第四十話:影を統べる者
二体目の《冥府の守護者》が立ちはだかった。
一体目と同じく漆黒の甲冑をまとい、闇を凝縮した剣を携えている。だが、レイヴンはすぐに異変に気づいた。
「……さっきのやつとは違うな」
先ほどの守護者が「生者を拒む存在」だったのに対し、目の前の守護者はまるでレイヴン自身を試すかのように立ちはだかっている。
「これは、冥府の力を持つ者への試練です」
レクシアが低く呟く。
「つまり、俺が《冥府の支配者》としてふさわしいかどうかを試そうってわけか」
レイヴンは小さく笑うと、背後に蠢く影へと手を伸ばした。
「なら——こっちも試させてもらおう」
影が、形を成す。
そこから現れたのは、異形の騎士たち。
レイドボス級の亡霊騎士が五騎、そして後方には《ヘルウォーカー》の群れが控えている。
「全軍、展開しろ」
レイヴンの号令とともに、死者の軍勢が一斉に前へ進み出した。
だが——
「……!?」
次の瞬間、冥府の守護者がゆっくりと剣を掲げる。
すると、その影から同じく漆黒の騎士たちが現れた。
「……俺の戦術が、そのまま返ってくるのか」
守護者もまた、影から軍勢を呼び出すことができる。
つまり、この戦いは「軍勢VS軍勢」の戦いとなる。
支配する力が上か、それとも——。
「……レイヴン」
レクシアの声は、どこか楽しげだった。
「あなたの《冥府の魔王の証》が本物なら、ここで証明してみせなさい」
「——言われるまでもない」
レイヴンは指を鳴らす。
「《冥府の軍勢展開》——」
その瞬間、彼の背後に広がる影が、より濃密な闇へと変わった。
その闇の中から、これまでに召喚したすべてのアンデッドが次々と現れる。
骸骨兵、亡霊騎士、魔術師型のリッチ、獣のようなアンデッド——
すべての死者たちが、彼の意志のもとに動き出す。
「いくぞ」
影の軍勢 VS 影の軍勢——。
冥府の支配者にふさわしいのは、どちらの影か。
戦いの幕が、切って落とされた。




