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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第二章 妖刀の伝説
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第四十八話 妖刀

 玲は正直、振り返りたくなかった。だって、刀が飛んで行った方向から呻き声が聞こえてくるなんて、原因は一つしかないのだから。そちらを見れば、見たくないものが見えてしまうに決まっているのだ。だからといって確認しない訳にもいかない。錆び付いているかのように動き辛い首をどうにか動かして、振り返る。



 刀が刺さった胸を押さえ、今まさに倒れようとしている、田野山佳子がそこにいた。



「お婆様っ!?」



 駆け寄り、抱き起こす。しかし、そこから何か声を掛けることは出来なかった。いや、それをする意味がないことを覚ってしまった。即死だ。最期に何か言い遺すこともないまま、大切な孫の手によって佳子は亡くなってしまった。


 今になってなら、後からならば、予想出来なくはなかったと思える。


 佳子の視点に立ってみれば、息子が死に、息子の嫁も見当たらない。ならば孫は大丈夫かと思い、道場に様子を見にやってくる。そういう可能性は、先に予想出来なくはなかった。しかしだからといって、この事態を防ぐことが出来たのか。難しいと言わざるを得ないだろう。それはただの結果論だ。玲が人の内心まで見通す神の如き目でも持っていなければ、いや、持っていたとしても難しかった。


「田野山優ッ!!」


 怒りと共に立ち上がる玲。そもそもの話、玲が流凪の命令を無視してまでこの道場に来たのは、優が哀れだと思ったからだった。事情があったとして、優がやってしまったことはもう変わらない。玲が流凪の命令通りにこの道場に誰も近付けないようにしていたなら、用事を終わらせて帰ってきた流凪によって優は対処されていたのだろう。その対処がどのようなものになるのかは不明だが、最悪の場合、優の命や人格に影響が出るほどのものになることは容易く想像出来る。優が恋した流凪の手によって終わる。それも一つの救いと見ることも出来るが、好きな人に暴走している姿を見られるのは情けないことだ。


 玲は、優はきっと好きな人の手で終わる幸福より情けなさが上になる人物だと思ったから。だからせめてもの情けとして、自分が片をつけてやろうとここに来た。相手が刀を用いた物理的な攻撃をしてくるだけなら、自分でも対処出来るはずだから。優がこのような凶行に及んだ原因に関しては、同情出来る部分も多い。少しの情けくらいはあっても良いだろうと。



 その結果がこれなのか。



 優が玲を狙って投げた刀が偶然佳子に刺さってしまったという可能性はほぼないと言って良い。何故なら、玲ほどではないにせよ優が実力者であることは疑いようのない事実だからだ。倒れた状態から苦し紛れに投げた刀が玲に当たる可能性は低く、回避されたら最早勝ち目はない。そんな自ら敗北に向かうような行動を優がするとは思えない。つまり、あの刀は佳子を狙って投擲されたものだ。


 優は、自分の祖母を間違いなく殺害したのだ。


 佳子が優に何を言いに来たのかは分からない。しかし、きっとその言葉は優を気遣うものだったはずだ。自分だって息子が亡くなって悲しいはずなのに、父親を亡くした孫だって辛いはずだと心配して様子を見に来たはずなのだ。


「絶対に……お前だけは絶対に許さんッ!!」


 怒りのままに、今度こそ手加減なしで床に倒れたままの優を叩き潰そうと脚に力を込める玲。


 しかし、玲が駆け出すよりも前に、空気を斬り裂きながらそのすぐ横を飛んでいく何か。


 それは真っ直ぐに優へと向かって突き進み



 額に突き刺さる



「…………え?」


 目の前で起きた出来事が理解出来ず、思考が止まる玲。状況を整理するために、落ち着いて、改めて優を見る。


 優の額に刺さっているのは、刀だった。当然、優が持っていた刀だ。玲に蹴り飛ばされ、起き上がることも出来ないまま刀を投げたのだろう優は、その体勢のまま額に刀を突き刺して倒れ込んでいる。頭蓋骨を貫通して深々と頭に刺さった刀は、どう見ても脳まで届き、優を即死させているだろう。力なくうつ伏せに倒れた優は、もう痛みにもがく様子もない。


 下へと視線を動かすと、変わらず倒れている佳子の姿がある。先ほど玲が確認した状態から動いた様子はない。間違いなく絶命していたのだ。佳子が動いて、自身に刺さっていた刀を抜いて優に投げ返したなどという異常事態が発生した訳ではないはずだ。


 道場内には、優、佳子だけでなく静香も倒れているが、そちらも玲が道場に入ってきた時から動いた様子はない。首なし死体が動き出して、倒れている佳子から刀を引き抜いて投げたなどという怪奇現象が起きた訳でもない。


 再び優へと視線を戻す。先ほど見た時と何も変わらない。ただ床に倒れているだけ。




 倒れているだけ、のはずの優の頭が、ピクリと動いた。




「なっ!?」


 何が起きているのか分からない玲が咄嗟に拳を胸の前に上げて構える。何が起きても対応出来るよう、全力で警戒しながら優を観察していると、



 優の頭が、何かに持ち上げられるように上へと動く。



 そのまま、優の体全体が立ち上がるように持ち上げられ、僅かに足が浮いたところで糸が切れたように床に倒れた。


「……そうですか。そうなってしまいましたか。これは……最悪ですね……」


 玲の視線の先、倒れた優の真上。



 刀が、浮遊していた。



 恐らく玲の予想は正しい。優が持っていた刀は、妖刀ではなかっただろう。もし刀が妖刀だったなら、流凪が何か対応しているはずだから。


 つまり、この刀は



 たった今、妖刀として覚醒した。



 勝、静香、佳子と三人もの人間の血を立て続けに吸い、怨念を纏って半覚醒。そして最後に伝説通り、使用者だった優を殺して完成した。伝説のようにいたぶってから殺さなかったのだけがせめてもの救いと言えなくもないが、この状況で幸いなどと思える人間が果たして存在するのか。


 歓喜しているかのように、刀が道場内を飛び回る。その速度は充分に目で追える程度ではあるが、人体という制限がない浮遊する刀だ。どう攻撃してくるのか全く予測出来ない。そして、どうすれば止めることが可能なのかも何も分からない。


「チッ」


 飛び回っていた刀が、思い立ったように玲へと突撃してくる。軽く回避した玲だが、反射的に反撃しようとした腕を止めた。この刀に対して、反撃しても良いのかが分からないのだ。殴っても効果がないだけならまだ良い。最悪、触れただけで操られるということもなくはない。もし玲が操られでもしたら、誰にもそれを止めることが出来なくなってしまう。世界最悪の殺人鬼の誕生だ。それだけは何としても避けなければならない。


 何度も突っ込んでくる刀をひたすら回避する玲。全く危なげなく回避は可能だが、これが一生続くようだと流石の玲もいつかは力尽きる。流凪が帰ってくるまで耐えれば恐らくどうにかしてくれるはずだが、玲には流凪が今どこで何をしているのかも分からないのだ。一体いつまで避け続ければ終わるのか。二時間や三時間なら問題ない。十時間でも恐らく大丈夫だろう。だが、二十時間、三十時間でも大丈夫とは流石に言い切れない。


 ただひたすら避けて避けて、避け続け、何分経ったのか。


 何の前触れもなく、唐突に刀が道場の天井を突き破ってどこかへと飛び去って行った。


「……え」


 一瞬、何が起きたのか分からず思考が止まりかけた玲だったが、直後、慌てて道場を飛び出した。周囲を見渡してみても、どこにも刀が見当たらない。空を見上げても、玲の視力を以てしても見つからない。


「一体どこに」


 妖刀として覚醒してしまったあの刀を放置する訳にはいかない。どこを探せば良いかも分からないまま、玲は駆け出した。

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