1ヶ月
鬼島神楽が停学になった。
どうやら彼女は小学生と揉め事を起こしたらしい。
とうとう性犯罪に手を染めたか……と納得しかけるも
それなら逮捕、あるいは補導されているはずであり、
学園は退学処分を下すのが妥当だろう。
まああの女が何をしたにせよ、
これで平穏な学園生活を送れるというものだ。
1学期が終わるまでのあと数日間、
それまでは物陰に怯えなくてもよい。
夏休みに入ってしまえばもう安心、
さすがに自宅までは押しかけてこないだろう。
自宅に帰ることができれば、の話だが。
「あはは、今年もやっちゃったね〜」
「やっぱりこうなると思ってたのよ……」
「なんで補習なんてもんが存在するんやろか」
杏子ら3人は期末テストで赤点を取ってしまい、
今年もまた貴重な夏休みを補習で潰す形となり、
女子寮と学園を往復する生活を余儀無くされたのだ。
まあ、今回が初めてではない。
冬休みも含めてこれで3回目なのだ。
もう慣れた。
そして、かけがえのない仲間たちが
30人ほどいるので寂しくはない。
上級生、下級生を含めれば100人以上になる。
なんとも賑やかな長期休暇だ。
「今年もみんなでバーベキューしようぜ!
もちろん夜は花火で決まりだ!」
「肉の仕入れは俺に任せろ!
駅前にいい店発見したからよ!」
「じゃあ私は野菜担当かねぇ
誰か一緒に買い出し行ってくれる人〜?」
「ふふ、今から楽しみね
やっぱり夏休みはこうでなくちゃ」
鳩中のパーティーは全滅した。
なんともありがたいことである。
毎回、彼らが率先して盛り上げてくれるおかげで
勉強漬けの日々でもなんとか耐えられるのだ。
それに杏子たちのパーティーは全滅ではないので、
彼らに対して優越感に浸ることができる。
あまり褒められた行為とは言えないが、
精神的な余裕を保つためなので仕方ない。
チームブラックの全滅を防いでくれた立役者、
我らがリーダーである安土桃太郎は
メンバー3人に対して冷ややかな視線を送った。
これは彼からの置き土産だ。
今年の夏も暑い。
あの氷の眼差しが熱中症対策になることを願う。
──そして、夏休みが始まった。
去年は夏冬共に遅刻することが多く、
先生から何度も注意されてしまったので
もう同じ過ちを犯さないように対策を練っておいた。
名付けて“お泊まり作戦”。
親元を離れて寮での一人暮らし。
それに長期休暇だ。気が緩んでも仕方ない。
時間の許す限り二度寝、三度寝してしまうのも
ある意味当然と言える。
ならば、1人でいなければよいのではないか?
友人たちと寝食を共にして互いを監視し合えば、
だらしない生活リズムにはならないはずだ。
隙の無い完璧な作戦である。
そして楽しいお泊まり会は朝方まで続き、
3人仲良く寝坊して先生から怒られました。
今更ながら当学園における平常時の時間割は
午前は通常授業、午後は戦闘訓練となっていて、
休暇期間中は午前午後共に補習の時間となる。
一日中勉強しなければならないのは苦痛だが、
考えてみれば一般の高校生にとってはそれが普通だ。
彼らは戦闘訓練を免除される代わりに、
勉学という名の精神的拷問を受けているのだ。
「よく耐えられるよねえ、私だったら無理」
「一般人に生まれなくて助かったわ」
「普通の人らは逆の感想言うやろな」
食堂でそんな会話をしながらふと窓の外を見ると、
訓練棟の廊下を歩く大上隼斗が視界に入る。
彼はTシャツ姿で首からタオルを垂らしており、
おそらく下はハーフパンツでも履いているのだろう。
なんにせよ制服を着ていないので補習組ではない。
今回の休暇も訓練漬けの毎日を過ごすつもりなのだ。
「相変わらずストイックだなあ……」
「一日中訓練ってのも苦行よね」
「大上はんはようやっとる」
杏子の大上に対する嫉妬心は消え去っていた。
今や彼を1人の男として認めており、
頑張れ、頑張れと心の中で応援しているまである。
彼には安土にふさわしい男となってほしいのだ。
歪んだ意味で。
午後の補習が終わり、
杏子たちは訓練棟の女子プール室までやってきた。
水泳は全身運動なので体力の向上及び維持に役立ち、
魔法を使う際の集中力を高める効果もあるのだとか。
物理・魔法の両方を強化させることができるので、
学園から自主練メニューとして推奨されている。
取り組むための敷居が低いという点も見逃せない。
必要となる水着は自由に選ぶことができ、
購入費用は学園持ちなのでノーコストで済む。
しかもそれを私用で使ってもいいというのだから、
非補習組の女子はこぞってお洒落な水着を仕入れて
真夏のビーチで男漁りに精を出しているらしい。
まあ、補習組の杏子たちには無縁な話ではあるが。
とりあえず今日は自主練しに訪れたのではなく、
純粋な遊び目的でこの場に顔を出した。
それでもいくらかの訓練効果には期待できるので、
全く無益な時間を過ごすわけではない。
「よっ! ほっ! そいや!」
と珍妙な声を出しているのは警備員の高崎さんだ。
彼女は紐同然の過激な水着を身に纏っており、
プールの端から端まで張ったロープの上を歩きながら
時折ジャンプや逆立ちなどのパフォーマンスを加えて
見物人たちが飽きないように楽しませてくれている。
なんたる身体能力の持ち主。まるでサーカスである。
練習を重ねれば誰でもできるようになるそうだが、
今のところ普通の綱渡りさえ達成者はごくわずかだ。
彼女はあのレベルの曲芸をこなせるようになるまで
一体どれだけの時間を費してきたのだろうか?
余談だが高崎さんは絶賛彼氏募集中だそうで、
身長190cm以上のワイルド系イケメンが好みらしい。
且つ細マッチョで頭脳明晰、物静かな性格で、
動物や子供を愛せる心の持ち主が必須条件とのこと。
欲を言えば冒険者という職業への理解度が高く、
素手でドラゴンをぶち殺せる程度の強さだと尚良し。
妥協しないと婚期を逃すパターンだ。
──そんなこんなで楽しい日々は過ぎてゆき、
校庭でバーベキューをしたり、夜には花火をしたり、
男女混合による水中騎馬戦大会を開催したりと、
補習組一同は今年の夏休みも大いに満喫していた。
そんなある日、学園に1本の電話が入った。
掛けてきたのは安土。
ただし、安土桃太郎のことではない。
安土製菓の社長からである。
その彼が魔物の討伐依頼を申し込んできたのだから、
なんともおかしな話である。
彼はなぜか隣県にある日本魔法学園にではなく、
この関東魔法学園に連絡を取ってきたのだ。
魔物の討伐なら遥か遠くに位置する埼玉にではなく、
最寄りの大阪に頼むのが常識だというのに。
だがそれもそのはずで、彼が欲しがっていたのは
その辺の有象無象の冒険者などではなく、
安土桃太郎の仲間だったのだから。
「詳しい内容は向こうで話すそうだ
どうも急ぎの用件らしいからヘリを飛ばすぞ
当然だが、今日の補習は免除する」
訓練官に呼び出された杏子ら3人は緊張していたが、
『補習は免除』の一言で不安が和らいだ。
なんとも頭の緩い女たちである。
基本情報
氏名:犬飼 杏子 (いぬかい きょうこ)
性別:女
サイズ:L
年齢:17歳 (4月15日生まれ)
身長:140cm
体重:40kg
血液型:AB型
アルカナ:塔
属性:雷
武器:エメラルドソード (短剣)
防具:プリテンダー (盾)
防具:ブラックレイン (衣装)
能力評価 (7段階)
P:3
S:3
T:3
F:4
C:7
登録魔法
・ヒール
・サンクチュアリ
・ライジングフォース
・エクリプス
・サンダーボール
・サンダーストーム




