10月
ダンジョン内にて、鬼島神楽がストローを持って
嫌がる杏子を追い回していた。
ここ最近の休憩時間はずっとこんな感じである。
「お願いわんこちゃん!
ちょっと味見するだけだから!
お尻をチューチューするだけだから!」
「近寄らないで変態!!
こっちに来ないで!!」
「そんな、変態だなんて……むひひひひ!!
わんこちゃんのxxxは綺麗なxxxぃぃ!!」
「やっぱり頭おかしいよこの人おお!!」
まったく困ったものだ。
鬼島神楽がパーティーに加わって以降、
杏子の心が休まる暇は無い。
友人たちは身を挺して庇ってくれるが、
リーダー安土は奇行を目の当たりにしても
涼しい顔をして口をつぐんだままだ。
「ねえ、安土君
さすがに注意した方がいいんじゃないかなあ?
あれがいつまでも続くようじゃ、
いつかそのうち……わんこちゃん辞めちゃうよ?」
そう猪瀬から忠告されるも、
安土はイケメンフェイスを崩さずに
緑茶を啜りながら追いかけっこを眺めていた。
「その心配は無いだろう
犬飼は俺に惚れてるからな
自分から俺のそばを離れるという選択肢は無い
この程度の理不尽は我慢できるはずだ
もし犬飼が脱退するとなっても、
あいつの代わりなら6人いる
俺に尽くしたい女はあいつだけじゃないんだ」
そしてようやく口を開いたかと思えばこれである。
「うわ、最低……
今の発言、あとでわんこちゃんに伝えとくね」
「好きにしろ
……それにしても本当に都合の良い女だ
将来、クズな男に引っ掛からないか心配になるな」
「現在進行形で引っ掛かってると思うよ」
休憩を終えた一行は第4層で狩りを行なっていた。
本来この時期に1年生がこのフロアをうろつくのは
まだ危険なので立ち入り禁止とされているが、
安土の実績と一応上級生が同行しているという事実、
そして調査隊が休憩所として利用していることから
ある程度の安全性は確保されていると判断し、
特別に出入りする許可を与えられたのだ。
現在、安土パーティーが戦っている相手は
ストーンナイト、ストーンシーフ、ストーンメイジ、
ストーンプリーストという石人形の群れであり、
刃物による攻撃は通用しないとされている。
「セイッ!!」
だが安土はそんなのお構いなしに敵陣へ突っ込み、
手にした剣で次々と石人形を破壊するのだった。
ごんぶと。
それは安土桃太郎が首切姫の代わりに持ち込んだ、
素振り用の重い木刀である。
彼はその鈍器を10年前から愛用しており、
自分の手足のように軽々と振り回すのだった。
「やっぱりあの刀に頼らなくても強いじゃん……」
「いや、強化と弱体の相乗効果だ
素の状態ならここまで自由自在には動けない」
と否定した直後、パーティーの後方から別の群れが
迫ってきたのが見えたので対処する。
「フッ!!」
安土流剣術奥義・土蜘蛛。
刀を地面に突き立て、地中に走らせた剣気で
一定範囲の敵を足止めする拘束技である。
技にかかった対象が蜘蛛の糸に捕まった獲物に
見えることからこの名前が付けられた。
「ハッ!!」
安土流剣術奥義・轍。
目にも止まらぬ速さで前方へ直線上に駆け抜け、
道中の敵を一刀両断する必殺剣である。
通り道に車輪痕のような焦げ跡が残ることから
この名前が付けられた。
「……」
安土流剣術における基本の型・朧半月。
安土は普段、継戦能力を重視して疲労の少ない
八相の構えを取っているが、奥義を使用する際は
右手に持った刀を頭の左上からだらりとぶら下げ、
V系ロックバンドのボーカルが好みそうなポーズで
剣技に必要な集中力を蓄えるのだ。
又、奥義使用後にもこの構えを取ることから
残心のような意味もあると考えられている。
別名イケメンの構え。
「首切姫じゃなくても使えるんだよね、それ
普通の人は斬撃を飛ばしたりできないよ?
今のままでも充分やってけると思うな〜……」
「いや、精度がまるで違う
首切姫を通して過去の使い手の技術を継承したが、
やはり他の剣では威力半減どころの話じゃないな」
「違いがわからない……」
「刀に取り憑かれてんのよ、きっと」
「ろくな死に方しないと思う」
鬼島神楽は変態だが、天才でもあった。
左右の通路に魔物の群れがいた時の話だ。
リーダーは片側ずつ順番に殲滅する方針を掲げたが、
彼女は「面倒臭い」の一言で勝手に行動開始し、
右手から炎、左手から氷の攻撃魔法をぶっ放して
左右同時に敵を片付けたではないか。
別種の魔法を同時に扱うのは高等技術であり、
練習次第で誰でもできるようにはなるのだが、
彼女はそれを感覚だけで使いこなしたのだ。
その結果、大量の魔力放出に反応して
引き寄せられた魔物の大群に取り囲まれ、
たまたま通りかかった調査隊に助けられたのである。
本日の狩りを終えた一行を待ち受けていたのは、
モテない男子たちによる闇討ちであった。
「おりゃああああ!!」
「覚悟おおおっ!!」
「お前ばっかずるいんだよおお!!」
まったく無駄が多すぎる。
せっかくダンジョンの通路に身を潜めていたのに、
大声を出しながら襲い掛かっては奇襲の意味が無い。
「ふん……」
だから安土に勘付かれ……いや、
彼は最初からわかっていたのだろう。
声のした方向を見ることなく振られた木刀から
剣波が飛び交い、襲撃者たちは一瞬で全滅したのだ。
「死ねえええええっ!!」
そして鬼島神楽も遅れて襲撃に加わり、
返り討ちに遭ったのだ。
「最近また増えたね、襲撃」
「安土君弱体化の話が広まったからね」
「今が絶好のチャンスだと思ってるんだろうねえ」
その時、猪瀬は自分自身の言葉にハッとしていた。
後日、訓練室にて。
猪瀬は無心でサンドバッグを叩き続ける男子に
疑問をぶつけてみた。
「ねえ、大上君
最近全然安土君に勝負挑んでこないよね?
呪いの刀を没収された話は知ってる?
もしかしたら、今なら勝てるかもしれないよ?」
ちょうどブザーが鳴ったので大上は手を止め、
休憩がてら呼吸を整えながら質問に答えた。
「今の安土は変身前のヒーローみたいなもんだろ?
もし万が一勝てたとしても全然嬉しくないね
やる時はお互い万全の状態が望ましい
俺は強いあいつと戦いたいんだ」
「あ、変身前のヒーロー……
その例え、安土君も似たようなこと言ってた」
「へえ、そうか……」
大上はなぜか嬉しそうな笑みを浮かべると、
ブザーの合図で再びサンドバッグを叩き始めた。
猪瀬はその笑顔の意味を聞き出したかったが、
同じ部屋にいた女子からのじっとりとした視線に
耐えられず、逃げるように退散したのだという。
基本情報
氏名:鳩中 剣 (はとなか けん)
性別:男
年齢:16歳 (7月20日生まれ)
身長:163cm
体重:59kg
血液型:A型
アルカナ:力
属性:雷
武器:レプリカリバーPRO・雷神モデル (片手剣)
防具:戦士の鎧 (軽鎧)
能力評価 (7段階)
P:4
S:7
T:5
F:5
C:4
登録魔法
・サンダーボール
・ヒール




