第八十一話:最終審判
「神々に裁きを——冥府の名のもとに!」
レイヴンの宣言と同時に、冥府の軍勢が動いた。
黒き霧を纏う騎士たちが地を蹴り、獣のような影が吠えながら天へと飛び上がる。
かつて神々に封じられ、忘れ去られた魂たちが、今、神界に報復せんと剣を振るう。
対するは、神界の守護者たち——神の兵団たる《天槍の聖域》。
白銀の鎧を纏い、輝く槍を構える彼らもまた、神の秩序を守るために刃を交える。
天と冥の境界で、かつてない戦いが繰り広げられた。
※
「これが……神界の戦い……」
戦場を見下ろしながら、レクシアが静かに呟いた。
彼女の目の前では、冥府の軍勢と神の兵たちが激突し、光と闇が交錯している。
レクシアは長く生きた魂であるが、これほどの規模の戦いを見たことはなかった。
冥府が神に反旗を翻したのは、これが初めてなのだから。
しかし、彼女の視線はすぐにレイヴンと戦神オルディウスの戦いへと移る。
「レイヴン……」
彼が立ち向かうのは、神界でも屈指の戦士。
だが、彼にはもはや恐れも迷いもなかった。
※
「お前の時代は終わった、オルディウス」
レイヴンは静かに剣を構える。
その周囲では、冥府の黒き炎が渦巻き、異界の力を放っていた。
対するオルディウスは、槍を強く握りしめる。
「神が滅びることはない……この世界は神々によって創られた。お前たち異端が、神の秩序を壊せるはずがない!」
そう叫ぶと同時に、彼は槍を突き出した。
《神槍・天裂》——!
黄金の閃光が放たれ、天を貫く槍撃がレイヴンを襲う。
しかし——
レイヴンは微動だにせず、その槍を左手で受け止めた。
「……何?」
オルディウスが目を見開く。
「確かに、お前たち神は世界を創ったのかもしれない。だが、世界のすべてを支配できるわけじゃない」
レイヴンは冷たく言い放ち、槍を握りつぶした。
「俺はもう神の秩序に縛られない。ここにいるのは、『冥府の王』としての俺だ。」
そして——
《冥府の審判》
黒き剣が振り下ろされ、天界の光を断ち切った。
オルディウスの身体が貫かれる。
「が……は……!」
その神の肉体が崩れ、光の粒子となって消えていく。
戦神オルディウス——陥落。
戦場に静寂が訪れる。
神々の戦士たちは、彼らの指導者を失い、徐々に戦意を喪失していった。
そして、残されたのは——
レイヴンと、天界の主である《神王ユグドレア》。
「ここまでか……」
神王ユグドレアが、天の王座から立ち上がった。
彼は神々の頂点に立つ存在であり、この世界を創造した者。
「人間ごときがここまで来るとはな……だが、貴様は忘れている」
ユグドレアは空を指差した。
「この世界は神々の法則によって成り立っている。たとえ神が滅びようとも、世界は神の意志のままに動く……!」
彼の言葉と同時に、天界の空が裂け、巨大な光の輪が現れた。
それは、世界を巻き戻し、すべてを無に帰す力。
「世界を創り直す……?」
レイヴンが眉をひそめる。
「そうだ。この世界を破壊し、もう一度、神々の理に基づいて再生させる」
ユグドレアの目が冷たく光る。
「貴様たちのような異端は、その過程で消え去ることになるだろうがな」
レクシアが驚愕する。
「そんな……! 神々は自らの世界を捨てるつもりなの!?」
「秩序を乱されるくらいなら、一度すべてを終わらせたほうがいい」
神王の手が光に包まれる。
「さあ、滅びよ。そして、この世界は神の御手のもとに戻るのだ」
だが——
「それはどうかな?」
レイヴンがゆっくりと前に出た。
「世界の在り方を決めるのは、お前たち神じゃない」
彼は剣を高く掲げた。
「冥府の王として、お前を討つ!」
神王ユグドレアと、冥府の支配者レイヴン。
神と冥府の最終決戦が、ついに幕を開ける——。




