第十話:ネクロマンサー向けの装備とは?
王都ヴェルニアの石畳を踏みしめながら、レイヴンと俊也はアンデッド使い向けの武器屋を目指していた。
「ここが、俺のオススメの店」
俊也が案内したのは、街の一角にある寂れた雰囲気の武器屋だった。
派手な看板もなく、入り口にはボロボロの布製カーテンが掛けられているだけ。通りを歩くプレイヤーたちも、この店には目もくれず素通りしていた。
「……随分と人気がないな」
「そりゃあね。ネクロマンサー向けの武器を扱ってる店だからさ」
「なるほど」
このゲームにおいて、ネクロマンサーは希少職だ。
プレイヤーの多くは剣士や魔法使いを選び、ネクロマンサーのような「死霊術系の職業」は敬遠されがちだった。
そのせいで、こういう専門店は隠れた場所にあるのだろう。
(だが、俺にはちょうどいい)
レイヴンは躊躇なく、店の入り口をくぐった。
※
店内は薄暗く、木製の棚には不気味な装飾が施された杖や短剣が並べられている。
その中には、明らかに呪われていそうなアイテムも混じっていた。
「……いかにも、って感じの店だな」
「まあ、ネクロマンサー向けだからね」
奥のカウンターには、長身の店主が立っていた。
ヴォルク——骨のように痩せた男で、黒いフードを深く被っている。
「ほう……珍しい客が来たな」
ヴォルクはレイヴンを見つめ、ニヤリと笑った。
「その雰囲気……ネクロマンサーか」
「そうだ。武器を探している」
「ふむ……ならば、これなどどうだ?」
ヴォルクが取り出したのは、黒い鉄製の杖だった。
《死者の導杖》
•物理攻撃力:+5
•魔法攻撃力:+20
•特殊効果:《スケルトン系召喚獣の強化》
「ネクロマンサー向けの基本装備だ。アンデッドの召喚強化がついている」
「悪くない」
レイヴンは杖を手に取り、その重量を確かめた。
現実では杖を振り回すような経験はないが、ゲーム内の補正のおかげか、違和感はなかった。
「で、お値段は?」
「銀貨2枚だ」
「……高いな」
このゲームの通貨価値は、初期プレイヤーにとってはかなりシビアだ。銀貨2枚は初心者狩場で何時間も稼がなければ手に入らない金額だった。
「伯父さん、今いくら持ってるの?」
「銅貨5枚程度だな」
「じゃあ足りないね。どうする?」
「……後でまた来よう」
無理に買う必要はない。今の装備でも戦えないことはないのだから。
「なら、とりあえず防具を見ようぜ」
俊也に促され、レイヴンは別の棚へと向かった。
そこには、黒いローブや、骸骨の紋章が入った手袋などが並んでいた。
「これなんかいいんじゃない?」
俊也が指差したのは——《死者の外套》だった。
《死者の外套》
•防御力:+10
•魔法耐性:+5
•特殊効果:《アンデッド系スキルの詠唱速度+5%》
「こっちは銅貨2枚か……これなら買えるな」
「じゃあ決まりだね」
レイヴンは《死者の外套》を購入し、その場で装備した。
※
店を出たレイヴンは、装備を確かめながら呟いた。
「……これで、少しは戦いやすくなったか」
「まあ、伯父さんは職業補正で防御が紙だから、防具は重要だよ」
「分かっている」
ネクロマンサーは、召喚獣で戦うスタイルのため、本体の防御力が低い。
その分、装備を整えることで補う必要があるのだ。
「さて……次はどうする?」
俊也が問う。
「……ダンジョンにでも行くか」
「お、いいね! どこ行く?」
「《王都地下墓地》はどうだ?」
「地下墓地か……ネクロマンサー向けのダンジョンだね」
「アンデッドが多いなら、俺のスキルも活かせるだろう」
「よし、じゃあ決まりだな!」
こうして、レイヴンの本格的な冒険が始まる——。




