第七話:死者の安息地
「死者の祠」の奥にある扉を抜けると、ひんやりとした風が頬をかすめた。
死者の安息地——この町の外れに位置する墓地であり、低レベルのアンデッドモンスターが徘徊する場所だという。
「……ここか」
レイヴンは足元に視線を落とした。
乾いた土の上には、ところどころに古びた墓石が並び、枯れた草が風に揺れている。
遠くでカラスの鳴き声が聞こえ、荒れ果てた雰囲気が漂っていた。
(なるほど……いかにもネクロマンサー向けの狩場って感じだな)
一般のプレイヤーならば、こういった場所は避けるだろう。だが、ネクロマンサーにとってはこここそが戦場となる。
※
「さて……まずは試しにやってみるか」
レイヴンは杖を軽く振り、メニューから先ほど習得したスキルを選択した。
——《リビングデッド》
次の瞬間、目の前の地面がわずかに揺れた。
ゴト……ゴトゴト……
古びた墓石の横から骸骨の腕が這い出してくる。
「おお……」
やがて、白骨化した全身が地面から現れ、レイヴンの前に膝をついた。
《スケルトン・ウォリアー》が召喚されました。
システムメッセージが表示され、レイヴンの視界にスケルトンの情報が浮かび上がる。
【スケルトン・ウォリアー】
種別:アンデッド
レベル:1
スキル:《朽ちた剣》
装備はボロボロの剣と盾だけだが、それでも初期召喚モンスターとしては悪くない。
(これがネクロマンサーの召喚術か……)
敵を直接攻撃するのではなく、使役した死者を操るのがネクロマンサーの戦い方。
このスケルトンをうまく活用すれば、低レベル帯でも効率よく狩りができるはずだ。
「よし、動いてみろ」
レイヴンが念じると、スケルトン・ウォリアーはぎこちなく剣を構え、前へと進んだ。
(なるほど……ある程度は自動で動くが、細かい指示は必要か)
ゲーム内のネクロマンサーは、召喚したアンデッドに大まかな指示を与えることで戦わせる仕組みらしい。
※
「——ちょうどいい。試しに戦わせてみるか」
レイヴンは視線を前方へ向けた。
その先には、ゆらゆらとさまよう腐敗したゾンビがいた。
【ロットン・ゾンビ】
種別:アンデッド
レベル:2
スキル:《腐食の爪》
レベルはスケルトンよりも少し高いが、単体ならば十分に戦える相手だろう。
「行け、スケルトン!」
レイヴンが指示を出すと、スケルトン・ウォリアーはカタカタと骨を鳴らしながら、ゾンビへと向かっていった。
——戦闘開始!
ゾンビが低くうめき声を上げ、スケルトンに爪を振るう。
ガギィン!
盾で受け止めたスケルトンが、反撃の剣を振り下ろす。
10ダメージ!
ゾンビの体がぐらりと揺れたが、まだ倒れない。
(単純な殴り合いなら、スケルトンがやや不利か……)
レイヴンは次の手を考えた。
「ならば……《ソウルサクリファイス》」
レイヴンがスキルを発動すると、自身のHPが10減少し、スケルトンの攻撃力が一時的に上昇した。
「もう一撃だ、やれ!」
スケルトンが力強く剣を振り抜く——
——クリティカルヒット! 20ダメージ!
ゾンビがのけぞり、そのまま地面に崩れ落ちた。
【ロットン・ゾンビを倒しました】
【経験値を獲得しました】
「……ふう」
戦闘が終わり、レイヴンは軽く息をついた。
(なるほどな……自分のHPを消費して、召喚したアンデッドを強化する、か)
ネクロマンサーは通常の魔法使いとは異なり、自分の体力を削ってでも戦力を上げる戦法が求められるらしい。
「リスクはあるが……これならやれるな」
レイヴンは軽く微笑んだ。
今のところ、戦闘の基本はつかめた。
あとはこのスタイルに慣れ、より強力なスキルやモンスターを扱えるようになれば、ネクロマンサーとしての本領を発揮できるはずだ。
※
その後も、レイヴンは墓地で戦いを続けた。
スケルトンを召喚し、ゾンビやスケルトンソルジャーと戦わせながら、少しずつ経験値を積み重ねる。
——そして、数時間後。
【レベルアップ!】
レイヴンのレベルが2へと上昇した。
「……よし」
順調な滑り出しだ。
——だが、この墓地には、まだ彼が知らない“別の存在”が潜んでいた。