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進め!魔法学園2  作者: 木こる
屍山血河
39/60

遠い昔の出来事

時は永正17年(西暦1520年)、世は戦国であった。

日本中の至る所で武将たちが名乗りを上げ──。


「そういえば、あんたの名前って

 安土桃山時代を連想させるわよねえ

 絶対それ狙って付けたんでしょー」


「残念ながら不正解だ

 俺の名前はもっとくだらない理由で……

 いや、それより上映会に集中しろ」


日本中の至る所で武将たちが名乗りを上げ、

天下統一を目指して小国同士の小競り合いが──。


「ん……1520年?

 500年前の資料だとか言ってたけど、

 ぴったり500年前ってわけじゃなかったのね」


「毎回『約』を付けるのは鬱陶しい

 省略できる部分は省略する

 それが有限の時間を無駄にしない秘訣だ

 ……いいから本題に集中しろ

 疑問の解消は上映会が終わってからでもいいだろう

 いちいち一時停止されちゃ気分が白けるんだよ」


「あたしって、何か作業する時は

 他のことをしながらの方が捗るのよね

 こーゆーのなんて言ったっけ?

 まあとにかく食べたり喋りながらのが楽しいわけ

 ちょっとは大目に見てよね」


「“マルチタスカー”

 概要を説明するまでもないな

 まあ、そういう事情ならば仕方ない

 途切れ途切れの映像を観せられるのは癪だが、

 ここはお前のやり方に任せるのがよさそうだ」



──鬼島(きじま)鉄心(てっしん)山城国(やましろのくに)(現在の京都府南部)

の戦国武将の1人だが、戦を好まない性格ゆえに

自らの意思で他国へ攻め入ることはせず、

ただ領地の防衛のみに専念するその姿勢は

他の武将からすれば腰抜けのように見えただろう。

しかし、鬼島鉄心は決して弱い男ではなかった。

むしろその逆であり、もし彼が本気を出していれば

天下を取ったのは信長ではなかったかもしれない。


鬼島鉄心には娘がいた。

名を輝夜。

鬼島神楽に似て、黒髪の似合う美少女である。


「あ、あら……?

 なんか余計なナレーションが……」


「お前の主観が混じったんだろうな

 というか順序が逆だ

 お前が輝夜に似てんだよ」


「それはわかってるけどさぁ……

 ま、細かいことは気にしない!」



──輝夜は鉄心と同じく争い事を嫌っており、

領民たちからは心優しき娘として慕われていた。

無論、その父も優しさと強さを併せ持つ領主として

尊敬と感謝の対象であった。

時代が時代なだけに何度も戦争は起きていたが、

それでも鉄心が治める領地は概ね平和だった。


この平和がいつまでも続けばよいのだが……。


「これ絶対に続かないパターンだ

 ……って、また主観が混じっちゃったみたい

 どうすればコントロールできるのかしら」


「解読は初の試みだからな

 やりながらコツを掴むしかないだろ

 まあ、ここまで上映できただけでも上出来だ

 まだ続けられそうか?」


「ええ、全然いけるわ」



──ある時、所用で隣国へ向かっていた鉄心は

道中で野盗の一団と遭遇し、これを撃退した。

命を救われた行商人は一振りの刀を取り出し、

感謝の証として鉄心に献上する。


無銘なれど業物。

それは人を斬るために存在する道具であり、

戦争嫌いの鉄心がお気に召そうはずもない。

だが、彼は魅了されてしまったのだ。

どこまでも邪悪で純粋なる狂気の化身に……。


その刀は、後にこう呼ばれる──


「……」

「……」


…………。


「「 ……首切姫 」」



“首切姫”──と。



「なんだこの茶番」

「ごめんなさい」




──首切姫を手にして以来、

鉄心は人が変わってしまった。

極端に気が短くなり、些細なことで腹を立てては

家臣に当たり散らすようになったのだ。


当初は加齢による性格の変化だと思われていたが、

調査の結果、原因は首切姫にあると断定された。

だが、鉄心は手放そうとしなかった。

関わった者全てに不幸を振り撒く、人喰いの魔剣を。


日を追う毎に鉄心の行動は過激になってゆく。

家臣を怒鳴りつけるだけでは飽き足らず、

次第に手を出すようになり、とめどない憎悪の矛先は

本来守るべき存在──領民へと向けられたのである。


最初の処刑は秘密裏に行われた。

相手は元罪人。

若かりし日に盗みを働き、同じ過ちを犯さぬよう

両腕を斬り落とされる運命にあったのだが、

他ならぬ鬼島鉄心からの粋な計らいによって

五体満足のまま生き永らえてきた男であった。


鉄心は、その者を斬った。

一度は罪を赦し、人生をやり直す機会を与えた男を、

ただ人を殺したいという衝動を成就させるためだけに

濡れ衣を着せて始末したのだ。


やがて鉄心は自ら戦争を仕掛けるようにもなった。

民の生活のためでも、覇道を目指したわけでもない。

もはや彼は呪いの力に抗う術を忘れており、

殺意の赴くままに敵も味方も斬り捨てた。


「何よもう……

 本当に最悪な代物じゃない

 どうしてもあの刀を捨てる気が無いんだったら、

 せめてお祓いくらいしときなさいよね

 あ、うちの神社ってそーゆーのやってるかしら?

 もしあれだったら格安で請け負ってあげるわよ」


「不要だ

 それはもう試した……過去の使い手がな

 みすみす金をドブに捨てるつもりは……

 って、俺から金を取る気か?」


「そりゃ取るに決まってるでしょー

 うちはそれで食ってるんだからさー

 ……いや、実際はどうだか知んないけど」


「少々ややこしい話に聞こえるだろうが、

 首切姫の所有権が鬼島家から移動したことはない

 安土家の人間には呪いへの抵抗力があるから、

 安全に保管するため一時的に預かってるだけだ

 それがいつのまにか安土家の財産のように扱われ、

 多くの者が勘違いしたまま現在に至る……

 まあ厳密に言えば、あれはお前の刀ということだ

 それを証明するのは面倒だしメリットが無い

 これからも安土家の方で使わせてもらうぞ」


「あんたからぼったくるのは無理、と

 それにしても首切姫があたしの刀かあ

 ……うわ、いっらね〜」



──鉄心の家臣をはじめ領民たちは

暴走を続ける領主に従うしかなかったが、

ここに反旗を翻す人物が現れた。


その名は鬼島輝夜──鬼島鉄心の娘である。


鬼島神楽に似て、黒髪の似合う美少女である。


「またかよ」

「はい」


輝夜は20名の味方を率いて鉄心の寝込みを襲った。

内17名はあえなく討ち死にしてしまったが、

生き残った者たちがその犠牲を無駄にはしなかった。


死闘の末、彼らは成し遂げたのだ。

鬼島輝夜は父の人生を狂わせた元凶を奪い取り、

その妖刀で鬼島鉄心の首を斬り落としたのである。


ゆえにふさわしい呼び名が付けられたのだ。

その人喰いの魔剣に、暴君を成敗した救世主に──


「「 首切姫 」」



“首切姫”──と。



「……」

「……」



──しばらく平和な日々が続いた。

鬼島家の領地は、亡き父に代わり輝夜が治めていた。

とはいえ無学な少女に良政を敷けたとは考え難く、

実際にはその家臣たちが民を導いていたとされる。

しかし、万事が順調だったわけではない。

輝夜が徐々に奇妙な行動を取るようになり、

先代から受けた仕打ちを思い出した領民たちは

恐れをなして1人、また1人と逃げ出していったのだ。


輝夜の奇行は先代の犯した悪行ほどではないにせよ、

見る者を不安にさせるだけの何かを秘めており、

領民たちに癒えない心の傷を与えたのだという。

尚、彼女がどのような行いをしたのかは不明である。

実害を被った女性たちが沈黙を望んだのだ。

ただし1人の死者も出ていないという事実を鑑みると、

輝夜にとっては悪戯の範疇であったと推測できる。


「あたしにはわかるわ……輝夜が何をしたのか」

「言わなくていいぞ……俺にも想像がつく」



──鬼島輝夜の最期は悲惨なものであった。

首切姫を処分するために倉庫から持ち出したところ、

それを手にした瞬間、精神が狂ってしまったのだ。

家臣たちは暴れる輝夜を取り押さえようとしたが、

妖刀の力を得た彼女には手がつけられなかった。


不幸中の幸いとでも言うべきか、

輝夜は生粋の箱入り娘として育てられてきたゆえ、

武芸の心得を持ち合わせていなかった。

ただ衝動のままに刀を振り回すだけであったという。

おかげでこの一件による死者は輝夜本人のみである。


「あら、意外

 輝夜って生涯で1人しか殺してないのね

 首切姫なんて物騒なあだ名を付けられたんだから、

 もっと暴れん坊なのかと思ってた」


「俺も最初は同じ勘違いをしてたな

 まあ、量より質ということなんだろう

 輝夜は父親を狂わせた刀で父親を斬ったんだ

 そのエピソードが強い」


鬼島輝夜を討ったのは我が兄、安土桃之進である。


「ん?

 あいつ弟いたんだ?

 いや、妹かな?」


「弟だ

 安土(あづち)桜之進(さくのしん)

 この文献の執筆者で、俺の先祖に当たる人物だ」


「へえ、そうなんだ

 てっきり桃繋がりであっちがルーツかと……

 顔立ちもファッションセンスの悪さも瓜二つだし

 あ、でも弟も同類の可能性があるわね」


「センスは悪くないだろ……

 俺はファッションにはこだわらない主義だが、

 桃之進が着てた衣装には何か光るものを感じたんだ

 夏休みの間にその資料を発見できたのは大きい

 仕上がりは来年の夏頃になると職人が言ってたな」


「たしかにギンギラギンに光ってたけどさあ

 ……って、あんたまさか再現するつもり!?

 あの紅白歌合戦に出場できそうな服!!」


「ああ、歌合戦には出ないがな

 今から完成が待ち遠しい……

 こんな気持ちになったのは初めてだ」


「そう……」



──以上が鬼島家が滅亡するまでの経緯である。

これよりこの地は安土家の支配下に置かれるが、

統治者は鬼島家に仕えていた者たちの中から

彼ら自身の話し合いで決めさせようと考えている。

我々の目的は侵略ではない。

あの忌まわしき刀を回収し、安全に保管することだ。


首切姫がいつ、どこで、誰が作った物なのかは

一切の謎に包まれている。

判明しているのは特殊な素材で作られていること……

おそらく隕鉄であろうと学者たちは唱えているが、

該当する隕石に関する記録が存在しないため、

やはり憶測の域を出ない。


この世には首切姫のような呪物が多く出回っている。

安土家の血族にはその悪しき力への抵抗力があり、

ゆえに呪物の回収という重要任務を担っているのだ。

とりわけ兄上は血族の中でも特に秀でた存在であり、

おまけに剣の才にも恵まれているのだから羨ましい。

拙者としては兄上こそ次期当主にふさわしいのだが、

頭の固い父上は決してお認めにならないだろう。


分家の生まれだからなんだというのだ。

幼くして病死してしまった長兄の代わりとして

本家に迎え入れたのは他ならぬ父上だというのに、

実子である拙者との扱いがまるで違いすぎる。

なんとも不義理な話ではないか。


「なんか……

 桜之進の個人的な愚痴になってきたわね

 お兄ちゃん大好きなのはわかるけど、

 あたし的にはあんまり興味無いというか……」


「そうだな、今日はここまでにしておくか

 お前の能力は想像以上だと知ることができたし、

 俺の目的はもう果たしてある

 ちなみにこれ以降は桜之進の愚痴がひたすら続く

 鑑賞しても得るものは無いだろう」


「そうね、終わり終わり!

 あ〜疲れたぁ〜〜〜

 ……っと、その前に」


「ん?」


「その死んだ長男の名前って梅之進(うめのしん)でしょ?」


「ああ、正解だ

 よくわかったな」


「そりゃまあねえ

 『梅桃桜(うめももさくら)』って言うじゃない?

 次男と三男の名前から推測できたわ!」


「ほう……

 それじゃあ正解した褒美として、

 目が覚めたらジュースを奢ってやろう

 今日の礼も兼ねてな」


「あら、気前がいいわね

 ありがたく奢られてやるわ」


こうして本日の上映会は無事終了したのだった。

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