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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第一章 学校の怪談
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第八話 怪談話

「流凪はどこで明里さんと友達になったの?」


「スーパーで声かけられたんだよ。ソフトクリーム買ってくれたんだー」


 それは一体どういう状況なのだろうか。秋子の脳内は疑問で埋め尽くされた。友達になったきっかけがそれということは、知り合いでもない子に急にソフトクリームを差し出したということだろうか。何があったらそうなるのか。流凪の人となりを知るための会話だというのに、あまり関係ないそんな部分が気になってしまって仕方がない秋子は、関連した質問を続けることにした。


「え、ええと、どうしてソフトクリームを買ってもらったの?」


「さあ、分かんない。寝てたら声かけられてー、何故か急にソフトクリーム買ってきてくれたの」


「??????」


 意味不明な状況に思考を停止したくなる秋子だったが、どうにかキーワードを拾うことに成功した。『寝てたら』という流凪の言葉。先ほど流凪は希美と出会ったのはスーパーだと言っていた。つまり、流凪が寝ていたのもスーパーの中。それも希美が発見出来るような人通りのある場所だということになる。あまりにも危険に思える姿に思わず声をかけてしまった希美。そして、流凪の気を引いて自分についてきてもらうためにソフトクリームを渡したのだとしたら。


(やっていることが誘拐犯に近いようにも思えるけれど……)


 あとは単純。この可愛さの化身の如き少女と友達になりたくなった希美が勇気を出して、ということだろう。状況は理解出来た。恐らく。


「わたしともお友達になってもらえる?」


「いいよー」


「ありがとう。プールから出たら連絡先を交換しましょう」


「おっけー」


 グッと拳を握る秋子。流凪の素性を知るとかそんな目的は抜きにして、素直に嬉しかった。思わず浮き輪の上で寝転がる流凪の頭に手を伸ばし、なでなで。


「うわっ、サラッサラだわ……」


「んふー」


 嬉しそうに目を細める流凪。それを見てキャーキャー騒がなかった自分を褒めて欲しい。誰も何も言っていないのにそんなことを考える秋子の目は、完全にハートになっていた。可愛い妹を持つ姉というのはこんな気分なのかもしれない。見た目的に恐らく同い年くらいだと思われるが、秋子の中では完全に流凪が年下になっていた。


 それも仕方がないのかもしれない。流凪の言動は、とても小学四年生より上だとは思えないものばかり。人通りのあるスーパーで昼寝、ソフトクリームにつられて初対面の相手についていく、プールでも浮き輪上で眠り、どんな人間かもよく知らない相手と簡単に友達になる。小学校に上がりたてくらいなのではないかという疑いすら持ってしまう秋子。体格は秋子とほぼ同じくらいだというのに、雰囲気が幼過ぎるのだ。



「ん……?」



 ニコニコと撫でられていた流凪の表情が唐突に険しくなる。驚いて頭から手を離す秋子。何かしてしまったか。もしかして、頭に触られたくない部分でもあったのだろうか。まだ友達になっただけで大して知りもしない相手に馴れ馴れし過ぎたか。一先ず謝罪だろうと思い口を開こうとした秋子の動きを遮るように、流凪が起き上がって顔を寄せてくる。


「え、何、どうしたの……?」


「…………スンスン」


「ちょっ!?」


 急に首元に顔を寄せてきたと思ったら匂いを嗅ぎ始めた流凪。流石にそんなことをされては恥ずかしい秋子は、慌てて浮き輪から手を離し距離を取る。


「も、もしかして臭かった、かしら……?」


 先ほど唐突に表情が険しくなったのは、自分の臭いがキツかったからなのだろうか。年頃の少女としてそんなことは認めたくないが、知識としてどうしても気に入らない体臭というものが存在するということは秋子も知っている。しかしだからと言って、この天使の口から『臭い、近寄らないで』などと言われたら、ショックで家に引きこもる自信があった。


「んー……残滓……いや、でも……この薄さ、実際に触れては……」


 流凪は何か考え込んでいて秋子のことを気にした様子はない。そうしている間に少し冷静になった秋子。どうやら自分の体臭が気になって顔をしかめた訳ではないようだ、ということは理解出来た。しかしだとしたら一体なんだというのか。残滓とは。何か妙なものに接触したことがあっただろうか。何も覚えがない秋子だが、ここまで明確な反応を示されると流石に気になってしまう。


「流凪?」


「ん、ゴメンゴメン。大丈夫だと思うよ」


「何が大丈夫なの?」


「んー、説明が難しいんだけど……そうだなぁ……。秋子ちゃんの周りで何か、学校の七不思議みたいな怪談話、ある?」


「怪談話?」


 それが何の関係があるのか分からないが、とりあえず脳内を検索してみる秋子。家にはそんな妖怪の伝承とか曰くつきの物件だったとか、よく聞くような怪談はなかったはず。近所では夜に不審者がうろついているから注意するようにと最近になって呼びかけがよくされるようになったが、怪談話とは別物だろう。となれば学校だが、流凪の言う通り、よくある感じのいわゆる七不思議という物が天路ヶ丘小学校にも存在している。これもこの時期だからなのか最近になってよく噂を聞くようになった。音楽室の動く肖像画、走る人体模型、階段から覗く目、物音がする女子トイレ、校舎中に響き渡る少女の声、校庭の人影、現れ消える浮遊霊。あくまで噂話であり、当然その存在を確認した人がいる訳ではないのだが、秋子が知るのはこの七つだ。


「ふんふん、なるほど。なかなか珍しい感じだねー」


「珍しい?」


「学校の七不思議ってさ、大体が場所指定のあるものなんだよ」


「……確かに」


 音楽室、理科室、美術室、プール、何年何組の教室、何階の女子トイレ、といったように、世間に出回る話の多くには明確な場所指定がされている。もちろん全てがそうではないが、秋子が知る物も多くが特定の場所に発生する話だ。が、天路ヶ丘小学校は違う。音楽室の肖像画を除き、明確な場所が示されているものがない。校庭も場所指定がされていると考えたとしても二つ。残り五つは校舎内のどこで起きるのかが不明だ。


「うーん、ちょっと……そうだなぁ……秋子ちゃんの学校に伝わる話って他にはない?」


「他、というと、屋上から飛び降り自殺した生徒がいた、とか、教室で首吊り自殺した生徒がいた、とか、いじめを苦にしていじめっ子を殺害したとか? そんな物騒な話ならいくつかあるけれど、怪談話って感じではないかしら」


 本当にあったのかも分からない過去にあったとされている事件。それこそ怪談のようにただの噂として伝わっているものがあり、秋子はそんな噂話をそれなりに知っていた。ジャンルを問わず、それが知識なら何でも収集したがる癖がある秋子は、図書室にある本の多くを読破し、それだけに止まらず、過去の新聞や詩集、誰が書いたのかも分からない日記の如き学校新聞などなど、保管されている多くの書物を読み漁っている。そんなソースも定かではない情報も脳内に収納している秋子は、その内のいくつかを流凪に語って聞かせた。


「ふんふん」


「中でも一番えぐかったのはあれかしらね」


「あれ?」




 小学校教師による女子生徒強姦事件




 とある男性教師に目をつけられた小学生女子が強姦された。それは一度に留まらず、何度も何度も、日常的に繰り返され、ついにその女子は自殺してしまった。後の調べで、その男性教師は校舎を改造して人に見つかりづらい場所を用意してことに及んでいたということが判明。そのせいで一切の証拠が見つからず、被害者女子の訴えは周囲に聞き入れてもらえなかったという。それどころか、嘘を吐いて教師を陥れようとする不良であるというレッテルが貼られ、他生徒からのいじめや他教師、両親からの叱責等も重なり、世の全てに見放されたと絶望した被害者女子は、最終的に狂ったように笑いながら教室の真ん中で自身の頭をハサミで突き刺し自殺した。




「というものね。まあこれは流石に創作だと思うけれど」


「そうなの?」


「だって、校舎を改造して見つかりづらくしたって何よ。意味わからないし、仮にそうだとしてもその見つかりづらい場所を被害者が報告すれば良いだけじゃない」


「……ふふ、秋子ちゃんは素直だね」


「え?」


 今まで見せていた幼い姿とは違う、ドキッとする程に妖艶な視線。秋子は、流凪が見せる意外な姿に見入って動きを止めた。呼吸すら忘れる秋子が見つめる中、流凪は続ける。



「周囲がその加害者の男性教師と繋がっていたとしたら」



「ッ!?」


 そんなこと、思いもしなかった。周囲の全てでなくても良い。被害者が報告するだろう数人の教師さえ抱き込んでしまえば、あとは無力な子供の言葉など封殺出来る。逆か。抱き込めた教師に報告しそうな生徒を狙って行為に及んだ、ということか。一度新たな視点が生まれれば、後はいくらでも想像出来る。この想像が合っているかどうかは関係ない。可能性として、本当であるということがあり得る、と。秋子の優れた頭脳は、考えたくもない可能性を次々と生み出し、本当にこの最悪な事件が過去に発生していた可能性があるのだと、そう結論付けてしまった。


「うん、ありがとう、秋子ちゃん。大体分かったよ」


「わ、分かったって、何が……?」


「大丈夫だよ。秋子ちゃんは気にしないで。よほど運が悪くなければ、秋子ちゃんには関係ない話だから」


「そ、そう……」


 寒気を覚えるほどに嫌な感覚が全身を覆い、これ以上この話を続けたくなかった秋子は、流凪への更なる追及を止め口を閉じた。

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