第68話 伯爵の供述
帝国の城の地下牢がある場所に『審問部屋』と呼ばれている部屋が存在する。この部屋は別名『拷問部屋』とも呼ばれる。理由はココに入れられて厳しい取り調べを受けた犯罪者で出てきた時に五体満足の者はいないからである。誰がいつから呼ぶようになったのか定かでは無い。現皇帝が王太子の時には既に拷問部屋の別名で呼ばれていた。
今、ここにバルト・リンゲン伯爵が連れてこられている。伯爵も『拷問部屋』の異名を知っており、ガタガタと震えながらも頭では言い訳を考えていた。
――――ガチャ
ドアが開き入ってきたのは拷問官と皇帝と宰相。宰相の手には『真実の涙』を持っている。
「あっ、陛下。私が何をしたと言うのでしょうか?私は帝国の為に一生懸命働いておりますのに。何故、このような牢に入れられなければならないのでしょうか?」
「…………」
「陛下、何かお言葉を!陛下!何か仰ってください!私が何をしたと言うのですかっ!」
「…………」
伯爵が色々と言ってくるが皇帝は何も言わずに睨みつけている。
暫くの沈黙の後、皇帝はおもむろに口を開く。
「ふぅ。盗人猛々しいとはこのことであるな。貴様、『何をしたか?』と余に問うたな?わからぬか?では教えてやろう。『使徒様助成金』、この言葉で思い出したか?」
静かに問いかける。
「…………なっ」
「オークションでは好きな美術品に骨董品、珍品を数多く購入できて嬉しかろう?どうだ?使徒様への大事な金を使って購入した品々は気に入っておるだろうな」
「…………あっ。…………えっ」
「どうした?さっきまで饒舌に余に話していたではないか?急に言葉を忘れたのか?」
「い、いえ。アレは私の財産で購入した品々でございます。使徒様のお金を使うような「黙れ!」」
伯爵の言い訳の途中で皇帝は一喝した。
「まだ言うか。それではコレはどうなのだ?」
伯爵に見せた書類は伯爵の領地からの税収、全資産等が記載された書類とリョウが降臨してから購入した数多の品の購入取引書類。
「これを見るに貴様の税収、資産をあわせても購入できそうもないがな?貴様の妻の資産も調査済みだぞ。さぁ、これを見ても言い訳するか?」
「えっ、えっ、えっ、えっ…………」
「そう言うことだな。おい、拷問官!こやつから全ての情報を抜き出せ!死ぬギリギリまで痛めつけても構わん!それと宰相が持っている『真実の涙』。これも使用せよ!情報を抜き出す途中で伯爵が死んでも、お前の罪は問わん!徹底的に絞り出せ!」
皇帝の拷問官の指示は、そのまま皇帝の怒りを表しているようだった。
――――数時間後
執務室で宰相と共に拷問官からの情報を待っている皇帝。
「まだ、報告に来ないとは伯爵の奴め強情なようだな」
「うーん、奴はそんなに根性がある男ではございませんぞ。小心者で人の顔色ばかり窺うタイプですからなぁ」
そのように報告を待ちながら閣議での議題について話し合っていた。
メイドが拷問官を連れて入室してきた。
「ご報告、遅れまして申し訳ございません。着服以外にも情報を聞き出す事が出来ましたので、予想外に時間がかかりました。
「ご苦労。では、報告を聞こうか」
皇帝は拷問官を労った後、報告を聞くこととした。
「はい。まず、伯爵が『使徒様助成金』を着服したのは間違いございませんでした」
「やはり、そうだったか」
「ご報告、続けますが?」
「あぁ、悪い。続けてくれ」
「はい。その『使徒様助成金』を着服した金銭にてオークションで数多くの品物も購入しておりました。あと、購入以外で使われたのは…………」
一旦、拷問官は口を濁すように周りを見渡す。
「うむ。宰相と拷問官以外は退室せよ!」
執務室の他の文官達をすべて部屋から外に退室させた。
「それで?」
「はい。着服金をオークションで使用した以外の使い道ですが、これは他の貴族へのワイロや接待に使っていたようです。例えば、オークションで高額な品を取引後にそれを別の貴族へと渡したり、これは非常に言いにくいのですが、見目麗しい女奴隷の購入、また金銭で困窮している未亡人などを借金の肩代わりに自分の者にしていたようです。彼女たちは伯爵が飽きれば、自分より下の爵位の貴族へと譲渡していたと聞いております」
「…………吐き気がするな」
拷問官の報告で気分が悪くなった皇帝ではあったが、続きを聞く必要があった。
「それで、譲渡された貴族の名前は聞いておるか?」
「はい。ここに名前を記載しております」
拷問官から手渡された報告書には数名の貴族の名前が記載されており、それを見た皇帝と宰相はともに色を失うのであった。
――――
「皆、集まっておるようだな」
皇帝が軍議の間に現れた時には、すべての大臣が勢揃いしていた。
「しかし、急な呼び出しですな。急に呼び出されるのは困るのですがな」
皇帝に嫌味を言ったのは革新派の農業大臣であるヒュー・テック侯爵。
「そうか、では貴様は帰れ!爵位返上する覚悟で余に嫌味を言ったのであろう?違うか?」
「なっ、陛下!それは横暴ではございませんかっ!私は侯爵ですぞっ!帝国の王の発言とは思えませんなっ!」
「もうよい。黙れっ!貴様は帰るが良い。追って沙汰を申し渡す。それと他の者も余に意見があれば申してみよ!閣議の内容も知らずに、そんな事が言えたものよなっ!近衛、侯爵を退室させよ!目障りであるっ!」
「陛下、陛下!横暴ですぞ!一国の王の所業ではございませんぞっ!」
一度、侯爵を放り出そうとした皇帝であったが、革新派のリーダーであったゴドフロワの後を継いで最近リーダーになったのを思い出した。
「侯爵、貴様は革新派のリーダーであったな。まぁ、よい。革新派の事も議題のひとつであるからな。座れっ!」
まだ、ブツブツと小声で文句を言っている侯爵を無視して皇帝は閣議を始める事にした。
「まず、皆も知っているだろう使徒であらせられるリョウ様に対し、『使徒様助成金』をお渡ししている事を。ご降臨された際に閣議で決定した事であるが、知らぬものはおらぬな」
問われた各大臣達は黙って頷く。
「その『使徒様助成金』を着服し、おのれの趣味の為に使い込んでいたのが発覚された。そやつは、バルド・リンゲン伯爵である!」
一同が騒めいたが、宰相の咳払いひとつで静かになった。
「話を続けるぞ。余の影からの報告で着服した金銭はオークションで欲しい美術品を購入したり、別の貴族への贈答品としていたと聞いている。贈られた貴族も着服した金銭で購入された物である事を知っていたそうだ」
すると、先ほど皇帝に嫌味を言っていた侯爵の顔色が変わるのを皇帝は見逃さなかった。
「ん?侯爵よ。顔色が悪いな。体調でも悪いのか?」
「い、い、いえ、そのような事は御座いませんが……。その贈られた貴族は誰かは御存じなので?」
「あぁ、伯爵が洗いざらい話してくれたな。余はすべて知っておる。皆の中にはいないとは思うが、心当たりがあるならば申し出よ!今ならば余は処罰を考えてもよいが」
皇帝は暫くの間、皆の様子を伺っていると子爵が手を上げた。
「ん?子爵。何かあるのか?申してみよ」
「は、は、は、はいぃ。伯爵から不要だと申された美術品を頂いた事がございます。ですが、私は着服の事は知りませんでした。私は伯爵から頂いただけなのですっ!」
「そうか、よく話してくれたな。あとは?いないのか?子爵だけか?」
誰も発言しなかった。侯爵は横を向いて知らぬふりを決め込んでいる。
「わかった。子爵だけであるのだな。本当にいないのか?」
それでも誰も発言しなかった。
皇帝は覚悟を決め、この数日で多数の貴族家が無くなることを確信したのだった。
ブックマーク、評価をお願い致します。
誤字、脱字等がありましたらご報告をお願い致します。




