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エピローグ:冥府の継承者

 闇と光の狭間——冥府の玉座の間。

 燐光が漂うその空間の中心に、レイヴンは静かに佇んでいた。

 彼の周囲には数多の魂が浮遊している。生者でも死者でもない、現実と虚構の狭間に取り残された者たち。


「……新たな秩序が必要だな」


 レイヴンは呟く。

 神界の意志に従うのではなく、冥府の王として、自らの意思でこの世界を導くと決めた以上、今までのルールに縛られるつもりはなかった。

 神界に取り込まれた者たちを解放し、行き場のない魂に新たな可能性を示す。

 それが、冥府の継承者——レイヴンの果たすべき役割だ。


「貴方はこれから、どうするの?」


 レクシアがそっと問いかける。

 彼女もまた、天才プログラマーの意志の残滓として生まれた存在。だが、今はレイヴンと共にこの世界の未来を考える一人の意思を持つ者となっていた。


「冥府は、新たな領域になる。現実でも、神界でもない……ここでなら、奪われることもなく、管理されることもなく、自由に存在できる」


「新しい……世界」


 レクシアは小さく呟いた。


「そうだ」


 レイヴンはゆっくりと右手を上げる。

 闇の中に新たな門が開かれる。そこは冥府の深淵を越え、誰も知らぬ新たな可能性へと通じる扉。


「俺が創る、第三の道だ」


 神に管理される楽園ではなく、ただ死を待つ停滞の世界でもない。

 冥府の継承者として、自らの意思で決める世界。


「……なら、私も貴方と共に行くわ」


 レクシアが微笑む。


「当然だ」


 レイヴンは少しだけ笑い、そして扉へと歩みを進める。

 その先に待つのがどんな未来かはわからない。

 だが、これは彼が選んだ道なのだ。


 闇と光が交錯する中、冥府の継承者は新たな世界へと歩み出した。


          ※


 春の陽射しが穏やかに降り注ぐ昼下がり。

 昼食を食べに出かけた俊也は、ふと足を止めた。

 駅前のカフェのテラス席——そこに座る二人の姿が目に留まったのだ。


 一人は、日に焼けた肌の男。

 クセのある茶髪を後ろで束ね、顎には髭を生やしている。

 もう一人は、プラチナブロンドの長い髪を持つ女性。

 どこか神秘的な雰囲気をまといながらも、穏やかに微笑んでいる。

 二人は静かに話しながら、まるでそこに溶け込むようにカフェの空気を楽しんでいた。


「……誰だっけ?」


 俊也は立ち止まったまま、違和感を覚えた。

 知らないはずなのに、知っている気がする。

 まるで、ずっと昔に会ったことがあるような——そんな、不思議な懐かしさ。

 考え込んでいると、男のほうがふとこちらを見た。


 一瞬、視線が交差する。


 俊也の胸が、ざわりと揺れた。

 男は口元に微かな笑みを浮かべ、軽く手を挙げる。

 まるで「よお」とでも言うように。

 俊也は反射的に会釈を返したが、すぐに「いや、誰だ?」と自分に問い直す。


 カフェの前を通り過ぎる。

 振り返ると、二人はもう、そこにはいなかった。

 まるで、最初から存在していなかったかのように——


「……なんだったんだ?」


 俊也はぼんやりと空を見上げる。


 春風がそっと吹き抜ける。


 それは、見知らぬはずの誰かが残した、確かな記憶の名残のようだった。




 ——魂の残響【完】

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