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進め!魔法学園2  作者: 木こる
決死行
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顔合わせ

1年1組の担任、且つ主任訓練官の落合(おちあい)賢悟(けんご)

険しい表情で手元の書類を眺めていた。

それはある生徒が提出した冒険計画書であり、

その内容に難色を示しているのだ。


「なあ、安土

 これはちょっと……早すぎるんじゃないのか?

 そりゃお前が飛び抜けて強いのは知ってるが、

 他のメンバーは全員、今回が初ダンジョンなんだぞ?

 それをいきなり中ボス戦に投入するのは、

 いくらなんでも無謀がすぎるってもんだ」


中ボス戦……安土桃太郎は大胆にも、入学早々にして

ゴーレムという魔物を狩ろうとしているのである。

それは進級試験の討伐対象に指定されており、

上級者でも油断すると命を落としかねない相手なのだ。

それを入学してまだ1ヶ月も経っていないこの時期に、

しかも戦闘経験の無い生徒を連れて討伐に向かうのは

明らかに無謀な計画だと言わざるを得ない。


この安土というイケメン生徒は馬鹿ではない。

常に冷静で合理的な判断ができるタイプであり、

その計画がいかに危険なのかを理解しているはずだ。

それなのに高いリスクを背負ってまで敢行しようとは、

一体どんな大義名分があるというのだろうか?


「俺の進級を確定しておきたいだけですよ

 過去にも1学期のうちに中ボスを倒した実績により、

 進級試験を免除された生徒がいるじゃないですか

 まあ、その頃は別の魔物が討伐対象でしたが」


「そういう生徒が存在したのは否定しないが……

 そいつは特殊な環境で生まれ育ったおかげで、

 俺たちとは別次元の強さを持っていただけだ

 1件の例外を判断基準にするのはやめておけ

 生徒数の増加に伴い難易度が低下したとはいえ、

 素人にとって危険な相手であることには違いない」


「作戦通りにいけば何も問題ありませんよ

 そのために必要な人員は確保済みです」


防御役(タンク)支援役(サポート)攻撃役(アタッカー)

 たしかに揃ってはいるが……うーむ……」


落合訓練官は書類をパラパラとめくる。

イケメンの安土はさておき、他メンバーの評価は

普通の新入生以上……即戦力になり得る人材ではある。

ただしそれはカタログスペックだけの話であり、

やはり戦闘実績が無い点は不安要素でしかない。

いくら優れた才能や高い能力を有していようと、

それを実戦本番で発揮できるかどうかは

実際に戦わせてみないとわからない。


「もっとこう、段階を踏むべきじゃないのか?

 まずは弱い魔物を倒して経験を積ませて、

 ある程度自信をつけてからでも遅くはないだろう」


「それじゃあ遅いんですよ

 今この時期にゴーレムを倒すことに意義がある

 周りの連中に格の違いを見せつけるのも、

 今回の作戦における重要な目的の1つですから」


「厄介なタイプの問題児に当たってしまったか……」


落合訓練官はやれやれと言いたげに眉を下げ、

冷め切ったブラックコーヒーを一気に飲み干した。






──1学期が始まってから10日目の放課後、

安土はミーティングルームに3名の生徒を招集した。

彼は杏子が何か戸惑っているのに気づいていたが、

それを問いただすことなく連絡事項を皆に伝える。


「明日、このメンバーでダンジョンに潜る

 目標は第2層にいるゴーレムの討伐だ

 猪瀬が注意を引く囮役となり、

 亀山には敵の無力化を担当してもらう

 回復魔法を使える犬飼は万が一に備えての保険だ」


役割を与えられた杏子は頬を赤らめながら、

すぐさま気になった点を口に出すのだった。


「あ、あれ?

 そうすると安土君が攻撃担当ってことかな?

 たしかゴーレムって岩の塊みたいなやつで、

 刃物は通用しないんじゃなかったっけ……?」


「ほう、予習済みか

 入学前から魔法の練習をしていた件といい、

 冒険活動に対する意欲が高いようで何よりだ」


「えへへ……」


褒められた彼女はますます紅潮し、

もう疑問の答えなどどうでもよくなっていた。

だが他の2名はそうではなかったようで、

まずは亀山と呼ばれた緑髪の少女が口を開いた。


「そういえば安土君も魔法が使えるみたいだけど、

 それってたぶん攻撃用じゃなさそうね

 私に英語は難しくてよくわからないけど、

 ファイヤーとかサンダーとか入ってないし」


「ああ、全部サポート用だ

 俺には攻撃魔法の適性が備わっていない

 だからそれが必要な場面では他の奴に任せる

 お前らの主属性はそれぞれ──

 猪瀬が炎、亀山が氷、犬飼が雷だったな

 属性の使い分けができると効率がいい

 俺の役に立って気に入られたいのなら、

 亀山以外の2人も早く使えるようになれよ」


なんとも偉そうで鼻につく物言いではあるが、

彼にはそんな態度を取っても許される理由があった。


安土桃太郎はイケメンなのである。


安土よりも背の高い少女、猪瀬はふと察する。

前の2人も同じ疑問を抱いているのだろうと。


「あ、えーと……

 刃物が通じない敵に対して、

 攻撃魔法を使えない安土君が

 どうやったら攻撃役になれるんだろう?

 たしか君の武器って刀だよね?

 思いっきり刃物だと思うんだけど……」


見れば杏子と亀山はウンウンと頷いている。

やはり女子3名はそこが気になっており、

今この場ではっきりさせておくべき情報なのだ。

いくら敵の足止めが上手くいったとしても、

魔物の討伐を目標に掲げている以上は

それ相応の火力が無いと達成できないのだから。


そんな彼女たちの疑問を否定するかのように──

まあ実際、安土は冷ややかな視線を彼女らに向け、

無機質な口調で異議を唱えた。


「連日の試し斬りで確信したが……

 あれは最強の剣だ」




そして翌日の放課後、

彼らは誰一人傷付かずに目標を遂げて帰還したのだ。

護衛として同行した上級生たちは半笑いしながら

「ありゃ反則っすよ」と詳細を報告した。


落合訓練官は教え子の無事に安堵する反面、

安土には少しくらい痛い目に遭ってほしい、と

指導者にあるまじき思いを胸に秘めるのだった。

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