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進め!魔法学園2  作者: 木こる
決死行
19/32

4ヶ月

1週間にも満たない春休みの間、

杏子は珍しく学習机に向かい、

ノートを広げて熟考していた。


安土桃太郎は女子に全く関心を示さず、

特定の場面では急に口数が多くなる。


大上隼斗は男前である。


杏子の中では、ある方程式が成立しつつあった。




きっかけは先月の卒業式。

卒業生代表として元生徒会長がスピーチを行う中、

一部の女子グループが身を寄せ合って号泣していた。

彼女らは元生徒会長と親交が深かった集団であり、

その中心人物が学園から去った後の日常を想像して

寂しさと不安に耐えられなくなったのだろう。

まあ、卒業式ではよくある光景だ。


杏子は彼女たちが苦手だった。

率直に言って気持ち悪いからだ。

髪質はパサパサかギトギトの2パターン、

ニキビ面は仕方ないにしてもヒゲや鼻毛を放置、

不揃いの黄ばんだ歯を全開にして爆笑したり、

近くを通ると酸っぱさで目が痛くなる。

その女子グループは全員が全員そんな感じであり、

なんというか、女として終わっている集団だった。


イケメンが好きな杏子は、ルッキズム上等の精神で

そのグループの女子とは関わらないようにしていた。

だが杏子は気になるワードを耳にしてしまったのだ。


『アスカ隊長が遺したモモ君総受け本は、

 オレたちの手で守り切るんだ!』

『そしてゆくゆくは我々から後輩へと渡り、

 後輩から未来の後輩へと受け継がれ──』

『モモ君の存在は永遠に不滅となるのだ……!!』


式典中に大声で騒ぎ出した彼女たちは悪目立ちし、

教職員から厳重に注意されて会場から摘み出された。


気持ち悪い上に馬鹿な連中だなと思った。

だが、『モモ君総受け本』という言葉が

杏子の小さな脳内にこびりついて離れず、

式の終了後に例のグループの者との接触を果たし、

その現物を拝見させてもらうことができたのだ。



それは衝撃的な体験だった。


ノーマルな少女漫画しか読んでこなかった杏子には

BLという文化は完全に未知なる世界であり、

新鮮で、刺激的で、背徳感溢れる娯楽だったのだ。

しかもそこに描かれているイケメン主人公は

どう見ても安土桃太郎をモデルにしたキャラであり、

敵の策略に嵌まってやりたい放題にされるなどの

現実ではまず絶対にあり得ないシチュエーションが、

杏子の中で眠っていた何かを目覚めさせたのである。






──新年度が始まり、入学式とHRが終わり、

安土は新入生たちの前に姿を現した。

彼はどこかへ向かっていたわけではない。

そのイケメンっぷりを存分にアピールして

新入生からの注目を集めることが目的であり、

友好的な者と敵対的な者とを選別していたのだ。

そして友好的な者の中から利用価値がありそうな者を

リストアップし、今後の計画に組み入れる。


彼は去年も同じことを実行し、成功した。

杏子の存在はまさに友好的で利用価値のある女、

安土桃太郎にとっては使い捨ての駒であった。

餌を与えずとも飼い主に尽くす従順な忠犬……

なんと健気(けなげ)で、愚かで、都合の良い女だろうか。




本日のイケメンアピールを終えた安土は

ミーティングルームにパーティーメンバーを招集し、

現状報告と今後の展望について語った。


「まずは、これだ」


長机の上に見覚えのある黒い箱が置かれ、

ロックをガチャガチャと外すと、中には──首切姫。


彼は取り戻したのだ。

取り戻してしまったのだ。

絶大な力を与えられる代償として、

魂が破壊されてしまう呪いの刀を。


よほど嬉しいのだろう、安土は鞘に納まった首切姫を

優しく撫でながら報告を続ける。


「前回のような事故が起きないように気をつける

 ……が、それだけでは不充分だ

 俺はこいつを誰にも触らせないように

 神経を尖らせていたつもりだったが、

 結局は油断して周りに迷惑を掛けてしまった

 そこで、今後は監視役が同行することになる

 彼らは一応冒険者免許は持っているものの、

 本職は安土製菓に勤めている社員たちだ

 最低限の武装はさせるが、戦力には数えない

 有事の際は彼らの安全確保を優先することになる」


その場にいた2人の大人が簡単に自己紹介したが、

べつにその人たちが専属の監視役というわけではなく

仕事の都合によって人員を交代させるそうなので、

名前を覚えておく必要はあまりないとのことだ。


杏子は言われた通り、彼らの名前を速攻で忘れた。



「次に、お前らの意思を確認しておきたい

 今年も俺の下で活動するかどうかの話だ

 よそへ移りたければそれでも構わない

 お前らにもつき合いというものがあるだろう

 安心しろ、代わりの人材は確保してある」


さすがは安土桃太郎、1年間苦楽を共にした仲間でも

首を切るのに躊躇しない。


「私は引き続きここで活動するわ

 他に行く当てが無いんですもの

 男子からはいやらしい目で見られるし、

 女子からのシャックリにはうんざりよ」


え、しゃっくり……?と困惑していると、

「カメちゃんはヤッカミって言いたかったんだね」

と、すかさず猪瀬がフォローを入れる。

よく翻訳できたな……。

それはさておき、亀山がいやらしい視線を浴びるのは

いやらしい格好で冒険活動をしているせいだと思う。


「ウチも契約更新でええよ

 外に友達はおるけど、どうせどのパーティーでも

 やることは前に出て防御に専念するだけやし、

 それに、ここよりゼニ稼げるとこ他に知らんしな」


出た。エセ関西弁。

一瞬で廃れていった謎のマイブームを、

なぜ今になってリバイバルさせたのか。

今年こそは定着させようと企んでいるのだろうか?


まあ、なんにせよ亀山と猪瀬は残るそうだ。

杏子も当然そのつもりだったので伝えようとしたが、

それを遮るようにリーダーが発言を行う。


「犬飼、もう一度念を押しておくが、

 俺はお前と友人や恋人になるつもりはない

 使える駒だから近くに置いてるだけだ

 この際だからはっきり言わせてもらうが、

 俺は、お前の俺に対する恋愛感情も利用している

 だがその想いが成就することは未来永劫あり得ない

 それを踏まえた上で、よく考えてから答えろ」


杏子は即答しそうになるも、

寸前で押し止めて少し時間を置いた。

答えはもちろん『残る』なのだが、

よく考えたふりを見せておかねばならない。


実際、彼女はよく考えてきたのだ。

なんとなく今日は契約更新の話がありそうだと

予感していたので、事前にシミュレーションして

それらしい台詞も用意しておいたのである。

あとは演技が上手くいくかどうかだ。


「うん……わかってるよ

 これが叶わぬ恋だってことくらい

 安土君が振り向いてくれないってことくらい……

 でも、それでも……っ!

 私は安土君のそばにいたいの!

 だからお願い……あなたのそばにいさせて……!」


……ああ、恥ずかしい。

まったくもって心底恥ずかしい。

顔から火が出る。穴があったら入りたい。

なんたる大根役者。台本棒読み。迷演技。

再放送で見かけたトレンディードラマを思い出す。

だが大目に見てやってほしい。

本人は至って真剣に名女優を演じているのだから。


するとどうしたことだろう、

安土桃太郎は目を閉じて眉間を摘んだかと思えば、

そそくさと教室の隅へと移動したではないか。


そして──肩を震わせ始めたのだ。


「フッ……クク…………ハハハ、

 アハハハハハハ!!」


彼はどんな顔をしていたのだろう。

こちらに背中を向けていたのでわからない。

横から覗き込もうにも位置的に壁が邪魔で見えない。

下から確認する手もあるが、そんなことをすれば

あとでクビにされるのが目に見えている。

残念だが諦めるしかない。


まあ、とにかく……安土が笑ったのだ。

あの安土桃太郎が、初めて人前で大声を上げながら

楽しげな感情を曝け出してくれたのである。


念願の“初めて”を奪うことに成功した杏子だったが、

その大きな胸に秘めた想いはなんとも複雑であった。




しばらくして、安土は教壇の前に戻ってきた。

しかも真顔ではなく口角が少し上向いている。

杏子の大根演技がよほどツボったのだろう、

彼は誰にも見せたことのない笑顔で話を再開した。


と、ここでまたもやサプライズ。

彼は冒険活動に関する真面目な報告を切り上げ、

話題を『犬飼杏子を幸せにする方法』

にしようと提案してきたのだ。


なんと、まさかの恋バナである。


「……まずは俺を諦めろ

 それが大前提、必須条件だ

 断言するが、俺がお前を好きになることはない

 お前のように確固たる信念を持たず、

 ただ流されるまま生きているような女は願い下げだ

 俺のパートナーとして釣り合うわけがない」


『諦めろ』。

それは友人たちからも幾度となく言われてきた。

それを、とうとう本人からも言われてしまった。

完全に終わった。脈無し。失恋確定である。


「お前は視野が狭いんだ

 もっと周りをよく見てみろ

 俺ほどハイスペックの持ち主じゃなくても、

 いい男なら探せば他にいくらでもいるだろう」


『いい男』。

まさか本人の口からそれが聞けるとは。

誰のことを言ってるのかな?

大上君かな?


「自分で言うのもなんだが、俺はひねくれ者だ

 俺が女だったら、まず選択肢に入れないぞ

 そもそも顔の良い男にろくな奴はいない」


『俺が女だったら』。

杏子は例の本に描かれていたイケメン主人公の

あられもない姿を思い出し、背筋がゾクリとする。


「こんな性格の捻じ曲がった奴じゃなくて、

 誠実で協調性のある奴を選んだらどうなんだ?

 お前のことを第一に考えてくれる相手といた方が

 恋愛ごっこの好きなお前は満足できるだろうし、

 俺も煩わしさから解放されてお互いに得なはずだ」


「誠実で協調性のある人……

 えっと、もし身近な人で例えるとしたら……誰?」


「そうだな……」



ゴクリ。



「……大上隼斗なんてどうだ?」



杏子は心の中でガッツポーズを決めた。

基本情報

氏名:鬼島 神楽 (きじま かぐら)

性別:女

サイズ:AAA

年齢:17歳 (3月30日生まれ)

身長:151cm

体重:44kg

血液型:O型

アルカナ:運命の輪

属性:無

武器:ニルヴァーナ (杖)

防具:ブラックサバス (衣装)

アクセサリー:黒タイツ


能力評価 (7段階)

P:4

S:3

T:3

F:15

C:5


登録魔法

・スーパーノヴァ

・アブソリュートゼロ

・グランドクロス

・サンクチュアリ

・マナストック

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