第20話 処罰
ティラスティラ帝国の城門前に市田の馬車が到着する。門番達は連絡を受けていたのであろう、手短に御者とやりとりした後に城門をあけて馬車を入れる。
城門に入った馬車は第一騎士団、近衛数人が出迎える。すこし乱暴に中の犯罪者と引きずり出すが、その者は一切声を出すことなく、そのまま謁見の間へと連行する。
一緒に来ていた兵士も後をついて歩いていく。
――――謁見の間にて
「陛下、『天罰の地』より帰還いたしました者達を連れて参ました!」
「その者達をここへ」
玉座の前に跪いた二人の兵士。一人は捕縛状態で、ひとりは通常に膝間づいている。
「さて、魔導士よ。こやつの『沈黙魔法』の解除をせよ」
魔導士のひとりが捕縛者に近づき魔法で沈黙状態を解除する。
「ヤクブよ。貴様はゴドフロワ侯爵家の者であったな。ゴドフロワ侯爵もここへ!」
呼ばれたゴドフロワ侯爵は何故息子のヤクブが捕縛されているのかわからず、言われた通りに玉座の前に息子と並んで跪く。
「陛下、我が息子ヤクブが何か粗相をしたのでしょうか?何故、このように捕縛されておりますのでしょう?」
侯爵は顔を青ざめながら陛下へと訴えかけるが、
「黙れ!陛下の御前であるぞ!許しなく発言は控えよ!」
宰相の厳しい一喝で黙り込む。
「貴様の息子は我が国、いや世界中を敵にしたことを教えてやろう。『天罰の地』に確認に赴いたのは侯爵、貴様も軍議の間にて同席していたのだから知っておろう!この愚か者は使徒様のご息女をケダモノ呼ばわりし、突き飛ばしたのだ!それを咎めた使徒様に対し『獣とまぐわった下民』とも申したそうだ!あまつさえ使徒様に剣を向け、切りかかったと聞く!ヤクブよ!相違ないか!」
「恐れながら、私は姫様をお守りする為に仕方なく……。それに乱暴な言葉など言っておりません。何かの間違いかと。また、ご息女と知らずに軽く脅したら勝手に転んだだけでございます!」
謁見の間はザワザワザワと口々に思い思いの感想を話し合っている。
「静かにせよ!陛下が尋問中であらせられるぞ!これ以上の私語は謁見の間より退室になると思え!」
また、宰相より貴族たちは黙ることとなった。静かになった謁見の間にて陛下はヤクブを見ながら呆れたように話し始める。
「ヤクブ、貴様。我が娘、王女からの連絡が嘘偽りであると申すのだな。何もかも間違いだと、そう申すのだな?」
ヤクブに話しかけている途中に、また侯爵が割り込んでくる。
「陛下、我が息子が言った通り、姫様をお守りするための行動!我がゴドフロワ家は王家の皆さまをお守りする家系でございます!何卒。何卒、再調査の機会を頂きませぬか?」
「黙れ!今は余がヤクブに聞いておる!侯爵よ、貴様には聞いておらぬわ!」
「いえ、お聞きください!ヤクブが言うように使徒様のニセモノでございましょう。千五百年前の御方が出現なぞ信じられません。どうせ、卑しい下民に違いありません。それに獣人の子?そんな汚らわしい獣などが神の使いであるはずが無いのです!昔の愚か者達が想像で書いたものでしょう。陛下、陛下!どうぞ目を覚ましてください!」
陛下は黙って聞いているが、怒りを堪えた表情で返答する。
「貴様、伝承を書いたのは余の先祖である初代皇帝陛下であるぞ!貴様は余の先祖、そして余を愚弄するかっ!愚か者は貴様であろう!」
「いえ愚弄したわけではございません。しかし、何卒、ご一考を!」
「もうよい、少し黙っておれ!」
次にヤクブの横に立っている兵士に陛下は問いただす。
「さて、貴様は娘とヤクブと一緒に使徒様のお屋敷に向かったそうだな。今のヤクブの発言は誠のことか?」
一瞬の逡巡の後、兵士は答える。
「すべて偽りでございます。姫殿下がお書きの内容につきましては詳細がわかりませんが、大筋は陛下のお言葉通りです」
「陛下、陛下、この様な平民上がりの兵士の言葉は嘘でございます!下民、貴様、どうなるか分かっておるのだろうな!」
「侯爵、貴様、何度言えばわかるのだ!余が話をしている邪魔をするなと言っている。魔導士よ侯爵に『沈黙魔法』をかけよ!うるさくてかなわん!」
すぐに魔導士が侯爵へと『沈黙魔法』をかけ、侯爵は口をパクパクさせるしかなかった。
「そう言えば、娘からの手紙にはこうも書いてあったな。使徒様に向かって『下民』と。親の教育の賜物か?愚かな。また侯爵が下民と申した兵士は、確かに平民上がりではあるが、騎士団の上位である第一騎士団団員である。貴様の選民主義は余の嫌うものであると知っておろうが!!!」
陛下は怒鳴りつけた後、魔導士を呼び何かを取りに行かせた。
魔導士が戻ってくるまでの謁見の間は水を打ったような静けさに包まれていた。
「陛下、お持ち致しました」
魔導士が液体の入った容器を持ち、陛下へと報告を行う。
「侯爵よ、それとここにいる者達よ聞け!今から『真実の涙』にてヤクブ達に真偽を問うものとする!魔導士、『真実の涙』を使用せよ!」
言われた魔導士は兵士とヤクブの頭に数滴の液体を振りかける。
「この『真実の涙』を知らぬ者はおらぬと思うが、再度、聞け!これを使われた者は問いかけに対して簡単な返事しか出来ぬようになっておる。余の質問に対して『真』か『偽』かしか答えられぬが十分な立証になるであろう!皆の者、見聞きせよ!」
液体をかけられた二人は暫くすると焦点のあわない目となった時点で、陛下はヤクブへと問いかける。
「ヤクブよ。貴様は余の問に対して答えよ。我が娘の報告は『真』か『偽』か?」
「『真』」
「我が娘を守る為に刃を向けたのか?」
「『偽』」
「使徒様とご息女に暴言を吐いたのは事実であるか」
「『真』」
「使徒様の伝承は嘘偽りとの考えでの行動か?」
「『真』」
「使徒様に対し、殺そうと思ったのか?」
「『真』」
「ご息女も同じように殺すつもりだったのか?」
「『真』」
「わかった。もうよい。次に第一騎士団兵士に問う」
陛下はヤクブの隣の兵士に問いかける。
「貴様は先ほどの我が娘の報告我が娘の報告は『真』か『偽』か?」
「『真』」
「ヤクブは使徒様とご息女に対して暴言を吐いたか?」
「『真』」
「娘はヤクブに対して止めるように申したか?」
「『真』」
「それでもヤクブは聞かなかったか?」
「『真』」
「何度も注意はしていたか?」
「『真』」
「ヤクブは嘘をついているか?」
「『真』」
「すべてに行動は娘の指示によるものか?」
「『偽』」
「すべての行動はヤクブ単独であるか?」
「『真』」
数分後、焦点の定まっていなかった二人は徐々に意識が戻ってきた。
それを確認して陛下は皆を見渡すように告げる。
「わが娘、アリアナ・ドゥ・ティラスティラの報告通りの狼藉であったと認める!ゾルト・ゴドフロワ、その嫡男のヤクブ・ゴドフロワ。貴様たちは不敬罪および使徒様とご息女への殺害を目的とした行為。両名並びに家人及び使用人のすべては斬首刑となる」
極刑を告げた陛下をゴドフロワ侯爵が黙ったまま見ている。その目は鋭く、睨みつけているようである。
続けて陛下が皆を見渡しながら告げる。
「だが、ここに娘からの追記の『魔法紙』が届いておる。それには使徒様より斬首刑ではなく、罪一等を減じて欲しいと願われている。悪人に対しての寛大なお心により、ゴドフロワ侯爵の爵位剥奪とする。侯爵家の全資産、侯爵領は王家が没収する!領地は王家直轄領になる。それによりゴドフロワ侯爵家は取り潰す!ゴドフロワ侯爵家の嫡男ヤクブ、貴様は永久鉱山奴隷とする!」
そして、一言、ゴドフロワ侯爵を見ながら独り言をつぶやく。
「余としては禍根を残さぬように斬首が良いと思うのだが……」
告げられたゴドフロワ侯爵、その息子のヤクブはガックリと肩を落としている。
ゴドフロワ侯爵は泣きながら何か言っているのだが、先ほどかけられた『沈黙魔法』により誰にも声は届かない。
「以上、余の裁定に異を唱えるものはおるか!…………いないようだな。では処罰は決定とする。この者達を連れてゆけ!侯爵、いや元侯爵は全資産を差し押さえるまでは地下牢へ入れておけ!」
次にヤクブについて話した兵士に向かい言葉を述べる。
「証言をした第一騎士団の者よ。よく上位貴族の息子に対して忖度せずに正直に話してくれ褒めて遣わす。後日、褒章を届けさせよう。」
こうして、ゴドフロワ侯爵家、ヤクブへの処罰が決定した。
数日後、鉱山に送られたヤクブは数日で精神に異常をきたし、朝から晩まで鉱山入り口でブツブツ言いながら座り込んでいたという。
誰も気に留めてはいなかったのだが、ヤクブから異臭がすると他の奴隷より報告のあった鉱山長が見に行くと、座ったまま死亡していた。
既に身体は腐敗が進み、蠅やウジに集られていたと聞く。
享年十九歳であった。
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