4月
──時は遡り、去年の4月。
関東魔法学園に新たな顔触れがやってきた。
この春から学園の一員となった新入生たちだ。
『初々しい』という言葉は彼らのためにあるのだろう。
下ろしたての制服を既に着崩している者もいるが、
それすら背伸び感があり、可愛げがあるというものだ。
その中に1人、異彩を放つ男子がいた。
名を安土桃太郎。
彼には異性を惹きつける魅力があった。
女子たちは彼の姿を一目見ただけでその虜となり、
手鏡を取り出しては髪型を整え、無駄毛を処理し、
笑顔の練習をして彼との対面に備えるのだった。
それは恋愛至上主義のグループに限った話ではなく、
ガリ勉、スポ根、オタク、不良など、
普段あまり男子を意識していない層の女子でさえも
彼のことで頭が一杯になるほどであった。
早い話、安土桃太郎はイケメンなのだ。
「安土君、こっち向いて〜!」
「同じクラスだからよろしくね!」
「一緒に写真撮ろうよ! 入学した記念に!」
そんな声が両サイドから聞こえてくるが、
安土はその全てを無視して女子の群れを通り過ぎる。
大勢の女子から好かれているというのに喜びもせず、
かと言って苛立っている様子も見られない。
彼は同じ状況を幾度も経験してきたのだろう。
彼女らと親睦を深めるつもりは一切無いようで、
無表情のまま女子の群れを一瞥するだけだった。
「や〜ん! 無視されちゃった♡」
「あのゴミを見るかのような目……ドキドキする♡」
「なんだか何かに……何かに目覚めてしまいそう♡」
不思議なもので、安土はますます女子から好かれた。
「チッ、なんだよあいつふざけやがって……」
「イケメンなら何しても許されると思うなよ……」
「どうせ顔だけだろ、あんな奴……」
そして面白くないのは男子たちである。
男女問わず、誰かがチヤホヤされている姿というのは
基本的に好ましいものではない。
しかも、それがただ生まれ持った外面の良さだけで
褒めそやされているとなると尚更タチが悪い。
顔面レベルが平均以下の彼らが決して勝てない相手。
これからの3年間、その存在と共に過ごすことで
彼らは残酷な現実を直視し続けなければならない。
彼らは常に“機会の損失”を味わうことになるのだ。
安土は男子たちからもイケメンと呼ばれた。
ただしそれは『イケてるメンズ』の略称ではなく、
『イケ好かないメンズ』の意味を込めた蔑称である。
入学して間もなく、安土は小テストで満点を取った。
まあ、まだこの学園で習った知識はごくわずかだし、
ほぼ中学時代のおさらいなので難しくはなかったが、
それでも彼が顔だけの存在ではない証明にはなった。
他にも満点を取った者は何人か存在したのだが、
彼らについて言及される場面は終ぞ無かった。
安土は走ってもイケメンであった。
体育の授業及び戦闘訓練の時間、この時間帯に限り、
彼はいつもの無表情とは違う一面を見せていた。
肉体に負荷をかける行為は誰にとってもつらいもので、
本気を出すほどに苦痛で顔が歪むのは必然である。
それはイケメンの安土とて例外ではない。
しかし彼の場合、苦痛に歪んだ顔すら美しいのだ。
困難に耐え、自己を乗り越えようとするその姿は
見る者の心を打ち、涙を流す者まで現れた。
元陸上部の男子が底力を発揮して安土を追い抜き、
得意げになって嘲笑う場面もあったが、
女子たちが注目するのは安土だけだったので、
彼の小さな勝利は誰の記憶にも残らなかった。
安土は冒険者としてもイケメンであった。
大抵の生徒は1学期の終わり頃になってようやく
初めて魔法が使えるようになるのが一般的だが、
彼はこの時点で既に5つもの魔法を登録済みであり、
同級生たちは否が応でも格の違いを思い知らされた。
安土のイケメンポイントはそれだけではない。
使用する武器が刀なのである。
普通の剣よりも高い技量を要求されるという
上級者向けのそれを、彼は難なく使いこなした。
しかもどうやらそれはただの刀ではないようで、
隕鉄を材料にして作られた一点物らしい。
安土桃太郎という男は、武器さえもイケメンなのだ。
ただ1つだけ、女子たちには不満点があった。
安土が冒険活動中に装備している防具である。
それは黒光りする重厚な全身鎧であり、
その兜には禍々しい髑髏の意匠が施されていた。
鎧のパーツも人骨を連想させるデザインなのだが、
とにかく顔が隠れてしまうのが残念ポイントだった。
なんにせよ、安土桃太郎はすっかり時の人であった。
女子も男子も口を開けば彼の話題で持ちきりになり、
それは青春真っ盛りの若者だけに限った話ではなく、
いい歳をした職員たちまでもが彼の動向に注目し、
業務がおろそかになっていた事実は否めない。
基本情報
氏名:安土 桃太郎 (あづち ももたろう)
性別:男
年齢:15歳 (9月6日生まれ)
身長:165cm
体重:60kg
血液型:O型
アルカナ:死神
属性:無
武器:首切姫 (妖刀)
防具:ブラックダイヤモンド (重鎧)
能力評価 (7段階)
P:9
S:8
T:7
F:6
C:5
登録魔法
・ディスペル
・リフレクト
・マジックアーマー
・ディヴォーション
・ソウルゲイン