深まる謎
学園ダンジョン第7層。
そこは立ち入り禁止区域となっており、
魔法学園の生徒はおろかプロの冒険者ですら
許可を与えられない限りは進入することができない。
かつてこのダンジョンは第6層が最深部であると
認識されていたが、数年前に封印が解かれたことで
その先へと進めるようになったのだ。
“裏ダンジョン”。
この領域を発見し、開通した者たちがそう名付けた。
ここでは今までの常識は通用しない。
ただ強いだけでは生き残れない。
攻略には前例に囚われない柔軟さと、
失敗を恐れずに突き進む大胆さが求められる。
まず、全ての魔物が特例個体なのである。
自爆するスライム、口から炎を吐くコボルト、
腕を飛ばしてくる金属製のゴーレムなど、
教科書には載っていない連中のオンパレードだ。
ちょっと変わった行動パターンを持つザコ……と、
甘く見て迂闊に手を出してはいけない。
一部のステータスが突出した個体も存在しており、
判別には注意深い観察力が必要とされる。
それだけならまだしも、日本に生息していないはずの
レプラコーンやガネーシャ、ババヤガといった
そもそも通常個体についての情報が不足している
相手が当たり前のように出現するのだ。
そして無限ループやダークゾーンなどの仕掛けだ。
ここでは地形そのものが悪質な敵であり、
一歩一歩慎重に進んで正確な地図を作成しなければ
現在地点を見失って帰り道がわからなくなる。
そうなるともう打つ手無し。永遠の迷子である。
悪質な仕掛けを切り抜けることができたとしても、
入場する度に配置変更という罠が待っている。
前回作成した地図が役に立たないのだ。
正解ルートを毎回手探りで見つけ出さねばならない。
とにかく『もうやってらんないダンジョン』。
調査が捗らないのも当然である。
「ま、そーゆーこった
おれらが何百回もこの場所に来てる理由は、
ランダムMAP生成の法則性を導き出すためだ
それを実現するには膨大な量の記録が必要になる
ウンザリするほどの試行回数がな……」
「法則性、ですか……
それが存在しない可能性もありますね
MAPの生成が完全にランダムだった場合だ」
「初手で一番の懸念点を突きやがって……
でもまあ、おれはそれでも構わねえよ
今はなんでもいいから結果が出せりゃいい
たとえそれが『法則性が存在しない』っつう、
理不尽極まりない結果だったとしてもな
そのためにも、もっとサンプルを増やさねえと」
「いつ頃終わりそうですか?
あと何回、という具体的な目標はありますか?」
「そのへんのプランは真っ白だが、
上の連中が何か言ってくるまでは
学園に残って調査を続けるつもりだ
……まあ、このまま何事も無ければ
おれらの任務は続行するだろうよ」
とりあえず、それまで首切姫は彼に預けておける。
せめて学園を卒業するまでの間で構わない。
このまま何事も無ければいいのだが……。
進道氏から知りたい情報を聞き出せた安土は
そこで会話を切り上げ、続いて神楽に話題を振る。
「なあ神楽
お前は練習の過程で様々な映像を観たそうだが、
それは全部下着に宿っていた記憶なんだよな?
だとしたらスカートの内側や地面ばかり映るはずだ
なのにお前は第三者の視点で鑑賞していた……
これはおかしいことだと思わないか?」
「ああ、それは……うん
たしかにパンツの視点としてはおかしいかも
まるでパンツが空を飛んでるような、
観る側にとって都合の良いカメラワークだったわ
……『パンツの視点』って何かしら?
『パンツが空を飛ぶ』も考えてみたら変な発言よね
今日はパワーワードが2つも生まれてしまったわ
9月6日はパンツの日に制定しましょう」
「3つ目のパワーワードやめろ
今日はただでさえ忌々しい日なんだ
これ以上嫌な思いをしてたまるか」
「忌々しい日?
何かあったっけ?」
「俺の誕生日だ
毎年この日が来なけりゃいいと思ってる
歳は取りたくないんでね」
「何よ、めでたい日じゃない
プレゼントはあげないけどね
……あ、変な汁なら出してやってもいいわ」
「もういらねえよ
……真面目な話に戻すぞ
感覚の共有についても疑問がある
物の記憶を観る能力だというのに、
登場人物に共感する必要がどこにある?
しかも神楽が触れたことのある物が対象なのに、
共感する相手はそれの持ち主という点も謎だ」
「そんなこと言われても、あたしにもわかんないわよ
ただでさえ魔法の原理自体が未解明なんだし、
学者でもない素人が答えを知ってるわけないでしょ
それこそ進道さんの専門分野でしょうが
質問する相手が間違ってるんじゃないの?」
「質問……?
…………
ああ、言われてみればそうだな
そう受け取られても無理はない
誤解させて悪かった」
「え、何?
誤解ってどゆこと?
質問じゃなかったら一体なんなのよ?」
「……」
安土は眉間をつまみ、俯いたまま何も答えない。
それは安土家に伝わる落ち込み表明術なのだが、
現時点の神楽がそれを知る由もない。
「あ、わかった
あんた本当は友達欲しいんでしょ?
ただ雑談がしたかっただけなのよね?
その相手としてあたしが選ばれた……そうでしょ?
だって他にいないもの
首切姫を通して同じ痛みを味わった人間なんて……
それこそ感覚の共有──“共感”だわ
あたし、昔からこういうのだけは得意なのよね
国語のテストで外したことないのよ
『この時の誰々の心情を述べよ』って問題」
「勝手に決めつけるな
俺は本当に友達なんて欲しくない
ただ現状の整理がしたかっただけだ、他意は無い
お前の能力を利用して死の運命を回避するには
どうすればいいのかを考えるのが俺の役目だからな
お前はそういうの苦手だろ?」
「んもう!
生意気な上の口だこと!」
「そのフレーズが気に入ったのか?
……この変態め」
「あんたに変態とか言われても嬉しくない!!」
神楽は変な汁を噴射した。




