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第四十五話:消えゆく存在

 誠司は目を覚ました。


 いつもの寝室——のはずだった。


 だが、どこか違和感がある。


「……?」


 誠司はゆっくりと起き上がり、部屋を見渡した。


 家具の配置は変わっていない。ベッドの隣には、小さなサイドテーブル。その上には目覚まし時計と、昨夜飲みかけた水の入ったコップ。

 何も変わっていないはずなのに、何かが欠けているような感覚が胸を締め付ける。


(気のせいか……?)


 首を振り、リビングへ向かう。

 テレビをつけ、ニュースを流しながら朝食を準備する。


「……」


 コーヒーを口に含み、ふと違和感の正体に気づいた。


 部屋が妙に静かだ。


 いや、違う。


 誠司の暮らしはずっと一人だった。妻を病気で亡くしてから、家には自分しかいない。それは今に始まったことではない。

 なのに、今日のこの静けさは異様だった。


(まるで、俺がこの世界から切り離されつつあるみたいじゃないか……)


 誠司は苦笑し、食事を続ける。

 そんなはずはない。ゲームをやりすぎて、少し疲れているだけだ。


          ※


 その日、誠司は久しぶりに外へ出ることにした。

 退職してからというもの、用がない限り外に出ることは減っていたが、たまには陽の光を浴びるのも悪くない。


「……」


 近所の公園を歩く。

 ベンチに座り、周囲を眺めた。

 親子連れが楽しそうに遊んでいる。ジョギングをする人、スマホを見ながら歩く人、犬を散歩させる老人——。

 誰もが、ごく当たり前の日常を過ごしている。

 だが、その風景の中で、誠司だけが違和感を覚えた。

 まるで、自分だけが世界から浮いているような感覚。


 ——いや、違う。


 俺が、世界から認識されなくなっている……?

 試しに、近くにいたジョギング中の若者に声をかけてみた。


「すみません、今何時か分かりますか?」


 若者は一瞬こちらを見たような気がした。

 だが、次の瞬間、何事もなかったかのようにそのまま走り去っていく。


「……おい?」


 誠司はもう一度、誰かに話しかけようとした。


 だが——


 すれ違う人々は、まるで誠司がそこに存在しないかのように、誰一人として目を向けることすらしなかった。


          ※


 帰宅後、誠司は急いで鏡の前に立った。


「……俺は、ここにいるよな?」


 鏡には、確かに自分の姿が映っている。

 だが、その輪郭がどこかぼやけている気がする。

 まるで、自分の存在が薄れていっているかのように——。


(……まさか、ゲームのせいか?)


 そんな馬鹿な話があるか、と思う。

 だが、これがただの偶然や気のせいとは思えなかった。

 《Eternal Fantasia Online》で《冥府の魔王の証》を得てから、明らかに何かがおかしくなっている。

 ゲームの中では、確かにレイヴンという“存在”は強大になっている。

 その代償として、現実の誠司が薄れているのではないか?


「……俊也に、会いに行くか」


 甥の顔を見れば、この違和感も払拭されるかもしれない。

 誠司はすぐに俊也に連絡を入れ、翌日会う約束を取り付けた。


 その時はまだ、彼が俊也から信じられない言葉を聞くことになるとは思いもしなかった——。

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