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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第一章 学校の怪談
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第七話 スヤスヤ流凪ちゃん

 ワンピースタイプの可愛らしいピンクの水着を身に着けた凜々花が、理不尽な怒りをぶつけてくる。待ってて欲しいと言った訳でもないのに勝手に待っていて、それで待たされたと文句をぶつけてくるなどあまりにも身勝手が過ぎる。しかしそんな内心を素直に言葉に出来るのなら希美はいつまでも凜々花に絡まれていないのだ。何も言い返すことが出来ないまま、助けを求めるように凜々花の両隣へ目を向ける。


 少し身長が低いかなというくらいで最早大人と変わらない豊かな身体で黒ビキニを着こなす奏も、一見普通の服のように見える腹の出た丈の短い白いシャツにデニムのショートパンツ姿の秋子も、凜々花の行動に呆れてはいるものの止めようとする様子はない。慣れ切った光景、いつも通りのこと。慌ててどうにかするほどのものでもない。二人からはそんな諦めにも似た落ち着きを感じられた。


「はぁ……待ってたって、どうして?」


「そんなの当然、勝負するためよ! 金髪、あんたをけちょんけちょんにして、あたしの方が上だって思い知らせてやるわ!」


 希美は自分が凜々花よりも上であると思ったことなど一度もない。それは何度も伝えているつもりなのだが、凜々花が話を聞く気がないのか希美が口下手なのか、どうにも伝わっていないらしい。再びため息が出そうになるのをどうにかこらえる希美。実際のところ、勉強は常に希美の方が少しずつ上、運動は多くの場合で凜々花の方が上だが身長の関係で希美が上になったりもする、という感じ。凜々花もその能力は高く、大体のことは高い水準でこなすことが出来る。つまり、総合的に見るならどちらが上ということもないのだ。ただしそれが当人に納得出来るかどうかは別問題。凜々花としては、常に希美よりも上にいたいらしい。


「ほら行くわよ。あっちの二十五メートルプールで勝負するから、ついてきなさい」


「そんなこと言われても……流凪ちゃん。あれ、流凪ちゃん……?」


 流凪と一緒に遊ぶために来たのだから、と言って断ろうと流凪を振り返る希美。しかし、そこに流凪の姿はなく、玲だけが立っていた。


「あの、玲さん、流凪ちゃんは……?」


「あちらです」


 玲が指さしたのは、邪魔が入らなければこれから向かおうと思っていた流れるプール。見てみると、そこに浮き輪を浮かべてその上に仰向けに転がりスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている流凪の姿が。


「も、もう寝てる……!?」


 驚愕の間にもどんどん流れて遠くなっていく流凪。それなりに人もいるのに、無防備に寝ていて大丈夫だろうか。心配になった希美は、凜々花たちを放置して自分も流れるプールに入ろうと足を踏み出した。


「あの人は放っておいても大丈夫ですよ」


「え、でも」


 まさかの邪魔が玲から入り足を止める希美。凜々花に邪魔されることは想定していたが、玲が止めてくるとは思わなかった。この人、本当に流凪のメイドなのだろうか。もしかして主従仲はあまり良くないのか。でもスーパーには迎えに来ていたし。そんなことを考えている間にも流凪は遠くなり、ついに視界から消えてしまった。


「行くわよ!」


「あ、ああー」


 凜々花に腕を掴まれ無理矢理勝負の地へと連行される希美。なんと玲もそれについてくる。本当に流凪を放置する気のようだ。あんな天使のような子を一人にして本当に大丈夫なのか。というか流凪と遊びに来たのに何故凜々花と勝負することになっているのか。


「っもー!!」


 ついに希美の口から飛び出た不満の叫びは、誰も取り合ってくれなかった。








 秋子は二十五メートルプールへと向かう凜々花や奏、希美と玲を見送り、流れるプールへと入る。そして、視界から消えてしまったあの天使の如き少女を追いかけた。ほどなく、浮き輪の上で寝息を立てる天使を発見。浮き輪につかまって自分も浮かぶことで、同じ速度で流される状態を維持する。


(この子のこと、知っておかないと怖くて仕方がないわ)


 流凪というらしいこの天使に最初は気圧されていたものの、結局は何も気にせず希美に喧嘩を売っている凜々花。その隣にいる以上、少しでもこの少女がどんな人間なのかを知っておかなければ、今後どんな仕返しをされるのか怖くて気が気ではないのだ。メイドの方も今一どんな人間か分からないが、どちらの情報を先に集めるべきかと考えれば間違いなくこっちだろう。


「すぅ……すぅ……」


 その寝姿はあまりにも可愛らしく、このままただ見守っていたい衝動に駆られる秋子。万人を惹きつけるだろうと冗談なく信じられてしまう圧倒的容姿。にも拘わらず、無防備に人前で寝始めてしまうなんて。


「ごくり……」


 思わずのどが鳴る。秋子は決して同性愛者ではない。これまで男子を好きになったことはないが、だからと言って女子が好きだなんて、そんなことはない。はずなのだが、少し自信がなくなっている自覚が秋子にはあった。正直、このレベルが相手なら全く嫌じゃない。どころか、小学校で会う子供っぽい男子共より大差をつけて上だ。


「ハッ!? いけないいけない」


 結構な危ない思考をしている自分に気が付き、慌てて頭を振って正気を呼び戻す秋子。こうして流凪の下に来たのは、こんな変態的な心を満たすことが目的ではない。流凪と会話をすることでその人となりを知り、仕返しをしてくるような相手ではないという安心を得る、もしくは仕返しを食らった時にどう対応するべきかを考えることが目的なのだ。


 そのためには流凪に起きてもらって話をしなければならない、のだが。


(起こしたらマズイかしら……)


 流凪は依然として気持ち良さそうに眠っている。凜々花が騒いでいる中で一人プールに入り、そのまま間を置かずに寝てしまうということは、もしかしてあまり夜に眠れていないのかもしれない。とても眠くて我慢出来なかったためにこのような行動に出ているとしたら、起こすのは申し訳ないようにも思える。そうでなくとも、もし流凪が好戦的な性格だった場合、起こしたことで怒りを買って本格的な対立関係に入ってしまうかもしれない。そんなことになっては何のためにここにいるのか分からない。


(どうすれば良いの)


 秋子は頭が良く、常に学年トップの成績を維持し続けている秀才だが、だからこそ思考が回り過ぎて行動に移せないことがしばしばあった。そんな秋子を引っ張って動かしてくれるのが凜々花なのだが、この場に凜々花はいない。自分で行動を決定しなければならない。


 流凪が起きた後の行動を考え、仮に流凪が好戦的だったとしても自分に怒りが向かない方法。そんな都合の良い方法を求めて思考し続け、一分ほどして思いつく。そうだ、プールの揺れで自然と目が覚めたことにしよう。


 ということで、秋子はゆっさゆっさと浮き輪を揺らし始める。自分は何もしてませんよー、ただプールのせいで揺れているだけですよー。そんな言い訳を内心で並べながら揺らすこと三分。運動が苦手な秋子にとってはなかなかの重労働で、少々息が上がり始めた頃。


「ううん……うん?」


 やっと浮き輪上の流凪に動きがあった。眠そうにあくびをしながら腕を上に伸びをして、パチリとその目を開く。


「君はー」


「初めまして、で良いのかしら。藤野谷秋子よ。秋子で良いわ」


「よろしくー。わたしは澄川流凪。じゃあわたしも流凪って呼んでね」


(とりあえず、好戦的ということはなさそうね。起きてくれたし、このまましばらく話してこの子のことを教えてもらうとしましょう)


 一先ず問題なく話が出来そうなことにホッと一つ息を吐いて、どんな質問をしようかと秋子の思考は再び回り始めた。

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