表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
進め!魔法学園2  作者: 木こる
決死行
20/32

3ヶ月

「安土せんぱ〜い!

 こっち向いてくださ〜い!」


後輩女子からの猫撫で声が聞こえてくるが、

イケメン安土は決して振り向かない。


甘い甘い、彼は女には興味が無いのだ。

いくら女性らしさをアピールしたところで、

それは無意味というもの。


……などと心の中で呟く杏子は、

優越感に浸った目で哀れな後輩を眺めていた。

この新しい楽しみを友人たちと分かち合いたいが、

なんかドン引きされそうな予感がしていたので

なかなか言い出せないまま1ヶ月が過ぎてしまった。


「わんこ、なんか無理してない?

 あれだけキッパリとフラれたんだし、

 もっと落ち込んでてもおかしくないのに

 妙に明るく振る舞ってるから心配になるわ……」


おっと、これはいけない。

友人を心配させてしまった。


たしかに犬飼杏子の恋は玉砕に終わった。

意中の相手から直接断言されてしまったのだ。

『俺がお前を好きになることはない』と。

だが、それがなんだ。

何も問題は無い。


彼女はもう次の段階へと進み始めていた。






本日はダンジョン第5層での狩りを予定しており、

チームブラックの面々は目的地に向かう途中で

ちょっとしたアクシデントに見舞われた。

とはいえ本当に些細なトラブルであり、

彼らにとっては取るに足らない出来事だった。


「うわあ!

 バルログがいるじゃないか!」


と、監視役で同行していた眼鏡が慌て出す。

バルログ……羽の生えた熊みたいな魔物だ。

まあ初めて見た時は杏子たちも驚いていたが、

攻略法さえ知っていればただのザコである。

同行者の中年男性は元冒険者とはいえ

現役を退いてから長いということもあり、

戦術の進化といった情報に疎いのも無理はない。




リーダー安土は猪瀬にハンドサインを送り、

彼女自身に防御力上昇の魔法を使わせてから

敵に接近するよう指示を出す。

接近者の存在を察知したバルログは距離を詰め、

その大木のように太い右腕を振り上げて

猪瀬目掛けて勢いよく叩きつけた。

だが直前に亀山による攻撃力低下の魔法が入り、

元々鉄壁の守りであった猪瀬の硬さとの相乗効果で

バルログの攻撃は完全に無効化された。


猪瀬は盾を構えたままその場から1歩も動かない。

恐怖で足が竦んだわけではなく、これも作戦だ。

そしてしばらくバルログの好きにやらせていると、

件の魔物は左手で猪瀬を掴んだではないか。

「ああっ、まずい……!!」と眼鏡が青褪めるが、

これこそがバルログ攻略における最善手である。


「バインド!」

亀山はバルログの左手を拘束した。

猪瀬は掴まれたままだが、それでいい。

バルログは猪瀬を壁に投げつけようとするが、

その異物は掌中にガッツリと括り付けられているので

左手から離れることはない。

行動に失敗したバルログは仕切り直そうとするが、

現在は左手に異物を掴んでいる状態なので

それを投げる動作を最優先し、再び失敗する。

以降は同じ作業の繰り返しであり、

バルログはただの大きなサンドバッグと化す。


“山田メソッド”。

敵の特定行動に対して味方の妨害行動を差し込み、

強制中断と再試行のサイクルを生み出すことで

相手を無力化する画期的な戦術である。

発見当初はバルログにのみ有効と考えられていたが、

現在では様々な魔物に対して応用されている。


口を半開きにして呆然と立ち尽くす眼鏡は、

更に驚きの光景を目の当たりにする。


安土流剣術奥義・蠍突(さそりづ)き。

その狙いすました一撃はいかなる装甲をも貫き、

岩のように硬いゴーレムの外殻さえ物ともしない。

少々溜め時間が長いので、素早く動き回る相手には

有効ではないとされている。


ともあれ、バルログは一撃で仕留められたのだ。




──眼鏡は巨大な魔物の亡骸の前に佇み、

まだ自分が見たものを信じられない様子だった。


さぞ怖かっただろう、そしてチームブラックの強さに

さぞ驚いたことだろう、と杏子は自慢げな顔になる。

彼女はこの戦闘で何も貢献していないのに、だ。


「いやあ、驚いたね

 まさか一撃でやっつけるとは……

 いや、それよりバインドの使い方だよ

 これが山田メソッドか……うん、やっぱりすごいな

 バルログに掴まれる前提の戦術だなんて、

 僕らの世代にはとても思いつかない発想だよ

 当時は『バルログに掴まれたら終わり』

 って教えが全国に浸透していたから、

 とにかく捕まらないように必死だったんだ」


……おや?

どうやらこの眼鏡、山田メソッドをご存じな様子。

現役引退後もそれなりに情報を仕入れていた模様。


「当時の主流は“ベーゴマ”っていう戦術でね

 最低でも3人以上の槍使いで相手を取り囲んで、

 反時計回りに1発ずつ加えていくんだ

 そうするとバルログはその場でグルグルと回転して

 攻撃目標を上手く定められなくなる

 そのずっと回し続ける様子をベーゴマになぞらえて

 ……って、今の子はベーゴマ知らないか」


ああ、この人は生存者なんだ。

まだ安定した冒険環境が整えられていなかった時代、

死と隣り合わせの戦いを切り抜けてきた人なんだ。


それに気がついた杏子は、自分が恥ずかしくなった。






その夜、杏子は学習机に向かい、

ノートを広げて熟考していた。


ページの中央には“安住(あずみ)桃太(とうた)”の文字。

例のBL本におけるイケメン主人公の名前であり、

安土桃太郎をモデルにした生意気な美少年キャラだ。

杏子には絵心が無いので文字のみの登場となる。


その周りを男1〜6が取り囲んでいる図を描き、

反時計回りに矢印を中央の安住桃太へと向けてみる。


するとあら不思議、


ベーゴマの完成である。


杏子は一晩中この新しい遊びに興じ、

自らの可能性を広げていったのだ。

基本情報

氏名:猪瀬 牡丹 (いのせ ぼたん)

性別:女

サイズ:K

年齢:16歳 (8月15日生まれ)

身長:178cm

体重:62kg

血液型:A型

アルカナ:太陽

属性:炎

武器:なし

防具:ブラインドガーディアン (盾)

防具:ブラックダイヤモンド (重鎧)


能力評価 (7段階)

P:7

S:5

T:5

F:3

C:5


登録魔法

・ファイヤーボール

・ファイヤーストーム

・マジックシールド

・ヴェクサシオン

・エクリプス

・アナライズ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ