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進め!魔法学園2  作者: 木こる
決死行
11/32

8月

調査隊に首切姫を回収されて以降、

安土パーティーは一度もダンジョンに行かないまま

1学期が終わってしまった。

安土は一刻も早く愛剣を取り返そうとしていたが、

正当な持ち主のスケジュールが合わなかったために

その願いが叶えられることはなかった。


だが、ようやくその時が来たのだ。

正当な持ち主の都合がついたとのことで、

これで直接交渉する機会が与えられたのである。


安土桃太郎は再び首切姫を手にするため、

気温40度の炎天下へと歩き出す。


「待って!」


杏子に呼び止められた安土は、

いかにも鬱陶しそうな視線を彼女に送る。

しかし杏子にはそれが嬉しかった。

彼女がMだからという理由だけではない。

あの安土桃太郎が感情を表に出しているという事実に

喜びを覚えずにはいられないのだ。


「ほら、帽子!

 熱中症になっちゃうよ!」


「帽子……

 ああ、そうだな」


杏子は汗を掻いており、息を切らしていた。

この暑さの中、彼女は急いで売店で帽子を購入し、

ここまで全力疾走してきたのだ。

安土は値段タグが付いたままのそれを受け取り、

礼も言わずにその場を後にしようとする。


「いや、待って!」


今度はなんだ、と舌打ちしながら振り返ると

困惑した面持ちの猪瀬がそこに立っていたが、

「いいじゃない、ほっときなさいよ」

「え〜、でもさすがにあれは……」

と、人を呼び止めておきながら

亀山とゴチャゴチャ言い合う光景に苛立ちを覚え、

そんな2人を無視して彼は立ち去ってしまった。


「あぁ、行っちゃった……」


女子3人はそれぞれ複雑な思いを抱えつつ、

蜃気楼に向かうリーダーの背中を見送るのだった。




夏休みだというのに彼女たちが学園にいる理由は、

安土を見送るため……ではなく、補習があるからだ。

女子3人は揃いも揃って期末テストで赤点を取り、

貴重な長期休暇を勉学に費やす結果となったのだ。

学業こそが生徒の本分とはいえ、夏休みとは本来、

勉学から解放されて然るべき時期である。

その時期をまるまる無駄にしてしまったのは、

他ならぬ日頃の怠慢によるものとしか言えない。


朝一の用件を済ませて教室へと向かう途中、

ふと猪瀬が通路の先にいる生徒に声を掛ける。


「やっほ〜、大上君!

 もうすぐ補習始まっちゃうよ〜!」


こちらに気づいた大上は手を振って応えるが、

どうも様子がおかしい。

彼は制服姿ではなく、Tシャツにハーフパンツという

ラフな格好で学園の敷地内をうろついていたのだ。

しかも教室とは反対方向を目指して歩いていた。

これは……サボりだろうか?


とりあえず追いかけて質問してみた。


「え、君たちこんな所で何してるんだ?

 急がないと補習に遅刻しちゃうぞ?」


「そっちこそ何してるのかなぁと思ってね

 堂々とサボり? いいご身分だね」


少し言い方が刺々しかったと反省しているが、

この時の杏子は彼を敵視していたので仕方ない。


「いやいや、サボりだなんて……

 俺は補習組じゃないよ

 おかげで訓練室を独り占めできて、

 毎日が充実してるんだ」


杏子は大上隼斗という男を誤解していた。

格上の安土に対してよく喧嘩を吹っかけていたので、

考える力の無い馬鹿だと思い込んでいたのだ。

だがどうだ、彼は補習を免れて自由を得ている。

期末テストで赤点を取らなかったという証明である。


複雑な思いに駆られる杏子とは対照的に、

猪瀬は実に明るく社交的であった。


「へえ、休みの間も自主練してるなんて偉いね!

 何か具体的な目標とかあんの?」


「ああ、目標ならあるよ

 『安土をぶっ飛ばす』って当面の目標がね

 今の俺じゃ全く太刀打ちできないだろうけど、

 いつかあいつの強さに追いついて、

 あわよくば追い抜きたいと思ってる」


ああ、やっぱりこの男は馬鹿だ。

こいつには安土をぶっ飛ばすどころか、

指一本触れることすらできやしないだろう。

大上隼斗は魔物1匹倒すのに何分もかけていたが、

安土桃太郎なら1秒だ。強さの次元が違う。


杏子が心の中で大上を罵っていると、

亀山が何か考え事をしながら口を開いた。


「『追い抜く』で思い出しそうになったんだけど、

 なんて言ったかしら?

 ほら、なんとかと亀の話……競争の……」


「うさぎとかめ〜?」


「いや、たぶん違う

 たしか人の名前だった気がする」


杏子と猪瀬は他の候補を挙げようとするが、

亀が競走する話といえばそれ以外に思いつかない。

人の名前、人の名前……と頭を悩ませていると、

大上は最初から答えを知っていたかのように

彼女が求める題名をさらりと口にしたのだ。


「アキレスと亀のパラドックスかな?」


「あ……そうそう、それよ!

 やるじゃない大上」


「そりゃどうも

 さあ、君たちは早く教室へ向かった方がいい

 もう授業開始まで3分切ってるけど、

 急げばまだ間に合うよ!」


大上との会話はこれで終わる



……はずだった。


「昔々、ある所にアキレスと亀がいました」


「カメちゃん!?」

「亀山さん!?」


「ある日、亀は言いました

 『うさぎさん、僕と競争をしよう!』」


「うさぎって言っちゃったよ!」

「それ、うさぎとかめだよ!」


「うさぎとかめは山へ芝刈りに、

 おばあさんは川へ洗濯に行きました」


「なんか違うの混ざってる!」

「目的も変わってる!」


「おじいさんは山で竹を拾い、

 おばあさんは川で桃を拾い、

 かめはレースで勝ちを拾いました

 めでたしめでたし」


「うまい……のかなあ……?」

「なんの話だったんだ……?」


突然の亀山の奇行に一同が困惑していると、

聞き慣れた鐘の音が時間切れをお知らせする。


キーン、コーン、カーン、コーン──


「あっ」「やばっ」「遅刻だ」

「ほら言わんこっちゃない……」


灼熱の太陽の下を3人の乙女が駆け抜ける。

失敗だらけの私たちが過ごした青春の1コマ。

そんな夏の日の思い出である。

基本情報

氏名:鬼島 神楽 (きじま かぐら)

性別:女

サイズ:AAA

年齢:16歳 (3月30日生まれ)

身長:151cm

体重:41kg

血液型:O型

アルカナ:運命の輪

属性:無

武器:ニルヴァーナ (杖)

防具:星読みのローブ (衣装)


能力評価 (7段階)

P:3

S:3

T:2

F:15

C:2


登録魔法

・スーパーノヴァ

・アブソリュートゼロ

・グランドクロス

・サンクチュアリ

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