第二十話:死者の軍勢、戦場に集う
広大な砂漠の中心——そこに、レイドボス《砂塵の魔王バルザグラード》は君臨していた。
体長十メートルを超える巨大な魔人。黒曜石のような肌に、灼熱のオーラをまとい、両手には巨大な戦斧を携えている。
——【レイドボス:バルザグラード(Lv70)】——
「おいおい、デカすぎるだろ……」
「この規模だと、まともにぶつかるのは自殺行為だな」
「だけど、こいつを倒せばユニーク装備が確定ドロップだぜ? やるしかねえ!」
集まったプレイヤーたちは、レイドボスの威容を前にざわめいていた。
ここにはトップランカーと呼ばれる強者たちも集結している。
前衛を務める重装騎士たち、強力な魔法を操る大魔導士、そして回復役の神官たち。
総勢五十名以上のプレイヤーが、このレイド戦に参加していた。
そんな中、一人の男が静かに戦場を見つめていた。
プレイヤーネーム:《レイヴン》(Lv55)
職業:《ネクロマンサー》
日焼けした肌に、クセのある茶髪のセミロングを後ろで束ね、顎髭を生やした男。
彼は、杖を持つ手をゆっくりと握りしめる。
(……さて、俺のやり方を見せてやるか)
◆ 戦闘開始
先陣を切ったのは、廃プレイヤーの一人である《ヴァルド》(Lv63)。
黒銀のフルプレートに身を包んだ騎士で、トップギルド【鉄壁の楯】の幹部でもある。
「先手を取る! 行くぞ!」
ヴァルドが咆哮し、突撃を開始。
それに続き、他の前衛職たちも一斉にレイドボスへと襲いかかる。
「いけぇぇぇ!!」
重騎士たちが攻撃を仕掛け、魔導士たちが強力な魔法を放つ。
しかし——
——【バルザグラードが《砂嵐の咆哮》を発動】——
「なにッ!?」
次の瞬間、砂塵が吹き荒れ、前衛のプレイヤーたちが吹き飛ばされていく。
「ぐぁっ!」
「耐えられねえ!」
盾を構えたヴァルドですら、数メートル後方へと押し戻された。
「クソ……このままじゃ、戦線が崩れる……!」
その時、静かにレイヴンが前へと進み出た。
「ふむ……派手なものだな」
「おい、ネクロマンサーの兄ちゃん、あんたも攻撃に加わって——」
ヴァルドが言いかけた瞬間。
「《死者の召喚》」
——【スキル効果発動】——
死者の魂を呼び寄せ、戦場に配備する
地面に黒い魔法陣が展開され、そこから無数のスケルトン・ウォーリアたちが現れた。
それも、ただの雑魚ではない。
【スケルトン・ウォーリア(Lv45)×10】
【スケルトン・アーチャー(Lv42)×8】
【スケルトン・メイジ(Lv40)×6】
「な……ネクロマンサーの召喚って、こんなに大量にできるのか?」
「普通は一体ずつしか使い捨てにしないはずだが……」
驚く周囲をよそに、レイヴンは静かに杖を振るう。
「隊列を組め。前衛は防御を固め、後衛は魔法と射撃で支援。交戦距離を保ちながら、敵の行動を制限する」
レイヴンの指示を受け、スケルトンたちが整然と動き始める。
前衛にスケルトン・ウォーリアを並べ、アーチャーとメイジが後方に控える陣形。
「……嘘だろ。まるで軍隊じゃないか」
「ネクロマンサーの召喚って、こういう運用ができるのか……?」
レイド戦に参加していたプレイヤーたちは、思わず息を呑んだ。
「フン……アンデッドは使い捨ての駒じゃない。立派な部隊だ」
レイヴンは不敵に笑う。
「俺の軍勢が、戦場を制圧する——」
次の瞬間、バルザグラードが咆哮し、巨大な戦斧を振り下ろした。
「——来るぞ!」
ヴァルドが警戒の声を上げる。
「構えろ! 《死者の加護》!」
——【スキル効果発動】——
支配下のアンデッドに即死・状態異常耐性を付与する
バルザグラードの一撃がスケルトン・ウォーリアたちに直撃する——が、彼らは崩れることなく耐え抜いた。
「耐えた!? 通常なら一撃で消し飛ぶはずなのに!」
「バフスキルか……!? いや、それだけじゃない」
さらに、レイヴンは冷静に次の指示を出す。
「後衛、攻撃開始。火力を集中しろ!」
スケルトン・メイジたちが詠唱を完了し、一斉に魔法を放つ。
「《ダークフレイム》!」
「《シャドウボルト》!」
闇の魔法がバルザグラードの巨体に直撃し、爆発が起こる。
「す、すげえ……まるで戦術部隊じゃねえか」
「ネクロマンサーって、こんな運用ができるのか……?」
プレイヤーたちは衝撃を受けながらも、次第にレイヴンの戦術に引き込まれていく。
レイドボス戦は、まだ始まったばかり。
しかし、すでに戦況は変わり始めていた——




