第三十二話:死が奪えぬ者
レイヴンは慎重に冥府を進んだ。
先ほど《冥獄の王》に敗れたはずなのに、なぜか自分はこうして無傷でここにいる。しかも、死亡ペナルティすら受けていない。
「バグか?」
真っ先に思い浮かんだのは、その可能性だった。
だが、直感的にこれはバグではないと感じていた。
理由は簡単だ。
ここまでのすべてが、あまりにも整合性が取れすぎている。
戦闘ログが消えていない。スキルの使用履歴が残っている。経験値もそのまま。
仮にバグであれば、どこかしらのデータが破損するはずだ。しかし、彼のステータスは完全に正常。まるで、ゲームシステム自体が「レイヴンには死亡の概念がない」と判断しているかのようだった。
「……ログアウトして確認するか?」
一度、ゲームを落として入り直せば、何かしらの異常が見つかるかもしれない。
そう考えた矢先、彼の意識に奇妙な感覚が走った。
——ログアウトしようとする意志が、拒絶される。
「……なんだ、今の感覚?」
不安になりながら、レイヴンはメニュー画面を開く。
そこで、決定的な異変を見つけた。
ログアウトのボタンが、灰色になっている。
「……まさか」
ログアウト不能——
いや、まだ断定はできない。単なる接続エラーの可能性もある。
しかし、直前の異常といい、冥府の奥での死後の状況といい、嫌な予感が拭えない。
(……ひとまず、もう一度最奥まで行って確かめるか)
何かしらのヒントがあるかもしれない。
そう考え、再び《忘却の淵》へと向かおうとしたその時——
カツ……カツ……
遠くから、誰かの足音が響いた。
この冥府の奥深くに、他のプレイヤーがいるはずがない。
ならば、あれは何者なのか。
レイヴンは慎重に身構え、ゆっくりと振り向いた。
そこに立っていたのは——
白いドレスを纏った、一人の少女だった。




