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第四十六話:引き返せない道

 翌日、誠司は俊也と会うため、待ち合わせのカフェへと向かった。

 外出するのは久しぶりだったが、昨日感じた「違和感」を確かめるためにも、人と直接会うことが必要だと考えたのだ。

 俊也は、誠司が唯一気兼ねなく話せる家族だ。


「俺が薄れているなんて、さすがに考えすぎだろう」


 そう自分に言い聞かせながら、カフェのドアを押し開けた。


           ※


 店内に入り、俊也の姿を探す。


「あっ、伯父さん!」


 すぐに手を振る俊也の姿が目に入った。

 彼は若者らしいラフな服装で、テーブルにはすでにコーヒーが置かれている。


(……ちゃんと、俺のことを見ているな)


 昨日起こった“無視される”現象は、たまたま気のせいだったのかもしれない。

 誠司は内心ホッとしながら、俊也の向かいに座った。


「悪いな、急に呼び出して」

「いいっすよ。久しぶりに会えて嬉しいですし」


 俊也は笑顔を見せる。

 注文を済ませ、しばらく他愛もない会話を交わした後、誠司は本題を切り出した。


「……俊也、お前から見て、俺はちゃんと“いる”よな?」


 俊也は一瞬、怪訝な表情を浮かべた。


「……どういう意味っすか?」

「最近、なんというか……自分の存在が薄れてるような気がするんだよ」


 俊也の顔が、途端に険しくなった。


「……伯父さん、それ本気で言ってます?」

「本気だ。昨日、外を歩いていたら、誰も俺に気づかなかった。声をかけても無視されるし、まるで俺がいないかのようだった」


 俊也は腕を組み、しばらく考え込んだ後、意を決したように口を開いた。


「……実は、俺も少し気になってたんです」

「何をだ?」

「最近、うちの家族が伯父さんのことを話題にしなくなったんですよ」


 誠司の心臓が、嫌な鼓動を打つ。


「話題にしなくなった……?」

「はい。いや、正確に言うと、伯父さんのことを忘れてるみたいに見えるんです」


          ※


 俊也の話によると、ここ数週間の間に、誠司の存在に関する記憶が家族の間で曖昧になっているという。

 例えば、俊也の母——誠司の妹に当たる人物が、こう言ったらしい。


「うちに兄なんていたかしら?」

「伯父さんの家って、誰か住んでたっけ?」


 まるで誠司が最初から存在しなかったかのように振る舞っているのだという。


「最初は冗談かと思ったんです。でも、お袋だけじゃなくて、親父も、妹も、みんな伯父さんのことをまるで知らない人みたいに扱うんです」


「……馬鹿な」


 誠司は頭を抱えた。

 確かに昨日感じた違和感——人々が自分を認識しなくなっているという感覚は、ただの気のせいではなかった。


「お前は、俺のことを忘れてないんだな?」

「もちろんですよ!」


 俊也は力強く答えた。


「俺は伯父さんにゲームをプレゼントしたし、一緒に遊んでるんだから、忘れるわけないっす」


 その言葉に、誠司は僅かな安堵を覚えた。

 だが、それと同時に恐ろしい仮説が頭をよぎる。


「……もしかして、俺の存在は、ゲームの中に引きずり込まれつつあるのか?」


 俊也の顔色が変わった。


「伯父さん、それどういう——」

「この現象がいつから起こったのか、思い返してみろ。俺が《冥府の魔王の証》を得たのは、つい最近のことだ」

「……まさか」


 誠司はゲームのログを確認するため、スマホを取り出した。


 しかし——


「……え?」


 画面が真っ黒だった。


 ゲームのアカウント情報が表示されない。


 代わりに、画面の中央にただ一つ、メッセージが表示されていた。


《冥府への道は、もはや引き返せぬ》


「……これは、どういうことだ」


 誠司の背筋を冷たい汗が伝う。


 《Eternal Fantasia Online》は、ただのゲームではないのか?


 それとも——


 このままいけば、自分は本当に現実世界から消えてしまうのか?

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