11月
杏子たちは装備品のカタログを机に広げて
あれが可愛い、これがカッコいい、と
ガールズトークに花を咲かせていた。
だがそれは安土から「選んでおけ」と渡された本。
冒険活動で使用する防具を注文するのだから、
見た目ではなく実用性を重視しなければならない。
現在彼女たちは、リーダーから支給された
黒一色の防具をカスタムせずに使ってきたが、
せっかく新装備を自由に選べる機会なので
これからは各自の好きな要素を取り入れて
個性を前面に出していこうという方向で
話は進んでいった。
「それなら私はこれかな……って、高っ!
この1着だけで新車が買えちゃうよ!
やっぱ他のにしようっと……」
杏子は黒い水玉模様のコートに目をつけたが、
300万という数字を見て怖気付いてしまったのだ。
軽くて丈夫で防水機能付き、夏は涼しく冬は暖かく、
気になる汗の臭いを抑えてくれるのはありがたい。
受ける魔法ダメージを軽減するのは当然として、
回復魔法の消費MPを大幅に抑えてくれるので
彼女の役割にはピッタリと合う性能だった。
そして何より見た目が気に入ったのだが、
さすがに値段が値段だけに諦めざるを得ない。
「いいじゃない、買っちゃいなさいよ
どうせ払うのは安土君なんだし」
「えええ、ますますダメだってば!
こんな高いの頼めないよ〜!
それだったら自分のお金で買うよ!
ってか予算いくらか聞いてなかった!」
亀山から悪魔の囁きを受けるが、
杏子は彼に迷惑をかけまいと誘惑を振り払う。
だが……
「今私たちが使ってる装備と
値段はそんなに変わらないけど?
それだって安土君が自腹で購入した物だし」
「……へ?」
「どんなのが仲間になるかわからないから、
適当に10着くらい揃えておいたんだってさ
その中からサイズの合う物を私たちに支給して、
残りは……どうしたんだろ?
たぶん返品したとは思うけど……」
「ちょ、ちょっと待って!?
あれってレンタルじゃなかったの!?
私、なんにも聞かされてないよ!?
それにもし仮に買った物だとしても、
学園から助成金みたいのが出てるんだと……」
驚愕の事実。
杏子たちの装備は借り物ではなかった。
他の1年生は未だにレンタル品を使っている者も多く、
自前の装備を持っていたとしてもせいぜい数万円の
安物でやりくりしているのが普通である。
上級生や卒業生でさえ100万円を超えるレベルの
高級品を所持している者は滅多におらず、
つまるところ、杏子たちは恵まれているのだ。
「あいつの金銭感覚はぶっ飛んでるからねえ
私の手術費用をポンと立て替えてくれたり、
親が抱えてた借金を一括で完済してくれたり、
裁判にかかった諸々の費用を全額負担したり……」
「ん……んんんんん〜〜〜!?」
杏子は混乱した。
安土の金銭感覚がぶっ飛んでるということは、
つまり彼はお金持ちということなのだろうか?
それはそれとして、手術?借金?裁判?
それって亀山家の問題では?
なぜ赤の他人である彼が費用を出す必要が?
やっぱり亀山千歳は特別な存在なのでは……?
疑惑が再燃する。
机の上に缶入りのミルクティーが3つ並べられる。
それは猪瀬が自販機まで走って買ってきた物で、
初めて見るラベルなので新発売の商品なのだろうが、
正直どんな味だったか覚えていない。
この時の杏子はそれどころではなかったのだ。
「まずは安土君の懐事情についてだけど……
あいつ、安土製菓社長の甥っ子なのよね
てっきり知ってるものとばかり思ってたから、
わざわざ言う必要は無いかなと」
「安土製菓って……え、きびだんごで有名な!?
あっ、だから桃太郎って名前なんだ!?」
「お供が犬、亀、豚という点も同じね」
「同じかなあ」
安土製菓といえば京都に本社を構える巨大企業で、
国内のみならず海外でも業界シェアNo.1を誇る
世界的トップブランドの1つである。
前身となる“あづちや”を含めて長い歴史があり、
もうじき創業500周年を迎えるのだとか。
主力商品は前述の通り“きびだんご”で、
企業マスコットは“ももたろう”と“ももこ”の2人と、
お供の“わんた”、“ウッキー”、“鳥”の3匹である。
「まあそんなわけで、
あいつにとって100万や1000万なんて出費は
痛くも痒くもないはずよ
だから欲しい装備を遠慮することはないわ
役に立たない物を買うわけじゃないんだし、
コネも金も使える時に使っておきなさい」
「今回はウチらが安土君を利用する側なんだね」
「安土君を利用……
う〜ん……」
思い悩む杏子を見て、2人はどう思っただろう。
おそらくイライラしたか、呆れたかのどちらかだ。
まあ彼女がすぐに決心できないであろうことは
明らかだったので、亀山は次の話題に移った。
「私、交通事故に遭ったことがあるんだけど、
現場に居合わせた安土君が救急車を手配して
病院まで付き添ってくれたのね
そんで手術に成功して一命を取り留めたんだけど、
当時のうちは借金まみれで、お金が無かったのよ
それを安土君が全部肩代わりしてくれたってわけ」
「そこのところを詳しく
……って、聞いていいのかなこれ
でも知っておきたいし……う〜む」
「べつに構わないわ、隠すようなことでもないし
……私の両親は馬鹿が付くほどのお人好しでね、
街頭募金に有り金を全部注ぎ込むような人たちなの
そんな性格だから悪どい連中に目をつけられて、
連帯保証人になるのを喜んで引き受けたりしてたわ
その結果、案の定債務者たちには逃げられて、
両親は多額の借金を押しつけられたってわけよ」
「私が聞きたいのはそこじゃなくて、その後!」
「え、わんこちゃん今の話よくスルーできるね……」
「安土君に、どうしてそこまでしてくれるのかって
聞いてみたけど大した理由じゃなかったわ
あいつが社長の親戚だってことは知られてたし、
目の前でお金に困ってる同級生を見捨てたら
会社の評判を落とすことに繋がりかねないでしょ?
だから売名行為……とは少し違うかもだけど、
イメージダウンを避けるための行動だったのね」
「本当にそうかなぁ……?
本当はカメちゃんに気があったんじゃ……」
「ないない、絶対にあり得ない
もしその気があったなら体を要求してきたはず
あいつは人の弱みにつけ込んで利用する奴だし、
あれでも思春期の健全な男子だからね
人並みに性欲があってもなんらおかしくないわ
私は自分の容姿に自信があって実際モテるけど、
今まで彼から何も求められなかったってことは……
つまり、そういうことよ」
「眼中に無かったんだ……!」
「他の言い方があると思う」
杏子が安心したところで区切りをつけ、
裁判の話題へと移る。
「私を轢いた犯人は別の中学に通ってたアホ共で、
未成年だから無免許運転なのは当然として、
スピード超過と信号無視で轢き逃げした挙句、
逆走して民家の塀やなんかを次々と破壊して回り、
後の調べでは飲酒と喫煙の痕跡もあったそうよ」
「うわあ……先生から怒られるやつだ」
「普通に逮捕案件だよ」
「でもそいつら、特に主犯格の運転手は
有名企業の御曹司だったから、
親の財力を使って事故を揉み消そうとしたの」
「親がお金持ちだからって、最低……!」
「こっちはダメなパターンのボンボンだね」
「それが気に食わない安土君は、そいつらの人生を
徹底的に破滅させようと動いてくれたんだけど、
向こうには優秀な弁護士が味方についててね
同レベルの弁護士を用意するのに苦労したみたい」
「弁護士ってピンキリだもんねえ」
「ウチに同意を求められても」
「で、ようやくいい弁護士が見つかったと思ったら、
向こうは弁護団を結成して対抗してきたのよ」
「そんな、守る価値なんて無いのに!」
「それには同意するよ、うん」
「裁判の途中経過は面白くないから省くとして、
最終的にはこっち側の勝利に終わったわ
ただし有罪になったのは取り巻きの3人だけで、
主犯は無罪放免ってのが心残りだけどね」
「そこまで証拠揃ってても無罪なんだ……」
「よほど有能な弁護団だったんだね……」
「とまあ、そんなところね
これで理解してもらえたかしら?
安土君にとっては300万円なんて端金なんだし、
彼の役に立ちたいなら、いい装備を買うべきよ
それにデザインも気に入ったんでしょ?
何を迷う必要があるの?」
「う〜〜〜ん
それじゃあ買っ……ちゃおう、か…………な」
「よくぞ言ってくれました!
これで私も気兼ねなく高級品を選べるというもの」
「カメちゃんも遠慮してたんかい」
「そう言うブタちゃんはどれが欲しいの?
ブタちゃんも欲しいよね? 買うよね?
今更1人だけ買わないなんて言わないよね?
みんなで同じ罪を背負ってくれるよね?
どうせだから今まで通り黒で統一しようよ
私たちのチームカラーみたいなもんだし」
「ウチは他の色にしようっと」
「ノリ悪っ!」
「裏切り者め」
こうして彼女たちは新しい装備を入手したのだ。
基本情報
氏名:猿渡 豪 (さわたり ごう)
性別:男
年齢:15歳 (12月12日生まれ)
身長:178cm
体重:71kg
血液型:A型
アルカナ:節制
属性:氷
武器:グレートパイルバンカー (槍)
防具:ヴァンガード (盾)
防具:戦士の鎧 (軽鎧)
能力評価 (7段階)
P:7
S:5
T:4
F:4
C:5
登録魔法
・アイスストーム
・マジックシールド
・ライジングフォース




