1月
月日が過ぎるのは早いもので、
気づけばもう3学期だ。
振り返れば入学して以来ひたすら訓練に励み、
ダンジョンに潜って魔物を狩りまくり、
夏休みと冬休みの補習で勉学にも勤しんだ。
まったく忙しい。
これでは恋愛などしている暇は無い。
10代半ばで多感な時期の少年少女たちが
学校という名の密閉空間で身を寄せ合っているのに、
こうも忙しくては男女関係など発展するわけがない。
犬飼杏子はそう思いたかった。
だが残念、カップルは存在するのだ。
堂々と手を繋いで廊下を闊歩する者たちや
1つのマフラーを2人で巻いて見せつける者たち、
周りにバレないよう陰でコソコソと逢瀬する者たち、
これからくっつきそうな雰囲気のある者たち……。
そういった甘酸っぱい青春行為は、
なにも若者だけの特権というわけではない。
1年3組の担任なんかは妻子ある身だというのに、
つい先日、4組の担任とのW不倫が発覚したのだ。
まったくいやらしい。
周りの連中は色恋沙汰しか頭にないのだろうか。
他にもっとやるべきことがあるだろう。
我々は魔法学園に通う生徒なのだから
立派な冒険者になれるように訓練を頑張って、
それから勉強とか、他にも色々だ。
……などと心の中で御託を並べてみるが、
杏子は自分自身の色恋沙汰が上手くいっておらず、
安土との仲が全く進展しない現実に幻滅していた。
「わんこ、もう諦めたら?」
「うわ、ズバッと言ったねえ」
見上げるとそこには友人たちの姿が。
まったくその通り。
まったくありがたいアドバイスである。
だが、そう簡単に諦められたら苦労はしない。
杏子は面食い、つまりイケメンが大好きなのだ。
そして安土桃太郎はイケメンなのである。
彼女はこの単純明快な方程式に基づいて安土に恋し、
彼と結ばれる未来を夢見て日々を過ごしてきたのだ。
「今更諦められるわけないよ〜〜〜!」
友人たちは呆れた顔を見合わせ、
次なるアドバイスを口にする。
「わんこは安土君から好かれようとして、
これまで費した時間や労力を無駄にしたくないのね
でも、いくら髪型をいじったり爪を塗ったところで
あいつは褒めてくれないわよ
私たちは所詮ただの駒としか思われてないんだし、
いい加減、恋愛感情は切り捨てるべきでしょ
わんこがやってるのは全くの無駄な投資……
こういうの、コンドーム効果とか言ったかしら?」
「コンコルド効果だよ」
費した時間や労力を無駄にしたくない。
その言葉が杏子の大きな胸にグサリと刺さる。
まったくその通りなのだ。
心の奥底では「もうダメかも」と理解していながらも
「まだいける」という気持ちを捨てられないのだ。
杏子にそう思わせてしまう原因は、
安土の態度が軟化したという事実にある。
第三者からすれば安土はずっと嫌な奴のままだが、
パーティーメンバーだからこそ感じ取ることのできる
微妙な反応の変化が確かに存在する。
杏子は、そこに希望があると信じていた。
「安土君はみんなが思うより酷い人じゃないし、
今は心を閉ざして壁を作ってはいるけど、
いつかきっと変わってくれるはずだよ……」
と前向きだかなんだかわからない発言に対し、
亀山はまたもやバッサリと否定するのだった。
「いやいや、変わらないって
あいつが欲しがってるのは協調性より即戦力、
友情より実績、恋愛より名声、みたいな感じでしょ
世界的な大企業の社長の甥っ子なんだし、
私たち庶民とはそもそもの考え方が違うのよ
もし将来誰かとくっつくにしても、
会社の株を上げるための政略結婚になるでしょうね
それこそ『利用価値のある女』でもない限り、
全く見向きもされないのがオチよ」
グサリ、グサリ、グサリ。
聞きたくない言葉を聞かされてしまった。
ああ、身分違いの恋。
それはなんともロマンチックな響きだが、
そう感じるのは部外者だけである。
安土桃太郎と犬飼杏子の関係は、
ロミオとジュリエットではない。
ご主人様とメイドの立場ですらない。
住んでいる世界が違う。見ている世界が違う。
いくら杏子が安土に熱視線を送ろうとも、
安土は全く別の方向を見続けるのだろう。
それこそ杏子は部外者なのだから。
私という女は、いつだって観客席に座っているのだ。
観客は物語の登場人物に恋をすることはできるが、
ロミオがスクリーンの外にいる存在に振り向く日は
永遠に来ないのである。
「いや、でも、安土君はほら、
彼も私たちと同じ人間なわけで、
その、思春期だし、感情とかあるし、
全くチャンスが無いとも言い切れないわけで……」
そして往生際の悪い女がここに1人。
恋は盲目とはよく言ったものだ。
叶わぬ恋など忘れてしまえば楽になれるのに、
先が見えていない彼女にはそれができない。
これはどうしたものかと友人たちが頭を抱える。
「わんこのためを思って助言をしたつもりだけど、
あまり効果は無かったようね
この手応えはなんだかアレみたい……
ほら、ED男と別れられない女と喋ってる感じ」
「カメちゃんはDV男って言いたかったんだね」
失恋確定の恋バナにつき合わされる方は
たまったもんじゃないだろう。
だが亀山も猪瀬も杏子を見捨てないでくれている。
なんと辛抱強い友人たちであろうか。
イケメンなリーダーの下で培った女同士の友情……
それもまた、かけがえのない青春の1ページである。
基本情報
氏名:関東 アロエ (かんとう あろえ)
性別:女
サイズ:G
年齢:推定18歳 (4月5日に保護)
身長:160cm
体重:54kg
血液型:分類不能
アルカナ:皇帝
属性:雷
武器:スレイヤー (拳鍔)
防具:アイアンメイデン (軽鎧)
能力評価 (7段階)
P:7
S:7
T:5
F:10
C:1
登録魔法
・アロエさんを怒らせると怖いよ?




