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進め!魔法学園2  作者: 木こる
屍山血河
30/32

協力者

神楽と安土はダンジョンに来ていた。

デートではない。大人が同行している。

調査隊の進道(しんどう)千里(せんり)黒岩(くろいわ)真白(ましろ)

そしてリーダーの並木(なみき)美奈(みな)である。


「ったく、おれらより遅く入隊したお前が

 どうしてリーダーなんてやってんだかなあ」


「まあ細かいことはいいじゃないの

 なんだかんだそれで上手く回ってるんだし、

 こうしてこの3人で活動してると

 若かりし頃を思い出せて私は楽しいけど」


「学生気分が抜けてねえな

 おれらがここを卒業してから6年……

 いや、お前は大学出てから2年になるか

 どうりでまだまだプロ意識が低いわけだ」


「何よ〜、私だってちゃんと仕事してるでしょ〜?

 私が考えるに、プロに求められる条件ってのは

 必要最低限の仕事をこなせるかどうかだけで、

 それさえクリアしてれば他は適当でもいいわけよ

 ある意味、私が一番プロに徹してるとも言えるわ」


「へっ、物は言いようだな

 そのよく回る口で上の連中をたらし込んだわけか

 個人の戦闘能力評価が規定値未満であるお前が、

 どうやって調査隊員になれたのかがわかったぜ」


「数字以外の部分で評価された、と

 好意的に解釈させてもらっておくわ

 とりあえず私の自己紹介はこの辺にしといて、

 ひとまず目障りなアレを片付けちゃいましょうか」


一行の現在地は第6層終点付近。

本来であれば入学して3ヶ月足らずの仮免冒険者を

連れ回していいような場所ではないのだが、

国内トップクラスの実力者が3人いるだけでなく

安土自身の強さも飛び抜けているという理由により、

今回は特別に入場する許可を与えられていた。


道中に危険は無かった。

あるにはあったが、それは速やかに排除されたのだ。

調査隊トリオは取り留めのない雑談をしながら、

まるでピクニックにでも来たかのような雰囲気で

進路上の弊害を取り除いていったのである。


そして本日最後の相手となる魔物はドラゴン。

それも5匹の群れときた。

たった1匹でも超危険な魔物として認知されており、

上級者パーティーでも死亡事故が発生しているので、

普通の冒険者なら逃げる以外の選択肢はあり得ない。

だが、彼らは普通の冒険者ではなかった。

その戦いぶりには、ただ圧倒されるばかりだった。



並木氏は敢えて出力を抑えた凍結魔法(フリーズ)を展開し、

ドラゴンの足元を狙って5匹まとめて凍らせる。

進道氏はファイヤーストームをばら撒いた後、

間髪入れずに高密度のサンダーボールを撃ち込んで

魔物たちのHPをごっそりと削り取る。

そしてトドメは黒岩氏が刺したのだが、

どうやって攻撃したのか目視できた者はいない。

というのも黒岩氏が剣を抜いたと思った次の瞬間、

ドラゴンたちはズタズタに斬り裂かれていたのだ。



そのあまりにもハイレベルな……否、一方的な強さは

初心者同然の神楽にとっては異次元そのものだった。


「ちょっ、本当になんなのこの人たち……

 ドラゴンって超強いんじゃなかったの?

 それが5匹、それをたった3人で、

 しかも10秒足らずで倒しちゃったんだけど……」


困惑中の神楽に対し、安土は感心しながら解説する。

あんな戦術はまず教科書には載っていない。

さらりとやってのけたという事実から察するに、

日常的に使い慣れている彼ら独自の連携なのだろう。


「最初に放ったフリーズは足止めのためではなく、

 それを溶かして“聖水”を生成するのが目的だった

 第5層にのみ存在する『魔力を通す性質の水』だ

 聖水には魔法効果を増幅させる特徴があり、

 今回はサンダーボールの威力と攻撃範囲を拡大して

 ドラゴンの群れにまとめて大打撃を与えたわけだ」


「ほえ〜

 氷→炎→雷の順番に攻撃魔法を放てば、

 そーゆーコンボが可能なのね

 1つ勉強になったわ!」


「いや、コンボを成立させるには

 “実体化”と呼ばれる高等技術が必要になる

 それを戦闘に応用したのも単純にすごいが、

 驚くべきは進道さんが自分以外の魔力を利用して

 成分不明の液体を完璧に再現したという点だ

 上級生のお前なら知ってて当然の知識だが、

 魔力の波長ってのは指紋のようなもので

 個人毎に千差万別だから同調するのが難しい

 探知魔法(サーチ)が使えるだけではああはならない

 周波数の微調整力という育てにくい能力を、

 あの人は極限まで高めて実戦に落とし込んだ……

 つまり、彼は高等技術に高等技術を重ねたんだ」


「難しいってことはよくわかったわ

 それより最後に何が起きたのか解説してよ

 気づいたら敵が全滅してたって感じで、

 見学に集中してたのに見逃しちゃったのよね」


「安心しろ、お前は何も見逃してない

 黒岩さんが時間を止めてる間の行動は、

 本人以外の誰にも認識することができない

 俺たちが認識できるのは結果だけだ

 彼女が時間停止能力者だという件は知っていたが、

 いざ実物を目の当たりにすると驚くしかないな」


「えっ、時間停止ですって……!?

 夢のような能力じゃないの!!」


「事前にドラゴンを弱らせていたことから察するに、

 時間を止めていられるのはせいぜい数秒程度だろう

 まあそれだけでも充分に恐ろしい能力ではあるが、

 いかがわしい行為に応用するのは難しいと思うぞ」


「堂々とスカートの下に潜り込めるじゃない!」


「いつもやってるだろ?」


「そうだけども」




第6層終点。

目的地に到着した一行は軽く休憩を挟み、

「真面目な話がある」と前置きした進道氏が

すっくと立ち上がると、皆の注目がそちらに集まる。


「実は安土から面白れえ話を聞いちまったんだがよ、

 どうやらおれたちは同じ時間を繰り返してるらしい

 ある地点まで辿り着くとそこで時間が逆戻りして、

 またどこかの地点からやり直しになる……

 まあ、俗に言うタイムループってやつだな」


その発言に真っ先に反応したのは神楽だ。

彼女はガバッと立ち上がり、皆の注目を集める。


「え、ちょっと!

 あんたあの話、秘密にしとくんじゃなかったの!?

 なにあっさりとバラしちゃってんのよ!」


熱くなる神楽に対し、安土は静かに立ち上がって

皆の注目を集めてから冷ややかに返した。


「べつに秘密にしておく理由は無い

 むしろこの事実を知る者は多い方がいい

 ただし信頼に足る人物だけに限定するがな

 その点、進道さんなら心配無用だ

 彼が持つ魔法技術に対する知識量と情熱は、

 この問題を解決するためには必要不可欠だろう

 それに関東魔法学園出身の大先輩でもある

 困っている後輩を放ってはおけないはずだ」


安土は進道氏をチラリと見やり、反応を確かめる。

彼は片眉を下げてはいるが、口元では笑っている。

なんだか複雑な表情ではあるが、手応えは悪くない。

皆の前で『信頼に足る人物』だと断言されたのだ。

高い評価を受けて気分が良くなろうというものだ。

それに上下関係について口にしたのも作戦であり、

それこそ『困っている後輩を放ってはおけない』

立場であると自覚してくれたはずだ。


その時、並木氏が立ち上がって皆の注目を集めた。

だがしばらく待ってみても彼女は何も発言せず、

痺れを切らしたかのように黒岩氏が立ち上がり、

皆の注目を集めてから話し合いを再開する。


「タイムループかぁ……

 自分が主人公サイドなら大歓迎なんだけどねえ

 ……あ、でもたしか時間を操る魔法って、

 “この世に存在しない魔法”の1つだったよね?

 安土君の勘違いなんじゃないかな?」


「黒岩さん、あなたの発言のおかげで

 “時間逆行の能力者が実在する”という確信が

 俺の中でますます高まりました

 あなたはついさっき、その存在しないはずの魔法で

 ドラゴンの群れを蹴散らしたばかりじゃないですか

 時間停止という、まさに時間を操る能力を使ってね

 『強大すぎる能力がゆえに隠しておきたい』……

 そう考えるのは、あなただけではありませんよ」


図星を突かれた黒岩氏は目を泳がせ、

この鋭い後輩を黙らせる方法は何か無いかと思案し、

結局思いつかないので進道氏に助けを求める。


が、進道氏にも反論の手は思い浮かばなかった。

彼は怒っているような、呆れているような表情で

ただ黒岩氏をじっと見つめるだけである。

これは憶測だが、彼は調子に乗る黒岩氏に対して

普段から警告していたのだろう。

『人前でその能力を使うべきではない』と。


まあ実際どんなやり取りがあったかはわからないし、

それはさしたる問題ではない。

安土にとって重要なのは、時間を操れる能力者が

この世には確かに存在しているという事実だ。


と、ここで進道氏が着席し、皆の注目を集める。


「まあこいつが時間停止能力者かどうかはさておき、

 どこかの誰かのわがままにつき合わされて

 同じ人生を何度もやり直しさせられてるとしたら、

 あまりいい気分はしねえよなあ?」


黒岩氏は一刻も早く話題を切り替えたいのか、

進道氏の意見に全力で同意しながら激しく着席し、

勢いで椅子をメキメキと鳴らして皆の注目を集めた。


椅子が壊れんばかりに着席した彼女とは対照的に

安土は物音ひとつ立てずに腰を下ろしたので、

それはそれで皆の注目が集まる。


「この世に存在しないはずの魔法、時間逆行……

 とても興味深い現象ではありますが、

 俺はその件にはノータッチでいこうと思います

 というのも他にも解決すべき重要な課題があり、

 例の能力が発動されるより前に対処しなければ

 不都合な未来が確定してしまう恐れがある

 俺たちは運命を改変することに集中したいので、

 ループ現象の原因究明や能力者の特定に関しては

 国内最高峰の魔法技術と実績を兼ね備えている

 進道さんたちに一任するべきだと考えてます」


とりあえず神楽は立ちっぱなしでいるのも疲れたので

座ろうとすると、タイミングを計ったかのように

並木氏が先に着席して、皆の注目がそちらに集まる。


神楽は嫌な予感がしつつも、恐る恐る腰を下ろした。


するとやはり、皆の注目が神楽に集まったのだ。


「何このシステム」

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