3月
ダンジョン内は多くの1年生でひしめき合い、
1パーティーあたり5人前後のメンバーを編成して
第4層を目指して進軍していた。
目的はゴーレム退治。
進級試験の討伐対象である。
安土桃太郎率いるチームブラックもその中にいたが
彼らは1学期のうちにこのミッションを完遂しており、
他の同期生たちとは別の目的で同行していた。
その目的とは、1年生の護衛である。
彼らは同じ1年生でありながらも飛び抜けた実力と
確かな実績を認められ、本来は上級生の任務である
護衛の役割を与えられたのだ。
鬼島神楽は誇らしげな表情で心境を語る。
「ふふん、なんだかくすぐったい気分だわ
自分じゃあんまり気にしてこなかったけど、
あたしって結構尊敬されてたのね
ほら、みんなが羨望の眼差しでこっちを見てる
あの子たちも早く強くなれることを願うわ」
「お前は上級生だろう
あいつらは『なんで2年が1年に混じってるんだ?』
と困惑の眼差しを向けているだけだ
……で、なんで2年が1年に混じってるんだ?」
安土は困惑の眼差しを彼女に向けた。
だが鬼島神楽は目を逸らして沈黙する。
彼女自身もなぜここにいるのかわからないのだ。
護衛チームは他にも10組ほど同行しているが、
どれも2年生同士のメンバーで編成されている。
このパーティーだけが異質なのだ。
「その疑問には、このオイラが答えて進ぜよう!」
と、元気良く解説役を買って出たのは
2年生の佐倉香織。鬼島神楽の親友だ。
あんなのとよくつき合えるなと感心するが、
まあその件は今はいいだろう。
「ズバリ、神楽は訓練官から
1年生だと思われているのである!」
「身も蓋も無い」
「だってお前の誕生日って年度末じゃん?
発育が遅れてるせいで胸は小っせーし、
授業も訓練も全然ついてけてねーし、
やっとこさ魔法が使えるようになったのは
進級試験が始まってからだったかんな
実質、周りからすりゃ下級生みたいなもんよ」
「発育は遅れてないわ
これがあたしの限界なだけよ」
「そんでもって今年は同期の連中からハブられて、
ずっと安土のパーティーで活動してただろ?
そこで先輩らしいとこの1つでも見せりゃいいのに、
なんにもしてこなかったんだもんな?
そりゃ下級生と同じ扱いされてもしょーがねーよ」
「ハブられたんじゃないわ
上からの命令で仕方なくよ
まあ同期を誘っても断られただろうし、
たしかに先輩らしくなかったのも認めるわ
それじゃ下級生扱いされても仕方ないわね
……なによあんたの言う通りじゃない!!」
「まー、お前はやりゃできる子なんだから
来年は小さな胸を張れるように頑張れよな」
「小さな、は余計よ
でも応援してくれてありがと
来年こそはあたしも先輩風吹かしてやるから、
あんたは高い位置から指を咥えて見てなさい
そして死ね」
佐倉香織は爽やかな笑顔を浮かべつつ、
中指を立てながら自分のパーティーに戻っていった。
親友……なのか?
現地に到着した1年生たちは各自装備を再確認し、
準備が完了したチームから早速試験に取り掛かる。
「よっしゃあ!!
そんじゃ俺たちから行かせてもらうぜ!!」
そして大方の予想通り、一番手を名乗り出たのは
鳩中剣が所属する4人パーティーだった。
彼のように率先して動いてくれる人がいると、
後に続く者たちの参考になるのでありがたい。
リーダーを務めるのは彼ではないのだが、
まあ特に重要な情報でもないので割愛しよう。
「ライジングフォース!」
まず猿渡豪が味方全体の攻撃力を強化し、
「行くぜ!」「おう!」「いざ尋常に!」
「待て待て、デバフがまだ……え〜い!!」
高梨りんごが慌ててゴーレムの防御力を下げた。
彼らは作戦を打ち合わせなかったのだろうか……。
それとも先陣を切った鳩中剣の勢いに釣られてしまい
他の2人も突っ走ってしまった感じなのだろうか……。
どちらにせよ、チームブラックではあり得ない。
結成当初ならともかく、作戦に背いて勝手に動けば
容赦無くクビを言い渡されるだろう。
うちのリーダーはそういう人だ。
とりあえず彼らは4人がかりでゴーレムに張り付き、
胸の内部にある弱点──“核”を露出させるために
ツチとノミを使って外殻を削ってゆく。
カンカンカン、カンカンカン……。
初めの勢いはどこへ行ったのか、
なんとも地味な光景である。
時折ゴーレムが右手で掴んでこようとするが、
非常に動きが遅いので回避するのは容易だ。
鳩中剣がバク転しながら避けたりしていたが、
あれは全く無駄な動きだと言わざるを得ない。
そんな感じで外殻を削り切った後は、露出した弱点に
鳩中剣が渾身の一撃でトドメを刺して終了した。
無事にミッションを終えた彼らは拍手で祝福され、
返り血で全身ずぶ濡れになった鳩中剣は満面の笑みで
後続者たちに両手を振って応えるのだった。
彼らに教えてやりたい。
安土桃太郎なら一発で終わらせられるのだと。
──その後も1年生たちは彫刻セットを使って
カンカンとゴーレムの外殻を地道に削り、
露出した“核”にトドメを刺すという
ワンパターンな作業を繰り返していった。
しかしこうも同じ光景が続くと、本当にこんなのが
進級試験の内容でいいのかという気持ちにもなる。
生徒たちは皆、退屈していた。
中には段ボールの上で熟睡している者もいる。
まあそれも仕方ない。絵面が地味すぎるのだから。
たまに派手な魔法を使って味変してくれる者もいたが
所詮は一時しのぎにすぎず、1回観たら終わりである。
誰もが飽き飽きしていたその時、
あの男の出番がやってきた。
大上隼斗。
……と、高梨いちご。
さっき見かけた高梨りんごとは双子の姉妹であり、
どちらが姉で、どちらが妹なのかはわからない。
まあ、注目されていたのは彼女ではないので
どうでもいいが。
「……って、2人だけかよ!」
「どっか枠余ってたら入れてやれ!」
「大上、こっち空いてるぞ〜!」
親切な同期が2人を歓迎してくれる空気だったが、
事もあろうに大上隼斗は首を横に振り、
せっかくの誘いを断ったではないか。
まったく、なんて失礼な男だ。
と、今までの杏子ならそう思っただろう。
だが違った。
彼は最恐のアロエ先輩に真剣勝負を挑み、
小細工ありとはいえ勝利をもぎ取った男なのだ。
あいつならきっと何か変わったことをやってくれる。
そんな期待感を抱いていたのは杏子だけではない。
気づけば全員が大上隼斗に釘付けになっていた。
そして早速、彼は観客の期待に応えてくれたのだ。
彼はバッグから安全帽、防護ゴーグル、マスク、
手袋などの装備を取り出すとそれを相方と分け合い、
すぐに身支度を整えてから次なるアイテム、
黄色と黒の縞模様のテープを用意する。
2人は立ち入り禁止の意思表示を周辺に張り巡らせ、
「ここから先へは入ってこないように」と、
見物人たちを下がらせた。
そして大きなケースから取り出したるは──削岩機!
その日常生活ではまず使う機会の無い工具を目にした
見物人一同は興奮と困惑の渦に巻き込まれる。
「うおお、道路工事で使うやつだ!!」
「なんでそんなもん持ってんだよ!?」
「免許とかいるんじゃねえのそれ!?」
「ああ、意外に思うだろうけど──」
と大上が説明しかけたところ、発言を遮るかのように
解説役の安土が口を挟んできたので、大上は黙った。
事実、発言を遮られたのだ。
「削岩機を使用するにあたって、免許は不要だ
その代わり“振動工具取扱作業者安全衛生教育”
というのを受講する必要はあるがな
一般人には満18歳以上の年齢制限があるが、
冒険者が特定の場所で特定の目的を遂行するために
使用する場合は例外的に許可が下りる
説明するまでもないとは思うが、特定の場所とは
ダンジョン内及び魔物の流出が確認された地域、
特定の目的とは体内に弱点が存在する魔物の外殻を
安全迅速且つ効率的に破壊する行為を指す
……立ち入り禁止テープの貼り方から推測して、
討伐目標を狭い通路に誘導して入口で始末する気だ
位置的に相手は壁が邪魔になって右腕を動かせず、
おかげで大上は掴まれる危険性を気にすることなく
一方的に外殻の破壊に専念できるという寸法だ
それこそ安全で効率的な戦術と言えよう
だが、準備に時間がかかりすぎるのが難点だ
迅速な討伐とは程遠いから減点せざるを得ない
……ちなみに削岩機はレンタル可能だ
購入したい奴もいるだろうが、用途が限られる上に
それなりに高額な品だという点は留意しておけ」
全てを説明された大上with高梨いちごは無言のまま
ゴーレムを狭い通路まで誘導し、効率的に処理した。
基本情報
氏名:佐倉 香織 (さくら かおり)
性別:女
サイズ:D
年齢:17歳 (4月2日生まれ)
身長:158cm
体重:42kg
血液型:A型
アルカナ:隠者
属性:炎
武器:桜吹雪 (短剣)
防具:花信風 (衣装)
能力評価 (7段階)
P:3
S:8
T:8
F:2
C:4
登録魔法
・百花繚乱
・落花流水




