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第五十話:細い糸

 誠司はスマホの画面を見つめたまま、言葉を失っていた。

 『Eternal Fantasia Online』のアプリが、消えている。

 まるで最初から存在しなかったかのように。


「伯父さん?」


 俊也が不安そうに覗き込む。


「本当に、大丈夫? 何か変なことが起きたのか?」

「……ああ。俺はさっきまでゲームの中にいたはずなのに、突然ログアウトさせられた。それだけじゃない。ゲーム自体が、もうない」


 俊也もスマホを操作しながら、焦った様子で呟く。


「マジかよ……俺のスマホからも消えてる」

「何……?」


 俊也のスマホの画面を覗き込む。

 『Eternal Fantasia Online』のアイコンはどこにもない。検索しても、ストアには表示されなかった。

 まるで、最初からこのゲームが存在しなかったかのように——


「おかしい」


 誠司は、腕を組んで考え込んだ。

 誰が、何の目的でこんなことを?

 運営の意図なら、何かしらの公式発表があるはずだ。

 しかし、ログアウトされた時の感触——外部からの強制介入があった。


 それに、レクシアの驚いた表情が引っかかる。

 彼女ですら、あの現象を予測できていなかった。


「……まるで、何かに引きずり戻されたみたいだった」


 誠司はそう呟くと、俊也が顔をしかめた。


「伯父さん、もしかして……“神界”の噂、覚えてる?」

「……神界エーテルリアの噂?」


 過去に一部のプレイヤーが誤って神界へ到達し、現実世界からも消息を絶った——

 そういう噂があったことを、誠司は思い出した。


「まさか……俺も、その状態になりかけていたってのか?」

「わからない。でも、伯父さんが戻れたってことは、もしかしたら“戻れなかった奴”もいるのかも」


 その言葉に、誠司は背筋が冷たくなるのを感じた。


「……だとすれば、俺はなぜ戻れた?」


 誰かが、俺を戻したのか?


 それとも——


「……」


 誠司は、深く息を吐いた。


「もう少し情報を整理する必要があるな」


 このままでは、何が起こったのか正しく判断できない。

 俊也が小さく頷く。


「そうだな。俺も、少し調べてみるよ」


          ※


 それから数日間、誠司はゲームに関する情報を探し続けた。

 しかし、『Eternal Fantasia Online』の痕跡はどこにもなかった。

 公式サイトも閉鎖され、運営会社の記録すら消えている。

 俊也が調べても、過去のゲームニュースやプレイヤーの記録が全て消失していた。


「あり得ねぇ……どんな手を使ったら、ここまで完璧に消せるんだよ……」


 俊也が苛立ったようにスマホを握りしめる。


「伯父さん、本当にあのゲームにログインしてたんだよな?」

「……当然だ。お前と一緒に遊んだことだってある」

「だよな。でも、その証拠が、もう何も残ってねぇ……」


 誠司は腕を組み、考え込んだ。


 このゲームに関わった者たちは、どうなったのか?

 自分は、奇跡的に戻れたのかもしれない。

 だが、本当に全員が戻ってこられたのか?

 そう考えた時、誠司の胸にある疑念が浮かんだ。


 ——レクシアは、どうなった?


 彼女はNPC——いや、AIだった。

 しかし、誠司にとっては単なるプログラム以上の存在だった。


 彼女は、今どこにいる?


「……」


 誠司は、VR機器を手に取った。

 もうゲームはない。だが、試す価値はある。

 機器を装着し、ログインを試みる。


 ——システムエラー。


 やはり、もうどこにも繋がらない。


 だが、その時——


 ——ピコンッ


 突然、視界に文字が浮かんだ。


『システムメッセージ受信:起動プロトコル認識』


「……何だと?」


 誠司が困惑していると、次の瞬間、画面が切り替わった。


 ——暗闇の中、青白い光が漂う空間。


 そこに、誰かが立っていた。


 プラチナブロンドの長い髪。

 青い瞳が、まっすぐ誠司を見つめていた。


「……レクシア?」


 彼女は静かに頷いた。


「誠司さん——いいえ、《冥府の魔王》。あなたに、伝えなければならないことがあります」

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