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進め!魔法学園2  作者: 木こる
屍山血河
43/61

邪悪の化身

第2層にて新種の魔物と遭遇した冒険者たちは、

これまた新種の状態異常である“混乱”の脅威に晒され

撤退を余儀無くされた。


よくあるRPGにおける混乱の効果といえば、

突然味方に襲い掛かったり、敵を回復させたり、

おかしな行動をしてターンを無駄にしたり、と

プレイヤーをいらつかせる要素がてんこ盛りだ。

しかし今回、冒険者たちが現実世界で直面している

混乱の効果は“思考力の低下”。ただそれだけである。



「ラッコってああ見えて実は邪悪な生物なのよね

 特に理由も無くアザラシの赤ちゃんを襲ったり、

 交尾中は雌に噛みついて逃がさないようにしたり、

 子供を人質にして餌を要求したり……と、

 タチの悪い行動ばかりするから好きになれないの

 私はあいつらを“海のチンピラ”と呼んでいるわ

 ところで、チンピラってなんの略かしらね?」


亀山千歳は正常だ。

普段は微妙に単語を言い間違えたりするので

スラスラと喋っている現状には違和感があるものの、

まあとにかく正常ということにしておこう。



「ねえ、安土

 あたし最近、わんこちゃんに飽きてきたんだよね

 あの子が面食いなのは薄々気づいてたけど、

 惚れた相手一筋じゃないのが目に余るというか……

 ぶっちゃけ、もう構うのやめたいくらいよ

 今日もストロー持って追いかけ回してみたけど、

 それはあくまで命を救うためのセクハラであって、

 本気でチューチューしようだなんて思ってないわ」


鬼島神楽も正常だ。

彼女は普段から思考低下しているようなものなので、

この言動が状態異常による影響なのか判断が難しい。

だがとりあえず正常ということにしておこう。



「大上

 お前もあの光を浴びたはずだ

 それなのに正気でいられたのはなぜだ?

 俺なりに仮説は立ててあるが、

 まずは本人の考えを聞いておきたい」


安土桃太郎。要注意人物だ。

普段が切れ者なだけに仲間たちからの信頼が厚い。

それゆえ誤った判断をしても仲間たちは疑わず、

共に破滅の道を歩むことになるだろう。


「俺が魔法能力者じゃないからだろうな

 回復、強化、弱体などの補助魔法は、

 対象の魔力に干渉して効果を発動させるものだ

 当然、魔力を持たない者には効果が無い

 それは一部の状態異常にも適用される

 例えば不破先輩が振り撒いてる“恐怖”がそれだな

 俺には魔力を感じ取る器官が存在しないから、

 他の生徒のようにビビらずに済むんだ

 今回の思考低下もそれに属するものなんだろう」


「やはりそう考えるのが妥当か

 ただし不破先輩とラッコとでは決定的な違いがある

 不破先輩は常に恐怖の状態異常を振り撒いてるが、

 ラッコが思考低下を付与するのは光った時だけだ

 さっきは無防備だったせいで直撃を喰らったが、

 来るのがわかっていれば対処可能ということだ」


「並の反応速度ではラッコフラッシュを目視してから

 マジックシールドを張るのは間に合わないだろうな

 そもそもこのメンバーにシールドの使い手はいない

 そして防具の性能だけじゃ防げないのは証明済みだ

 とりあえず制御力(コントロール)で魔法抵抗を高めるしかないが、

 どこまで耐えられるかは現時点では不明だ」


「危惧すべきはラッコフラッシュだけじゃない

 あの持続する微光にも何かカラクリがありそうだ

 お前には『ただの自己強化だ』と伝えていたが、

 その時の俺はかなり杜撰に解析を行なっていた

 言わずもがな、思考低下の状態にあったせいだ」


「それでも俺は、あれは強化の一種だと考えている

 いくらお前の判断力が鈍っていたとはいえ、

 なんの根拠も無しに適当なことを言うとは思えない

 これは我ながら飛躍した推測だとは思うが、

 ラッコは自らの魔力を高めることで

 周囲の魔物を呼び寄せていた可能性がある」


「人間が使う攻撃力上昇(ライジングフォース)と同質だと言いたいのか?

 まあ、その可能性はあり得るな

 なにせ新種の魔物だ、確かな情報は無い

 もし推測が正しければこの先は危険だ

 複数の玄室に繋がる通路の合流地点だからな

 下手すると魔物溜まりが出来ているかもしれない」


「そうなっていないことを願う

 だが帰還するためには避けては通れない道だ

 もし敵がいるのなら排除しなければならない

 ……というわけで、ちょっと様子を見てくるから

 みんなは精神統一しながら待機していてほしい

 不意打ちラッコフラッシュに備えておくんだ

 発生したのが1匹だけとは限らないからな」



それまで亀山と神楽はインテリ2人の会話を

ウンウンと頷きながら聞き流していたが、

指示された内容には思うところがあり、異を唱えた。


「え、待ちなさい大上

 様子を見てくる……って、何を考えてるの

 あなたは魔力を持たない一般人なのよ?

 私たちの手が届く範囲にいれば守ってやれるけど、

 そうじゃない時の安全は保証できないわ」


「そうよ、危険だわ!」


その意見に対して大上は反論しようとしたが、

代わりに口を開いたのは安土だった。


「落ち着け、亀山

 大上も危険は承知しているはずだ

 しかし、今は誰かが偵察に向かう必要がある

 自分自身の発言を思い返してみろ

 大上は魔力を持たない一般人なんだ

 目立たずに動けば魔物から発見されずに済む

 この局面ではその性質を有効利用するのが得策だ」


「やっぱり安全よ!」


いつもなら安土の意見には反対しない亀山だが、

この時は珍しく真っ向から否定するのだった。


「有効利用って……何よそれ

 出会った時から嫌な奴だとは思ってたけど、

 あなたって本当に人間の屑だわ!!

 大上の命を一体なんだと思ってるの!?

 使い捨ての駒扱いするのはやめなさい!!

 もしも大上の身に何かが起きてしまったら……

 誰が冬休みの宿題を片付けてくれると言うの!?」


「人間の屑!」


人間の屑呼ばわりにはさすがにカチンときたのか、

安土は険しい表情で亀山を睨みつける。


「宿題くらい自分でやれ

 それ以前に宿題を出される前提で物を言うな

 なんなら次回はこの俺が手伝ってやってもいい

 だからもう大上に借りを作るのはやめろ

 ……話が逸れたな

 大上はお前が思うよりも弱くはない

 毎日サンドバッグを叩いているだけの男じゃないぞ

 こいつは同期の中で最もダンジョンを往復している

 それだけ経験値が高いということだ

 引き際くらい弁えているだろう」


「それなら心配無いわね!」


当の大上は何か言いたそうにしていたが、

「行ってくる」の一言だけ残して偵察へ向かった。




ほどなくして大上が戻ってくる。

リーダーが無傷であることに一同は安心を覚えるも、

彼が持ち帰ってきた情報は芳しくないものだった。


「合流地点の中央に光り続けるラッコが1匹、

 それを中心に続々とラッコたちが集まっていた

 あの微光は魔物を引き寄せる効果で間違いないが、

 どうやら同種のみを召喚する性質らしい」


「光ってたのが1匹だけということは、

 そいつがボスってことかしらね?

 まずはそいつをやっつけて召喚を止めてから……」


「その場合、別の個体が光り出すんじゃないかな?

 あれはグループローテーションである可能性が高い

 キラーウルフなどに見られる制限行動の一種で

 ……っと、今は復習なんてしている場合じゃないな

 ちなみにここへ戻る途中で3匹仕留めてきたけど、

 そいつらは微光もフラッシュも放たなかった」


「え、ちょっと待って

 なに勝手なことしてんのよ

 敵が弱いからなんとかなったものの、

 余計な戦闘は避ける方針じゃなかったの?」


「もちろんそのつもりだったけど、

 急に地面から生えてきたんだからしょうがない

 魔法能力者の周囲ではそんな現象は起きないけど、

 俺には魔力が無いから発生を阻止できないんだ

 ……っと、光らないラッコについても話しておこう

 あいつらの攻撃手段は、貝殻から放つ水鉄砲だ

 しかもただダメージを与えるだけじゃなくて、

 感電の状態異常を付与するおまけ付きだ

 幸い水鉄砲の威力は微々たるものだったけど、

 あれを集団で仕掛けてくるとなると恐ろしい」


思考低下、仲間呼び、感電効果付きの遠距離攻撃。

ただのザコモンスターにしてはあまりに多芸である。

しかも……


「最大の脅威はやっぱり、ラッコフラッシュだな

 単独行動中に一度も喰らわなかったということは、

 奴らは俺に使っても効果が無いと判断したんだ

 魔力を持たない相手には無意味な攻撃──

 つまり、MPへのダメージだ」


今更わざわざ説明するまでもないが、

MP……マジックポイントは重要なステータスである。

それは魔法能力者が魔法を行使する際の燃料であり、

冒険者用装備の性能を引き出すためにも使われる。

この数値が0になると魔法を使えなくなるばかりか、

無意識に発動している身体強化などの効果が切れて

一般人と変わらない強さになってしまうのだ。

更に、短時間で大量にMPを消耗した場合には

意識を失い完全に無防備な状態となるので、

MPの管理が生死を分かつと言っても過言ではない。


「ラッコフラッシュを喰らった後を思い出してほしい

 犬飼さんと猪瀬さんを帰還させた理由は

 その時点での残りMPが少なかったからだけど、

 あのだらしない2人がオーバーワークになるまで

 自主訓練に励んでいたとはとても思えない

 亀山さんと鬼島先輩は純粋な魔法使いタイプだし、

 最大MPが多いおかげで残りMPに余裕があった

 安土はこの中で一番魔法防御力が高い上に、

 鎧に付属しているMP自動回復の効果が加わり、

 MPダメージを相殺したため被害に気づけなかった

 ……そう考えるとしっくり来るんだ」


男前探偵、ここにあり。




──冒険者たちは問題の場所までやってきた。

そこには大量のラッコがひしめき合っており、

その数はおよそ30匹程度だろうか。

じっくり数えようにも奴らは常に動き回っており、

正確な数を把握するのは至難の業だと言えよう。

大上の偵察からわずか10分程度でこの有様だ。

放置すれば、奴らはまだまだ増え続けるだろう。


「みんな……行くぞっ!!!」


冒険者たちが走り出す。

男前なリーダーが選択したのは“強行突破”、

なりふり構わずに敵陣ど真ん中を駆け抜ける作戦だ。

まあ、要はゴリ押しである。


ただし、これは逃げるためのゴリ押しではない。

邪悪の化身たちを一網打尽にするための策である。



パシャ、パシャ、パシャ!!



予想通り、ラッコの群れは全身から閃光を放った。

それは1匹につき1回までという制限があるものの、

こちらのMPが尽きるまで繰り返すようだった。

なんだか大勢から写真撮影をされているようで、

あまり気分の良いものではない。


これでいい。作戦通りだ。

精神統一による魔法防御力の上昇が功を奏し、

MPへのダメージを軽減している手応えがある。

誰かのMPが残っている限り、水鉄砲は来ない。

水鉄砲を喰らわない限り、HPは減らない。

HPが減らない限り、死ぬことはない。


しかし、ここで早くも脱落者が現れてしまった。



亀山千歳は急に走るのをやめ、

妖しく腰をくねらせながら歩き出した。

それはキャットウォークと呼ばれる独特な歩き方だ。

MPが底を突き、思考低下状態に陥った結果である。


「亀山さん……!」

「あいつはもうだめだ、置いてくぞ」

「ランウェイを歩くモデルの気分なのね……!!」



それからすぐに鬼島神楽が立ち止まり、

ラッコの群れに向かって深々とお辞儀をしたのだ。

彼女もまたMPが尽き、アホになったのである。


「この度は、誠に申し訳ございませんでした!!」


「なんか謝罪会見が始まったぞ」

「後ろめたいことばかりの人生なんだろうな」



2名の脱落者をその場に残し、

大上と安土は目的地へと向かって走り続けた。

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