2ヶ月
「なあ安土君
ウチの着てる鎧、返さんでええの?
重いからって理由で押しつけられたわけやけど、
例の刀はあんさんの手元に戻ってきたんやし、
また装備できるようになったんとちゃう?」
「あれはもうお前の物だ
優秀な防御役に成長してくれた褒美だと思え
それに、俺には軽装が性に合ってる
重装では小回りが利かずに不便が多いと痛感した
入学前は現場に出る機会が無かったからな
実際の使い心地を確かめることができなかった」
猪瀬はブラックダイヤモンドの処遇について
リーダーと相談していた。
最高級の鎧を装備できるのは幸運なことではあるが、
庶民である彼女が数千万円の品を使い続けるのは
気が引けるし、相当なプレッシャーだった。
ゆえに『もし傷付けたらどうしよう』などと
本末転倒な考えに悩まされる時もある。
防具は傷付いて当然なのにだ。
なんにせよ、彼女はその鎧を好きではなかった。
デザインがよくない。
猪瀬は白や黄色などの明るい配色を好み、
全身真っ黒のファッションでは気分が萎えるのだ。
人骨がモチーフというのも不気味で可愛くない。
それをカッコよく思う層がいるのは把握しているが、
彼女自身は正反対の感性の持ち主なのである。
事情を知らない後輩から“そういう趣味の人”だと
勘違いされるのは困る。というか困っている。
それにイケメン安土のおさがりという理由で
安土ファンの女子たちが羨ましがり、
中には陰湿な嫌がらせを行う者もいる。
上履きに画鋲を仕込むなどの古典的なものから
個人ロッカーの鍵穴を接着剤で塞ぐなどの
悪質なものまで、その手口は幅広い。
とにかく、猪瀬はその鎧が大っっっ嫌いだった。
「なんだ、そんなことか」
「え〜……」
この温度差よ。
「デザインが気に食わないならカスタムすればいい
塗装だけなら1週間程度で完了するし、
全体を改造する場合でもせいぜい2〜3ヶ月だ
無論、費用は俺が出す
メンバーのモチベーションを管理するのも
リーダーとして当然の役割だからな」
「え、改造OKなん?
あのデザインって安土君の好みなんじゃ……?
ってか色も?
チームカラー揃えんでええの?」
「デザインは職人に任せたらああなっただけだ
俺は装備品に実用性以外の要素を求めてない
色も形もお前の好きにしろ
俺たちは『チームブラック』なんて呼ばれてるが、
誰かが勝手に付けた名前に拘る必要は無い」
そういえばそうだった。
以前装備品のカタログを渡された際、
彼からああしろこうしろと指定されたわけではない。
誰かが『チームカラーは黒』とか言い出した結果、
半ば強制的に色が統一されてしまっただけである。
「それから嫌がらせについてだが、俺は対処しない
学園の備品に細工されたら学園に訴えればいい
それ以外のケースについては自分でどうにかしろ
我慢するなり反撃するなり、お前の自由だ
……それにしても頭の悪い連中だな
自らの行為が招く結果を全く想像できていない
ますます俺から相手にされなくなるだけなのに、
自分で自分の首を絞めてどうする」
「安土君もそうゆうことする人は嫌いなんやね」
「当然だろう、好きになる理由が無い
……言っておくが、俺もされる側だ
そしてお前より経験年数が多いという自負がある
1つ助言を与えるとしたら『我慢はするな』だ
二度と同じ真似ができなくなるように徹底的に潰せ
暴力で解決したくなければ頭を使え
相手は馬鹿なんだ、どうとでもなる」
「おお……
なんか助言1つじゃなかった気がするけど、
ちょっと元気が出てきたぞ……
とにかく相談に乗ってくれておおきにな!
今言われたこと参考にして、なんとかしてみる!」
……という会話があったらしい。
「今回もブタ褒めされたんだねぇ
人生のアドバイスまで貰っちゃって」
「やっぱり気に入られてるんじゃないの?
あいつ、長身フェチだったのかしら?」
「あ、2人ともウチの話を全然聞いてなかったんやね
あのごっつ気味悪い鎧をどうするかって内容やん
リーダーが好きにせいゆうてたし、
ウチは遠慮なくそうさせてもらうで」
「えー? 今のままでいいのに」
「そうよ、似合ってるじゃない」
「全っ然似合っとらんわ!
それ以前に好いとうない、アカン
陰気なメンバーが多いこのパーティーの中で、
唯一の光属性キャラがウチなんや
身に付けるもんもそれ相応の見た目にせなあかん
せやからあの鎧は明るいのに生まれ変わらせるで」
「金箔でも塗せとけばいいよ」
「ダイヤに黄金を足して価値が上がるわ」
「なんでそうなるねん
てか、ダイヤって名前だけやろ?
実物使われてるわけがないやん」
「使われてるよ?
天然じゃないけど」
「だから高いのよね
一点物って理由もあるけど」
「えっ、ちょっ……ホンマ?」
「ほんま」
「んまんま」
「ますます気ぃ使うやん……」
安土から押しつけられた例の鎧には、人工とはいえ
本物のダイヤモンドが使用されている事実を知り、
本当に改造していいものか思い悩む猪瀬であった。
「──にしても、安土君って
なんだかんだで優しい一面もあったんやね
最初は冷たい人や思うたけど……や、今でもそうか
まあともかく、正直なとこがええ」
「あ、ブタちゃんが安土君のことブタ褒めし始めた」
「わんこが諦めるのを待ってたのね、強かな女」
「恋愛の話ちゃうわ
あくまで人間として、の意味やよ
……普通あんなん言わへんやろ
『お前を利用してる』みたいな台詞
もしあれがマジでガチのクズやったら、
一生黙ってわんこちゃんを利用しとったわ
それなりに仲間を大事に思っとる証拠や」
杏子の中で封印したはずの感情が燻り出す。
だがその感情が再び熱を帯びないように、
もう燃え上がらないように、と自分に言い聞かせて
必死に抑え込んでやり過ごす。
この恋は終わったのだ。
今更何ができるわけでもない。
引きずるのはやめておこう。
またつらい思いをするだけなのだから……。
基本情報
氏名:亀山 千歳 (かめやま ちとせ)
性別:女
サイズ:J
年齢:17歳 (6月9日生まれ)
身長:156cm
体重:42kg
血液型:A型
アルカナ:悪魔
属性:氷
武器:スリップノット (鞭)
防具:ブラックマトリクス (衣装)
能力評価 (7段階)
P:3
S:1
T:6
F:6
C:9
登録魔法
・デッドエンド
・デッドロック
・デッドヒート
・アイスジャベリン
・フローズンレイ
・フリーズ
・バインド
・ヴェクサシオン
・ディーツァウバーフレーテ




