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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第二章 妖刀の伝説
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第五十四話 思惑

 玲に抱えられた状態で家へと帰る流凪。その間、玲はずっと流凪の様子を心配そうに観察しており、流凪としても居心地が悪い。


「うーん……」


「ど、どうしましたか? どこか問題でも」


「そうじゃなくてねー」


 居心地の悪さに小さく唸り声を出せば、それに慌てて反応する玲。確かに力の行使はしたが、別にそれで疲労している訳でもないし怪我をした訳でもない。玲の心配は明らかに過剰であり、マイペースな流凪をして少しずつうっとおしく感じてくるレベルだった。そんな状況を改善するべく、流凪はため息とともに口を開く。


「寝るから家に着いたら起こしてー。あとご飯の準備とー、希美ちゃんたちにテキトーにそれっぽい説明もついでにしといてー。あーあと多分明日には帰ることになるよね。その準備もねー。あとねー」


 つらつらと途切れることなく要求を並べていく流凪。その内容は妥当なものもあったがほとんどがただの我儘であり、疲れてるからしょうがないよねーと疲れてもいないくせに言い訳して好き勝手に言い続けている。


「それとー」


「いい加減にしなさい! 心まで幼女になってどうするんですか、少しは自分でやってください!」


 思わず、といった様子で玲が声を荒げた。ハッとして腕の中の流凪を見ると、何だか嬉しそうな表情が見上げてくる。


「それで良いんだよ、いつも通りで。それくらいの方がわたしも楽だからねー。従順なだけのメイドなんてつまんないし、わーわー言ってくれた方がわたしも感情が動きやすい」


 その方が、自分の人間らしさを確認出来る、と。言葉にはしなかったが、流凪の気持ちは玲に伝わっていた。


「じゃ、おやすみー」


「はぁ、まったく。今はゆっくり寝てください。後で手伝ってもらいますからね」








 雨の影響で到着が遅れていた警察の事情聴取がやっと終わり、春希は赤くなってきた空を見上げながら山道を歩いていた。




 田野山家の四名全員が亡くなった今回の事件、容疑者となるのは当然ながら春希たち明里一家と流凪、玲の五人だ。目撃者が一切なく、ほぼ田野山家内で事件が完結しているのだから当たり前である。では、その中で誰が犯人である可能性が高いかと言えば、春希になってしまう。唯一の成人男性であり、勝や優を殺害することが可能でありそうな人物だからだ。実際には玲にも可能だが、警察はその事実を知らないので、春希以外はか弱い女性ばかりに見える。春希に疑いの目が向くのは必然だった。


 しかし、警察としても困ったことに、凶器が見当たらない。被害者は全員、明らかに日本刀のような刃渡りの長い鋭利な刃物を用いて殺害されている。どれだけ探しても、凶器になり得るような刃物が見つからないのだ。今回の事件は以前の学校の件と違い、正直に話すと玲が犯人として疑われてしまうことは想像に難くない。そのため流凪と玲は、勝の死体を発見しただけで事件のことは何も知らないという方向で警察に説明していた。見た目十歳程度と十八歳程度の少女たちだ。そう説明されれば、警察も大して疑いもせず受け入れた。その結果、事件がどうやって起きたのかが全く分からなくなってしまったのだ。


 凶器が存在しないことは置いておいて、犯人の有力候補は被害者の一人である優だ。佳奈美や春希への聞き取りから動機があることも分かっているし、事件を起こせるだけの能力もありそうだ。しかし、そうだとすると優も死んでいることがおかしくなってしまう。優の死体は額から頭蓋骨を貫通するように傷が出来ている。仮に優が自殺したとして、自分でそれをするのは不可能に近い。死体の状況から優は他殺であるはずだが、優を殺す動機がある人物も、殺せるだけの能力がある人物も思い当たらない。


 また、事件と関係があるかは不明だが、錬刀神社の巫女、幸薙朱里が行方不明となっているらしい。事情聴取で得た事実からその幸薙朱里という人物について警察が調べてみると、何と戸籍がない。話を聞いた五人全員が幸薙朱里という人物を知っていて、しかも十数年もの間神社で目撃されているそうなのだが、朱里という人物の実在を証明する物が何一つ存在しないのだ。この幸薙朱里という人物が犯人であるという可能性、彼女も被害者である可能性、両方を念頭に入れて捜査を進めることになる。




 神社にたどり着いた春希は、鳥居を通って中へと入っていく。出迎える者は誰もいない。静かな境内に、春希の足音だけが響く。



「これで、全て君の思い通りの結果になったのかな」



「っ!?」


 誰もいないと思っていた春希の耳に、少女の声が入ってくる。拝殿の柱の陰から、可愛さの化身のような少女が現れた。その表情は、普段と変わらない眠そうな、穏やかな顔。だが、言い知れない威圧感があるように思えた。それは春希の心理状態によるものか、あるいはこの澄川流凪という可愛らしい少女が持つ何らかの特殊性によるものなのか。


「思い通り、とは。おかしなことを言いますね、流凪さん。わたしが、妻の家族の死を願っていた、と?」


「んー、そこじゃない、かなー。多分ね」


 怪訝な顔をする春希に説明するためか、はたまた自分の考えていることを口からこぼしているだけなのか、流凪が続けて話していく。


「君たち一家がここに来たのは儀式のためなんだってね。でも、実際に儀式らしき何かをしているところは一度も見ていない。多分ここにいることが重要で、実際に何かをするってことはないんだろうね」


「ええ、そうですね。わたしもそれなりの回数こちらに来ていますが、儀式らしきことをしているのは見たことがありません」



「じゃあ、ここに来た二日目、君は何をしに神社に行ったの?」



 あの日、朝食の席で流凪は希美から聞いていた。春希は儀式の準備のために神社に行った、と。しかし、実際に儀式などというものは行われていない。ならば春希は何をしに神社へ行ったのか。


「もう一つ。勝君たちが行方不明になった時、君はわたしたちに裏山の捜索をお願いしてきたよね。自分たちは土地勘があるから色々な所を回った方が良いって」


「そうですね」


「でも、それもちょっとおかしい。だって、何か事件に巻き込まれたかもしれないっていう人を探そうとしてるんだよ? わたしたちみたいな小娘に山の中なんて危険な場所の捜索を任せるかな、普通」


 勝たちが何かの事件でいなくなったのなら、犯人が山へ逃げ込んだ可能性はある。そうでなくとも、山の中にはイノシシ等の野生動物が生息しており、捜索のために山奥へ入っていくなら少女たちにそれを任せるのは危険に思える。土地勘があるから、というのなら山中だって同じこと。ならば、より危険に思える山の捜索を春希が担当する方が普通ではないだろうか。


 別に、だからどうだ、ということもない。もしかしたら流凪が知らないだけで春希には神社でやるべきことがあったのかもしれないし、土地勘というのは分かりやすく言っただけで実際には住民との交流があるから調査しやすいとかそういう話なのかもしれない。全て流凪の言った通りだったとしたって、だから春希が何かの犯人になる訳でもない。



 ただ、違和感がある。だから気になる。



 そもそも、流凪は今回のこの旅行に何故呼ばれたのかを聞いていない。特別な理由などなく、希美が喜ぶからだ、というならそれで良い。流凪だって希美が嬉しいなら喜んで旅行にだってどこにだって同行するだろう。しかし、もしそうではなく、何か別の目的が。



 何か、別の思惑があるのだとしたら。

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