表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/86

第三十五話:神界の噂

「なあ、知ってるか? 未実装のはずの“神界”に到達した奴がいるって話……」

「……またその話か。デマだろ?」

「いや、違うんだよ。消えたプレイヤーの数、どんどん増えてるんだぜ」


 レイヴンは酒場の片隅で交わされる会話に、さりげなく耳を傾けた。


 最近、この“神界”という言葉をよく聞くようになった。


『Eternal Fantasia Online』の世界は三層構造になっている。プレイヤーが冒険する広大なオープンワールド「現世(グラン=ファンタズマ)」、死者の魂が行き着く領域である「冥府ネザヴェルム」、神々が住まう領域である「神界エーテルリア」。しかし、「神界エーテルリア」は未実装であり、アクセス不可能とされていた。


 だが、噂では——過去に数人のプレイヤーが、誤ってその場所へ到達したという。


「……その話、詳しく聞かせてもらえないか?」


 レイヴンは興味を抑えきれず、会話をしていたプレイヤーたちに声をかけた。彼らは少し驚いたようだったが、レイヴンの名を知っていたのか、すぐに態度を和らげた。


「あんた……レイヴンか。なら、話してもいいぜ」

「助かる」


 彼は椅子を引き、二人の向かいに座った。


「噂では、“神界”ってのは、システムが誤作動を起こしたときに発生する領域らしい」

「誤作動?」


「ああ。元々、ゲーム内には二つの世界が存在するだろ? 地上世界、冥府。だけど、第三の領域が存在している形跡があるんだ」


「開発中だったとか?」


「それもあり得る。でも、ただの未完成マップなら、踏み込んだとしてもキャラが動けなくなる程度で済むはずだろ?」


「まあ……確かに」

「だけど、そこへ行ったプレイヤーは全員、ゲームから消えた」


 レイヴンの眉が僅かに動く。


「消えた、とは?」


「ログからも、運営のデータベースからも、全部な。ギルドやフレンドリストにいた奴らも、名前ごと消えてる。まるで、最初から存在してなかったみたいにな」


「それって……ログアウト不能者の話と似てるな」

「そう。だから、最近になってまたこの話が掘り返されてるってわけだ」


 レイヴンは腕を組み、沈思する。


(……消えたプレイヤーたちは、ログアウト不能になった後、さらに“神界”に到達してしまったのか?)


「何か他に情報はあるか?」

「一つだけ、気になる話がある」


 話を続けた男は、低く囁いた。


「神界に行った奴らが消える前、“天使の声”を聞いたって言ってたらしい」

「……天使の声?」

「『この世界の真実を見せてあげましょう』って、そんな感じの言葉だったらしい」


 レイヴンの背筋に冷たいものが走る。


(この世界の……真実?)


「それを聞いた直後、プレイヤーたちは意識を失い、次に見たときにはもう消えていたって話だ」

「……まるで、意図的に消されたみたいだな」

「そういうことだ。運営が関与してるのか、それとも別の何かが動いてるのか……俺たちにはわからねえ」


 レイヴンは静かに立ち上がる。


(このゲームには、何かが隠されている……)


 彼は既に「冥府」に関わる異変を目の当たりにし、「ログアウト不能」という事態にも直面していた。

 そして今度は「神界」という未踏の領域と、それに関わった者たちの“消失”。


「……お前ら、この話をどこで聞いた?」

「ん? ああ、消えたプレイヤーの一人と昔一緒にプレイしてた奴がいるんだ。そいつが言ってた話だよ」

「そいつに、俺を会わせてくれないか?」

「……悪い、それができねえんだ」


 男は言いにくそうに目を伏せる。


「なんでだ?」

「……そいつも、昨日からログインできなくなってる」


 ——全身に、戦慄が走った。


 何かが、確実にこのゲーム内で動いている。


 見えない何かが。


(神界……俺もそこへ辿り着くのか?)


 レイヴンは静かに息を吐きながら、この世界の“真実”へと近づいていることを確信した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ