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進め!魔法学園2  作者: 木こる
決死行
17/32

2月

2月1日のHR(ホームルーム)にて、安土から連絡事項があった。

この時間に教職員以外が黒板の前に立つのは珍しい。

ましてや、それがイケメンの安土桃太郎ともなれば

同級生たちが彼の言葉を真剣に聞き入れるのは

必然の道理であった。


「さて、今月はバレンタインデーがあるな

 お前らに無駄な労力を使わせないためにも、

 今この場ではっきりと伝えておく

 俺は誰からのチョコレートも受け取らん

 例外は無い

 もし机や下駄箱などに仕込んだとしても、

 全て廃棄するからそのつもりでいろ」


これが強者の発言だ。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ安土君!

 それを捨てるなんてとんでもない!

 どうせ廃棄するなら俺に横流ししてくれよ!

 一生に一度くらいは食べてみたいんだ……

 女子からの本命チョコってやつをさあ!」


これが弱者の発言だ。


「わかった、いいだろう

 では俺宛てのチョコレートは

 全て嶋田に処分してもらう

 他に意見が無ければ以上だ」


現場は騒然とする。まあ当然だ。

女子たちはその日を心待ちにしており、

早い者では半年前から彼にどんなチョコを送ろうかと

計画を練り、練習を積み重ねてきたのだ。

それが一瞬で全て台無しになってしまった。

愛が憎しみに変わったとしてもおかしくはない。


男子も男子で葛藤していた。

安土のおこぼれというのは気に食わないが、

嶋田同様に余計なプライドを捨ててしまえば

女子からの本命チョコにありつけるかもしれない。

たとえそれが自分宛ての物ではないにしろ、

ピュアな乙女心が詰まっているのは確かなのだ。

髪の毛や体液が混入している可能性もあるのだ。


クラスの皆がざわめく中、1人の男が立ち上がり、

安土の隣まで来て堂々と宣言する。


「俺も、誰からのチョコも受け取らん!!」


「え、鳩中?」

「何言ってんだあいつ……?」

「お前が安土の真似してどうすんだ」


鳩中剣。

かつて対人戦で安土に完封された男子である。

彼はイケメンではないが特に酷い容姿でもなく、

お馬鹿なギャグや下ネタで賑やかしてくれる奴なので

普通に考えれば好かれている側の人間だ。

なぜわざわざ自らチャンスを棒に振るのか……


「ふっ……俺は気づいちまったのさ

 今ここで受け取らないと宣言しておけば、

 当日に1個もチョコが貰えなかったとしても

 『ああ、あの時の宣言があったせいなんだな』と

 未来の自分に言い訳ができるということに……!」


「鳩中、お前……!」

「なんて悲しい奴なんだ……」

「虚しすぎるだろ……」


「え、クルッポ(※鳩中のあだ名)

 義理チョコもいらんの?

 私、男子全員に配ろうと思ってたんだけどな〜

 もちろん女子には友チョコあげちゃうよ〜」


「……俺は、前言撤回する!!

 誰からのチョコも貰う!!

 義理でも本命でも、どんと来いだ!!」


「鳩中、お前……!」

「なんて恥ずかしい奴なんだ……」

(てのひら)返すの早すぎだろ……」


こうして朝の無益な時間が過ぎてゆき、

午前が終わるまでには安土のチョコ拒否宣言は

全校生徒に知れ渡ることとなったのだ。




午後の訓練を終えて放課後になり、

チームブラックの面々がダンジョン前に集合する。

そこでまた珍しく、安土が冒険活動以外の内容で

メンバーに忠告をするのだった。

話題はやはりチョコレート。

くだらないように思えても、彼には重要事項である。


「俺には重度の食物アレルギーがある

 具体的にはバラ科アレルギーだ

 梅、桃、さくらんぼ、いちご、りんご、梨、

 あんず、びわ、カリン、プラム、アーモンド……

 他にもバラ科の植物は存在するが、

 有名どころではそれくらいか

 とにかく、アレルゲンを経口摂取したら俺は死ぬ

 だから食事には人一倍気をつけている

 材料が不明な食品を口にしないのは当然として、

 調理過程がわからない物も避けている

 手作りチョコレートなんてもってのほかだ

 ……と、ここまで懇切丁寧に説明しても

 俺に毒物を送りつける馬鹿女が過去に大勢いた

 お前らはやるなよ、もしやったらクビだ

 特に犬飼……お前が危ない」


名指しされた杏子は絶句するしかなかった。

彼女は今まさに指摘された通り、

『仲間のチョコなら受け取ってくれるかも』という

浅はかな考えで彼に毒物を送ろうとしていたのだ。

それに名前に『(あんず)』が使われていて複雑な気分だ。


「まさか安土君がアレルギー持ちだったなんて……

 カメちゃんは知ってた?」


「そりゃ当然

 入学してすぐに先生から説明あったでしょ?

 一番つき合いの長い私はよく理解してるし、

 安土君からエピペン持たされてるわ」


「え、先生から説明なんてあったっけ?」


「ほら、やっぱり聞いてなかった

 どうせ安土君の顔ばっか見てたせいで、

 他のことは何も頭に入らなかったんでしょうね

 そういう頭空っぽな女が一定数存在するから、

 彼は毎年チョコ拒否宣言なんてしてるわけよ」


「うぐっ……!」


と、ここでまた珍しいことに鬼島神楽が

安土に対して攻撃的ではない発言をしたのだ。


「あんたのそれってさ、化粧品とかにも反応すんの?

 あと石鹸とか香水とか、たぶん柔軟剤やなんかにも

 そーゆー成分が含まれてたりすんでしょ?

 なんか避けた方がいい商品とかあんなら、

 嫌な事故が起きる前に教えといてよね」


「まあ、そのへんはあまり気にしなくてもいい

 俺は誰かと違って他人に抱きついたりしないからな

 アレルゲンが皮膚に付着する可能性は低い

 ……しかし、どんな心境の変化だ?

 俺に『死ね』と叫びながら襲い掛かってきた女が、

 どうして事故の心配なんかするんだ?

 お前は俺に死んでほしいんじゃなかったのか?」


「失礼ね、本気で殺すわけないでしょ

 あたしは自由と美少女を愛する女なの

 殺人の前科なんて背負ってたまるもんですか

 刑務所暮らしなんてまっぴらごめんだわ」


「いつか性犯罪で捕まりそうだけどな」


「捕まらないように上手くやるわよ」


そこで会話を切り上げ、チームブラック一行は

本日の冒険活動をしにダンジョンへ入場した。



活動中、杏子は内心穏やかではいられなかった。


あの安土桃太郎が、冗談を言ったのだ。

判断の難しいところではあるが、

杏子にはそう聞こえたのである。


彼は率直な感想を述べただけなのかもしれないが、

憎まれ口の中にどこか親しみを感じたというか……

息の合った友人同士のやり取りを見ているような、

なんとも言えない疎外感があった。


悔しい。


以前の杏子は一方的な関係でも満足していたが、

こうも一方的ではない関係を見せつけられては

『やっぱり自分にもチャンスがあったのでは?』

という気分になってしまう。


ああ、どこで間違えてしまったんだろう?

もし人生をやり直すことができたなら、次こそは……


などと痛い妄想を膨らませる杏子だったが、

そんな都合の良い魔法を彼女に与えたところで

結局は失敗だらけの人生を繰り返すだけである。


この女には向上心というものが無い。

今までやってきた自分磨きといえば、

歯磨きと爪磨きくらいなものである。


安土ばかりチヤホヤされて見落とされがちだが、

犬飼杏子にはロリ+巨乳=ロリ巨乳という武器がある。

頭が悪くても許され、甘やかされて育ってきたのだ。

そして本人はいつも男のことばかり考えている。


これでは上手くいくはずがない。






──後日、安土経由でチョコを受け取った嶋田は

原因不明の腹痛に見舞われて病院に緊急搬送された。

基本情報

氏名:安土 桃太郎 (あづち ももたろう)

性別:男

年齢:16歳 (9月6日生まれ)

身長:165cm

体重:58kg

血液型:O型

アルカナ:死神

属性:無

武器:ごんぶと (木刀)

防具:阿修羅 (軽鎧)


能力評価 (7段階)

P:7

S:6

T:7

F:5

C:10


登録魔法

・ディスペル

・リフレクト

・マジックアーマー

・ディヴォーション

・ソウルゲイン

・マナストック

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