行動を共にするようになった。

6月にダンジョンで倒れたことがあるものの、

何か悪さをしたわけではないのでセーフだ。

娘は心を入れ替えたのだ、と両親は安心していた。


そして3年目。

娘が警察の世話になったとの連絡が来た。

これを心配しない親がいるだろうか?

『今度は一体、何をやらかしたんだ?』と。






──神楽は特に目的も無く街をぶらついていた。

途中、人力車や舞妓さんなどと何度もすれ違い、

改めて地元に戻ってきたのだと実感する。

ここには年中、修学旅行生がうろついているものだが

今は夏休み直前ということもあり、若者が少ない。

各学校の日程にもよるが、1学期が終わってしまえば

また制服を着た若者たちで溢れ返るだろう。


ふと、気になる看板が視界に入る。

“桃之湯”。読み方は『もものゆ』だろう。

桃……桃之……。

どうしても安土家の男たちが頭に浮かぶ。

1人は安土を殺す奴、もう1人は安土に殺される奴だ。


これも何かの縁だと思い、神楽はそこに入った。



その温泉宿はこぢんまりとした外観であり、

看板が無ければ少し広めの民家だと思っただろう。

こんな見た目だし、あまり売れていないのだろうと

期待せずにいた神楽だったが、いざ中へ入ってみると

これがまた全くボロさを感じさせない造りであった。

玄関も廊下も整理整頓が徹底されており、

照明は明るすぎず暗すぎず、壁紙のセンスも良い。

(しまった、高級宿だ)と慌て出す神楽に対し、

仲居さんは優しく微笑みながら語りかけるのだった。


「あら、鬼島はんとこの娘さんやないの

 久しぶりどすなあ

 お元気そうで何よりやわあ

 しばらく見んうちに随分と立派になりましたなあ

 あん時はうちん娘がよう世話んなったねえ……」


「へ?

 あの、ええと……」


「埼玉の学校通うてる聞いたけど、

 こっち来てはるちゅうことはもう夏休みなんやねえ

 さすが都会の学校は進んではりますなあ」


「あ、いや

 これはなんとゆうか……」


「ところで、随分と疲れた顔してはりますなあ

 ほな温泉なんていかがどす?

 うちんボロ宿の湯で満足できるか知らんけど、

 もしよければゆっくりしてってやあ

 娘の知り合いやし、勉強させてもらいますわ」


「それじゃあ、はい

 お言葉に甘えて」


仲居さんがニッコリと笑う。

神楽もニッコリと笑い返す。


歓迎されていないのは百も承知だが、

向こうが誘ってきたのだからしょうがない。

この人が誰の母親なのかは思い出せないが、

なんか値引きしてくれるそうだし、悪い話ではない。




──露天風呂を満喫した神楽は浴衣姿で部屋に戻り、

布団の上でゴロゴロしながらスマホを操作する。

ここ数日は色々あって心休まる時間が無かったが、

1人でのんびりと高級温泉に浸かれたのもあり、

ようやく落ち着いて頭を整理する余裕が生まれた。


安土に伝えなければならない情報がある。

進化したサイコメトリーの性能についてだ。

画面分割や倍速再生の機能が追加された以外に、

もっと重大な発見があったのだ。


前周以前の記憶を読み取れるようになった点である。


もしかしたら最初からできたのかもしれない。

だが、その可能性を考えたことがなかった。

これまで一度も、それを試そうとはしなかったのだ。


ともあれ、これでわかる。

これでやっと知ることができる。

自分たちが把握しておくべき情報……


最期(終わり)の日を。


しかし時計を見ると午前11時半。

学園では今学期最後の授業が行われている頃だ。

邪魔をしては悪い。連絡するのは午後にしよう。

そう思いながらネットの記事を流し読みしていると、

心地良い微睡(まどろ)みが神楽を包み込んでくる。


誘惑に負けてみるのも悪くない。

むしろそうすべきだろう。

与えられたミッションは『ゆっくり休め』だ。

その最優先課題をクリアするに当たって、

これほどまでに最適な環境が他にあるだろうか?

いいや、ない。


そうして神楽は夢の世界へと旅立った。



……はずが、そこは見慣れた風景であった。

ズラリと並んだ座席の列と、そこに座る観客たち。

盛況感を演出するために用意したサクラである。

そのうち2席は神楽と安土の指定席となっており、

他のとは違い、マッサージ機能が備わっている。

座席の合間をミニスカート姿の美少女が歩いている。

軽食やドリンクを提供してくれる売り子さんたちだ。


「って、ここ映画館じゃん

 なんで来ちゃったのかしら……?

 夢…………じゃないわね、これは」


意識ははっきりしている。

現実世界の本体は涎を垂らして眠りこけているが、

これは夢を見ているのではないとの確信がある。

思念体である神楽には、それがわかるのだ。


「『なんで』はこっちの台詞だ

 おい、神楽……

 なんで能力を使った?

 まさかまた緊急事態とやらなのか?

 今度は何をしようとしている……」


「ちょ、ええぇ……???」


困惑するしかない。

サイコメトリーを使った覚えはないし、

安土を呼んだ覚えもない。

というか安土家の歴史に関わるアイテムが無いと、

彼をこの場に招き入れることができないはずだ。

今、何が起きているのかわからない。


「言っとくけど、あたし何もしてないからね!?

 いや、あたしが何かしたのは確実だけど、

 たぶんこれ無意識に能力使っちゃったパターン!!

 あんたに言われた通り、ゆっくり休んでる!!

 温泉に入ったせいで気が緩んじゃったのかも!!」


「温泉……?

 ああ、そういうことか」


イケメン探偵が何かを閃いたようだ。


「お前は今、桃之湯にいる……そうだな?

 俺も昔、その場所を訪れたことがあるんだ

 その時にちょっとした事件が起きてだな……」


「へえ、あんたも来てたんだ

 なるほど、それでかあ〜

 物の記憶だけじゃなく、場所の記憶まで

 読み取れるようになっちゃった感じ?

 にしても事件か……

 これは面白そうな匂いがするわね!」


と、神楽は楽しげに言ってみたのだが、

安土は眉間をつまみ、首を横に振って否定する。


「やめておけ、マジで……

 この記憶は観ない方がいい

 どうにかして上映中止にできないか?

 本体が寝ているとなると難しいとは思うが……」


安土は縋るような表情をしている。

初めて目にする顔である。

彼はそれだけ真剣に警告をしているのだ。

なんにせよ、面白い事件が起きたのではない。



神楽は警告に従って強制終了しようとするが、

やはり本体をどうにかしないと制御ができない。

もう止められない。観るしかない。

たとえ目を覆っても映像の内容を理解してしまう。

思念体である2人には、それがわかってしまうのだ。


「こうなったらもう腹を括るしかないな……

 神楽、先にネタバレしておくぞ

 精神的なショックを緩和するためだ

 きっと、お前にはキツすぎる映像が流れる」


「え、まさかグロ描写あんの……?

 自動的にボカしてくれるといいんだけど……」


「まあ、ある意味グロいかもな

 これからアレルギー持ちである幼稚園児が、

 アナフィラキシーショックを起こして死にかける

 当時の桃之湯は風呂に本物の桃を浮かべていてな

 バラ科アレルギーの少年にとっては毒の海だ

 そこに放り込まれる」


「…………」


神楽は、なんと言えばいいのかわからなかった。

その少年とは安土桃太郎のことで間違いない。

彼は今こうして生きているので、少年は助かる。


しかし、『放り込まれる』?


誰に……?


その答えはなんとなく察していたが、

そうであってほしくないという気持ちがある。

だが、きっとそうなのだろう。


嫌な胸騒ぎを感じつつも、神楽は覚悟を決めた。

ほどなくして上映会が始まる。




──画面には3人の男が映し出されている。

神楽は最初、不機嫌そうに温泉に浸かっている人物が

安土桃太郎の父親であると錯覚した。

顔が瓜二つなのだ、そう思ってしまうのは仕方ない。

しかしそれは勘違いであり、彼は桃太郎の母方の兄、

つまり伯父なのだと教えられた。

可愛い甥っ子に億単位の借金を背負わせる男である。


神楽は幼気(いたいけ)な少年に目をやった。

現在の安土桃太郎とはだいぶ印象が違う。

髪を肩まで伸ばしており、事前情報が無ければ

彼を女の子だと認識していただろう。

少年の表情には見覚えがある。

毒の海を前にして体を震わせている。

これから何が起きるのか知っているかのように……。


少年の隣に立つ男──彼が安土桃太郎の父親である。

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