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第五話:グランベルクの町へ

 森を抜け、見えてきたのは石造りの城壁に囲まれた町だった。


 グランベルクの町。


 『Eternal Fantasia Online』における最初の拠点となる場所であり、多くの初心者プレイヤーが訪れることになる街だ。


「おお……」


 レイヴンは思わず感嘆の声を漏らした。

 街の門は巨大で、番兵たちが通行者を監視している。城壁の上には弓兵が立ち並び、訓練された動きで巡回していた。


(リアルなものだな……)


 ゲームとはいえ、作り込まれたこの世界に圧倒される。遠くには鐘の音が響き、石畳の道を馬車が行き交っていた。


「さあ、入りましょう! これで一安心ですな!」


 商人のNPCが嬉しそうに笑い、門へと向かって歩き出す。

 レイヴンもそれに続いた。


          ※


「通行証を確認する」


 門番の兵士が無表情で言った。

 商人は懐から革の袋を取り出し、銀貨を数枚差し出した。


「これは手間賃でございます」


 兵士は銀貨を確認し、頷くと通行証を受け取り、門を開いた。


(賄賂か……)


 レイヴンは心の中で苦笑した。

 NPCの会話や行動には細かい設定がされており、こうしたやり取りもリアルなものだった。


「そちらの旅人も通行証を」

「俺は持ってないが、問題あるか?」

「ふむ……ならば入国税として銅貨十枚を支払ってもらおう」


 つまり、ゲーム開始直後のプレイヤーは、最初の町に入るために通行税を支払う必要があるらしい。


(そんなシステムがあるのか)


 今持っているのは、初期支給の銅貨五枚のみ。


「足りないな」

「ならば、街の周辺で魔物を倒して稼ぐといい」


 門番は淡々と言い放った。


(これは詰み……いや、待て)


 レイヴンは思い出した。

 倒したダスクウルフの戦利品を、商人が回収していたはずだ。


「……おい、商人」

「は、はい!?」

「さっきの戦利品を買い取る気はないか?」


 レイヴンが言うと、商人は少し考え込んだ後、笑顔で頷いた。


「ええ、もちろん! ダスクウルフの牙は珍しいので、銀貨一枚で買い取りましょう!」

「決まりだ」


 商人から銀貨を受け取り、門番へ差し出す。


「ふむ、問題ない。通れ」


 門がゆっくりと開かれた。


「ありがとうよ、商人」

「いえいえ! あなたのおかげで助かりましたからな!」


 商人は大げさに頭を下げ、荷馬車を引いて街の中へと進んでいった。


(……まあ、悪くない流れだったか)


 戦利品を金に変え、それで街へ入る。

 ゲームのチュートリアル的な流れだったのだろうが、それを意識せずに乗り切ったことが、レイヴンに小さな達成感をもたらした。


          ※


 街へ入ると、活気ある光景が広がっていた。

 行商人が声を張り上げ、鍛冶屋の槌音が響く。魔法使い風のNPCが呪文書を売り、冒険者らしきプレイヤーたちが装備を整えている。

 そんな中、レイヴンはひとまず宿屋を探すことにした。


(チュートリアル中にログアウトするには、宿に泊まる必要があるらしいしな)


 このゲームでは、戦闘中以外はいつでもログアウトできる仕様になっている。

 しかし、グランベルクの町を抜けるまでは、宿屋でのログアウトが推奨されていた。


 周囲を見回すと、すぐに「月桂樹亭」と書かれた宿屋が見つかった。


          ※


 宿屋の中は木造の落ち着いた雰囲気で、カウンターには女将らしき中年の女性がいた。


「いらっしゃい、泊まるのかい?」

「ああ、一泊いくらだ?」

「銅貨五枚だよ」


 レイヴンは手持ちの銅貨を確認し、少し考える。


(戦利品を売らなければ、最初のダスクウルフ戦のダメージを回復する手段もないか……)


「悪いが、もう少し安い部屋は?」

「地下室なら銅貨三枚でいいけど?」

「それでいい」


 銅貨三枚を払い、鍵を受け取る。


「じゃあ、ゆっくり休んでいっておくれ」


 女将が微笑むのを横目に、レイヴンは宿屋の奥へと進んだ。


          ※


 地下室は狭いが、ベッドと最低限の家具は揃っていた。

 レイヴンはベッドに腰を下ろし、ログアウトの操作をする。


(……とりあえず、今日はここまでにしておくか)


 初めてのプレイにしては、なかなかの進展だった。

 ネクロマンサーという職業の特性も少しずつ掴めてきたし、金策の方法も見えてきた。

 これから先、どんな冒険が待っているのか。


(……どうせなら、現実ではできないことをやってみるか)


 そんな思いを胸に、レイヴンはログアウトを開始した。


 ——これが、後に「冥府の支配者」と呼ばれる男の、最初の夜だった。

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