第四話:死霊使いの初陣
「——助けてぇぇぇぇ!!!」
悲鳴が響いた方向へ、レイヴンは即座に駆け出した。
ゲームとはいえ、現実とほぼ変わらない体感を持つこの世界では、走る感覚も自然そのものだった。足元の草が踏みしめられ、土の感触が伝わる。
(……まったく、いきなりイベントか?)
だが、助けを求める声を無視するのは気が引ける。それに、ネクロマンサーとしての力を試すにはいい機会だった。
※
森の入り口に差し掛かったとき、レイヴンは状況を把握した。
そこには、襲われている商人風のNPCと、獣のようなモンスターがいた。
モンスターは身の丈ほどもある体躯を持ち、全身を黒い毛で覆われた二足歩行の獣——ダスクウルフ。
「クソッ……どうして街道沿いにこんな魔物が……!」
NPCの商人は腰を抜かしており、手に持っていた荷物をばらまいている。
ダスクウルフは喉を鳴らしながら、獲物を仕留めるべく跳躍の構えを取っていた。
(間に合うか——いや、やるしかない!)
レイヴンは素早く右手を掲げ、「死霊召喚」のスキルを発動した。
「——Rise, servant of the dead.(目覚めよ、死者の僕よ)」
杖の先が暗い光を帯び、地面がざわりと揺れる。
すると、黒い靄のようなものが地面から立ち上り、骸骨の兵士が姿を現した。
※
【スケルトン・ソルジャー】が召喚されました。
【スケルトン・ソルジャー】
レベル:1
HP:80/80
攻撃力:10
防御力:5
「いけ、やつを引きつけろ!」
レイヴンの指示に従い、スケルトン・ソルジャーはダスクウルフへ向かって突進する。
ガイコツの騎士が武骨な剣を振りかざし、獣の前に立ちはだかった。
「ガァァゥッ!」
ダスクウルフが牙を剥いて飛びかかる。
スケルトン・ソルジャーの剣が一閃し、ダスクウルフの肩口を浅く切り裂いた。
——が、ダスクウルフは怯むことなく、逆にスケルトンを弾き飛ばした。
スケルトンは地面を転がるが、ダメージは軽微のようだった。
(なるほど……物理攻撃に対してはそれなりに耐久力があるな)
骨だけの体ゆえに、鋭い牙や爪による攻撃には強いのかもしれない。
しかし、このままでは決め手に欠ける。
(よし、もう一手試してみるか……)
レイヴンはスキル一覧を開き、新たなスキルを発動した。
「——Dark Grasp(闇の手よ、縛れ)」
足元から影のような黒い手が伸び、ダスクウルフの足を絡め取る。
「ガゥッ!?」
動きを封じられたダスクウルフが、苦しげにのたうち回る。
その隙を突き、スケルトン・ソルジャーが剣を振り下ろした。
刃がダスクウルフの首筋に深く食い込み、黒い血が飛び散る。
ダスクウルフを討伐しました!経験値+50
ダスクウルフが息絶え、黒い靄となって消えていった。
レイヴンは息を整えながら、スキルの余韻を感じ取った。
(……なるほど、ネクロマンサーというのは、前衛の召喚者と後衛の魔法で戦うタイプか)
純粋な攻撃力は乏しいが、召喚した死霊を駆使すれば、かなり柔軟な戦いができそうだ。
※
「た、助かった……! お、おお……なんとお礼を言えば……!」
助けた商人のNPCが、レイヴンに深々と頭を下げる。
「気にするな。ところで、ここはどこの町に続いている?」
「お、おお! ここを抜ければ、すぐ先に《グランベルクの町》がございます!」
グランベルク——おそらく、最初の拠点となる町だろう。
「それは助かる。俺もそこへ向かうところだった」
「では、ぜひ町までご一緒に!」
商人の荷物を拾い集め、レイヴンはグランベルクの町へ向かうことにした。
(ネクロマンサーの力、これはなかなか面白いかもしれん……)
そして、彼はまだ知らなかった。
これが後に「冥府の支配者」と呼ばれる男の、最初の一歩だったことを——。