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進め!魔法学園2  作者: 木こる
屍山血河
42/63

新たなる脅威

安土桃太郎率いるチームブラック一行が

続々と学園ダンジョンに入場してゆく。

それを大勢の女子が列を成して見送る光景は、

もはや見慣れた日常風景であった。

彼女らの目的はイケメン安土を拝むことだけであり、

それ以外のメンバーに対しては無視するか、

歯軋りしながら睨みつけたりするのだった。



犬飼杏子は嫌われていた。

ロリ巨乳なので男子からは好かれているが、

そのあざとさが女子には受け入れられなかった。

それと、甲高い声がキャンキャンとうるさい。


亀山千歳は嫌われていた。

彼女はあの安土桃太郎と同じ中学校の出身なのだ。

それだけでも嫉妬の対象となっているが、

美人でスタイル抜群という点が何よりいただけない。


猪瀬牡丹は好かれていた。

自分より背の低い男子には興味が無いらしく、

安土桃太郎は恋愛対象外であると公言している。

それを証明するかのように、安土桃太郎の生写真や

使用済みポーション容器を格安で販売しているのだ。

チームブラックの中で唯一社交的なメンバーであり、

いろんなパーティーに参加しては頼れる防御役(タンク)として

安全な冒険活動を約束してくれる存在でもある。


鬼島神楽は特に嫌われていた。

カンチョー百人斬りの前科が知れ渡っているし、

最近はストロー片手に怪しい動きを見せている。

それだけならまだしも、あの女は油断ならない。

作戦会議の回数がやけに多いように感じられるのだ。

しかも安土桃太郎と2人きりになる時もある。

男嫌いとのことだが、完全に信用してはならない。


大上隼斗……なんだあいつ?

チームブラックの一員ではないのに、

当たり前のような顔でしれっと同行している男だ。

内通者からの情報によると本当に部外者であり、

共闘したことは一度もないそうだ。

冒険活動中は見学というか観察に徹することが多く、

何を考えているのかわからない不気味さがある。

まあ、無害な存在であるのは確かだ。

『安土をぶっ飛ばす』などと大口を叩いているが、

あの男にそれを実現できるだけの力は無い。






──所変わり、学園ダンジョン第2層。

そのフロアは大抵の場合ただの通過点でしかないが、

想定外の事態が発生すれば話は別だ。

経験豊富な上級者でさえ生と死の狭間を彷徨う……

そんな珍事が今、起ころうとしていた。


魔物との遭遇。

ただし普通の魔物ではない。

いわゆる特例個体(イレギュラー)というわけでもない。


初めて見る魔物である。


「か、可愛い……」

「あの動物はなんて言ったかしら……ヒトデ?」

「やっ、全然惜しくない! 何一つ掠ってない!」


ラッコ。

まあヒトデとは一文字も名前は被りはしないものの、

海の仲間たちという点においては合っている。

そして、この場にいるべきではないのも同じだ。

それが生物の形を模した魔物であることもだ。

本来は直立歩行などできないラッコが歩いている。

その時点で何もかもおかしいのだ。


「お前ら、緩い見た目に騙されるな

 あれでもれっきとした魔物だ

 それも俺のデータベースには無い新種……

 対処法が確立されてない相手だと心に刻め」


心なしか、リーダーの声がいつもより低い。

それだけ緊迫した状況なのだと察しがつく。

この警告には素直に従うべきだろう。


「幸い相手は1匹、観察するにはうってつけだ

 戦闘を長引かせて敵の行動パターンを引き出し、

 なるべく多くの情報を学園に持ち帰るぞ」


方針が決まった。

無論、本日予定していた第4層での狩りは中止だ。

今回はこの愛らしい見た目の魔物の観察に徹し、

有益な情報を獲得するのが目標である。


それにしても新種の魔物……。

博識なリーダーでさえ知らないということは、

もしかしたらこれが世界初の交戦かもしれない。

世界初。なんともワクワクする話ではないか。




ラッコは全身からまばゆい光を放った。


それは一瞬の出来事であった。

チームブラックの面々が態勢を整えるより早く、

敵の先制攻撃が華麗に決まったのである。

カメラのフラッシュよりも強烈な、目の眩む閃光。

その閃光は確かに魔力を帯びており、

冒険者たちは1人残らず直撃を浴びてしまったのだ。


……しかし、HPを減らされた者はいない。

つまり攻撃魔法ではなかったということだ。

大上隼斗が無事であることからして間違いない。

彼の魔法防御力はゼロなので、どんなに弱い魔法でも

それが攻撃魔法ならば必ずダメージが発生する。

だがノーダメージ。ゆえに攻撃魔法ではない。


「……よし、全員無事だな

 気を取り直して配置に……いや、待て

 犬飼と猪瀬は離脱しろ

 今すぐ学園に引き返して待機だ」


「ええっ!?」

「なんで!?」


「MPがほとんど空っぽだからだ

 そんな危なっかしい状態のままで、

 未知の魔物と戦わせるわけにはいかない

 まったく……自主訓練に励むのは結構だが、

 冒険活動に支障が出るほど頑張るのは禁物だ

 今後はオーバーワークにならないよう注意しろ」


「そんなぁ〜……」

「ゆうべはぐっすり眠れたんやけどなぁ」


犬飼杏子と猪瀬牡丹が戦線離脱。




安土桃太郎がラッコににじり寄る。

残りの他2名は魔法に特化したメンバーなので、

現在パーティーで前衛を務められるのは彼だけだ。

盾こそ持っていないが、彼には金剛石の鎧がある。

ちょっとやそっとの物理ダメージは通じないのだ。


しかし、ここでまたラッコが全身を光らせた。

ただし先程の閃光とは違い、ぼんやりとした微光が

長く持続するタイプの行動パターンである。


「それはどういう効果なんだ?」


「黙れ、大上

 部外者はすっこんでろ」


この言い草よ。


「俺を邪険に扱うのは構わないが、

 亀山さんと鬼島先輩には情報を与えるべきだろう

 とっくに解析は済んでるはずだ、教えてやれよ」


「解析……?

 ああ、解析魔法(アナライズ)

 今からやろうとしてたところだ

 お前に指図されるまでもない」


「え、今から……?」


リーダーは部外者に言われるまでもなく、

得意の解析魔法を使用した。

それは未知なる魔物と戦闘する際、

まず使用するべき重要な補助魔法の1つである。

情報は最大の武器なのだ。

イケメンの安土がそれを知らないはずがない。




安土は速やかに解析を済ませた。イケメン。


「ふん、大した相手じゃないな

 第2層相応のザコだ

 HPは少し高めだが、他のステータスは軒並み低い

 ほら、あの……なんと言ったか

 カンガルーパンチャーだ

 あれと似たようなもんだろう

 新しい遊び相手が見つかってよかったな、大上」


「スペックは把握した

 それで、あの光はなんだ?

 攻撃魔法じゃないのは確実だが……」


「ああ、安心しろ

 攻撃魔法でなければお前には影響しないからな」


「俺の心配はいいから、早く仲間に情報を伝えろよ

 奴は今、何かしらの魔法行動……補助魔法の最中だ

 補助魔法にも色々あるだろう

 回復、強化、弱体、その他諸々……

 あの光には一体どんな効果があるんだ?」


「お前の心配なんてしてない

 あれはただの自己強化だ

 ザコがいくら強化したところで脅威にはならない

 お前こそ余計な心配をするな」


「なぜ光ってる?」


「知るか」


そう返すと安土は木刀を振り下ろし、

見えない斬撃を飛ばして新種の魔物を葬り去った。


「って、おい

 何やってんだ安土……

 戦闘を長引かせて情報を集めるんだろ?

 一撃で倒してしまったら作戦が台無しだ」


「ああ、今のは完全に俺のミスだ

 つい体が勝手に動いて……

 俺は少し疲れてるのかもしれない」


「そのようだな、いつものお前らしくない

 明らかに思考力が低下してる

 だが、ここに来るまでは平常運転だった

 ……さてはあのラッコに何かされたな?

 俺は最初のフラッシュが怪しいと思うんだが」


「ラッコ?

 フラッシュ……?

 大上、お前は何を言ってるんだ?

 それと、なぜ亀山がいるのに犬飼と猪瀬がいない?

 あいつら喧嘩でもしたのか?

 まったく困った奴らだな、ははは」


「ああ、これ相当ヤバいやつだ」




──その状態は15分ほど続いた。

会話自体は可能だが、思考力が低下しているため

所々話が噛み合わないことがある。

あくまで考える力が鈍るだけの効果であり、

突然支離滅裂な行動を取ったりする可能性は低い。


問題は本人にその自覚が無いということだ。

要するに、自分はまともだと思っているのだ。

普段は頼り甲斐のある人物がこの状態に陥ると、

誤った判断だと気づかずに仲間に指示を出して

パーティーを全滅に導いてしまうかもしれない。


今の安土にリーダーを任せるのは危険である。

そう判断した大上は全員を無事に帰還させるため、

急遽リーダーの役目を担うことになった。


ちなみにこの奇怪な現象は

“思考低下”などと呼ぶのが正しいのだろうが、

後に“混乱”と名付けられることになる。


ここに新たな状態異常が誕生してしまったのだ。



「……大上、俺は正気に戻った

 自分の身に何が起こっていたのか、

 今なら鮮明に思い出せる

 だからもういい、リーダーを代われ

 それからボディーカメラをこちらに渡せ」


「ああ、カメラは渡す

 だがリーダーはこのまま続けさせてもらう

 まだ影響が残ってる可能性は否定できないからな

 とりあえず出口に到着するまでは我慢しろ

 お前らが出るのを見届けた後、俺は時間差で出る

 そして今日の出来事は忘れる……それでいいな?

 先に帰還した2人が何か口走ってるかもしれんが、

 それはそっちでどうにかしてくれ」


そう言い、大上は胸ポケットからカメラを取り外して

安土の手に握らせると、再び前を向いて歩き出した。

しかし安土は腑に落ちないといった表情になり、

疑問を解消するため大上を呼び止めて尋ねてみた。


「お前はなぜ俺にカメラを渡した?」


「やっぱりまだ回復していないようだな

 お前がそれを要求したからなんだが……

 まあいい、とにかく先を急ぐぞ」


「いや、そうじゃない

 俺が知りたいのは、なぜ素直に渡したのかだ

 俺の醜態が収められた証拠映像だぞ?

 弱みを握っておこうとは考えなかったのか?

 さてはお前、予備のカメラを隠し持っているな?」


「疑り深い奴だな……

 ボディーチェックがしたければ好きにしろ

 俺を信じるのは疑いが晴れた後でいい

 …………

 ……強いお前に勝ちたいからだ

 弱みを握るやり方は俺の趣味じゃない

 どのみち映像は消すつもりだった……と言っても、

 今のお前じゃどうせ信じないだろうな」


ほんの少しの間、気まずい沈黙が彼らを包み込む。

それから何事も無かったかのように、

一行は出口を目指して前進するのだった。

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