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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第一章 学校の怪談
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第四話 遊ぶ約束

 あまりに急な再会に、何を話せば良いのか戸惑う希美。先ほどまで流凪に連絡して遊ぶ約束をしたいと考えていたのだから、その話をすれば良いだけのはずなのに、慌てて何かを話さなければと考えるあまり何も口から出てこなくなってしまう。


「希美ちゃんは今学校から帰るとこ?」


「あ、は、はい、そうなんです!」


 どうすれば良いのか何も分からなくなっていたところで相手側から口を開いてもらったことで、希美はどうにか会話を続けることに成功した。会話を途切れさせてはいけないと、続けて言葉を返す。


「流凪ちゃんはどうしてここに? もしかして流凪ちゃんの学校もこの辺りなんですか?」


「んーとねー、何て言うのかな。何となくこの辺に来た方が良いような気がしたっていうか、そんな感じ?」


 よく分からないが、散歩か何かだろうか。この辺に来た方が良いとは、もしや自分が会いたがっていることをスピリチュアルな何らかで感じ取って会いに来てくれたのだろうか。そうに違いないと思って勝手にテンションが上がり始める希美。友達になったばかりで互いのことも碌に知らないのに、そんな十年来の親友の如き感覚が備わっている訳がない。希美は友達という距離感がよく分かっていなかった。


「あのあの、流凪ちゃんは今週末の予定は空いてますか!?」


 まるで愛の告白でもするかのように頬を紅潮させ、半ば叫ぶように尋ねる希美。それを見た流凪は思った。この子、急に大声で話す癖でもあるのかな、と。昨日友達になって欲しいとお願いされた時も急に叫ばれてびっくりしたのは記憶に新しい。二人のテンションは天と地ほども差があった。


「うーん、どうだろ。あると言えばあるし、ないと言えばないかなー」


「え、え……?」


 あまりにも予想外の答えが返ってきて困惑する希美。予定があると言われたら諦めるし、予定がないなら遊びに誘いたかったというのに、どっちとも取れない返答に、どうすれば良いのかまた分からなくなる。


「えーっと、忙しい、ということですかね……?」


「んーん。忙しくはないと思うよ」


 結局どっちなのか。それを問う前に、気付けば本命の質問を投げかけていた。



「じゃあ、一緒に遊びに行きませんかっ!?」



 あまりの大声に何事かと通行人がチラリと希美たちの方へと目を向ける。が、すぐに興味をなくして歩き去っていった。幼い少女二人、きっと会話の中で盛り上がっただけだろう、と。その程度のことを気にしていつまでも足を止めているほど暇な人間は周囲にいなかったようだ。


「んー、あんまり遠くには行けないかなー。それでも良い?」


「は、はい! 全然大丈夫です!」


 むしろ遠くに行くことなど一切考えていなかった希美にとって、流凪のその返答は快諾と同義だ。あまりの嬉しさに飛び跳ねそうになって、しかし思い直して落ち着きを取り戻す。


「じゃあじゃあ、どこに行きましょうか」


「別にどこでも良いよー」


 何となくそう言われる気はしていた。そして、その答えが一番困るのだ。どこか特定の場所を指定してくれればどこでも良かったのに。希美は高速で思考を巡らせる。映画、現在何の映画がやっているか知らない。カラオケ、行ったことないし小学生だけで行って良いのか分からなくて怖い。ショッピング、流凪ちゃんみたいな凄いお洒落さんと一緒に買い物なんて出来る気がしない。


 目が回りそうなほどに考えては否定してを繰り返し、若干涙目になり始めた頃、目の前の流凪の様子が目に入った。


「ふぅー、暑いねー」


 パタパタと手で顔を扇いでいる流凪は、いつも暑そうな格好をしている。多分この服装が趣味なんだろうが、夏休みも近づいてきているこの時期にこれは暑いのではないか。だとすれば、一つ良い場所を思いついた。



「プール、とかどうでしょうか」



 大規模なアミューズメントパークなどではないが、ごく普通の市民プールが近場にある。簡単なウォータースライダーや流れるプール、波の出るプールなどもあり、一日遊ぶ程度なら充分楽しめる施設だ。三年くらい前に両親と行ったきりの場所で希美自身もあまり覚えていないが、まあ問題ないだろうと珍しく楽観で提案した。


「プールかー。嫌ではないんだけどね」


「駄目、ですか……?」


 芳しくない反応に、再び思考の世界に潜ろうとする希美。プールが駄目ならより良い案を探さなければならない。嫌なら流凪が考えろよ、などと微塵も思わない希美は、善良だが損しやすい性格だった。



「いや、駄目じゃなくて、水着あったかなーと思って」



「あ……」


 言われてみれば、希美も遊ぶための水着など持っていなかったかもしれない。学校で使う物は当然あるが、それで友達と遊びに行くのは何かが違うことは希美にも分かった。せっかく良い提案が出来たのに、まさか水着がないなどという理由で断念することになるとは。一緒に遊びに行けることになって上がっていた希美のテンションが少しずつ下がり始めた。


「ま、プールで買えばいっかー。何とかなるでしょ、多分」


「え?」


「あれ、駄目? あー、ちゃんとした店でいっぱい並んでるとこから選びたい感じ?」


「い、いえいえいえいえ、大丈夫です! その場で買いましょう!」


 下がり始めたテンションがV字回復する。興奮し過ぎて暑さとは別の理由で汗が出てきた。やや不審者の様相を呈し始めた希美は、その興奮のままに約束をまとめる。


「じゃあ、現地集合で、土曜の朝十時、で大丈夫ですかね?」


「オッケー。じゃ、そういうことでー」


 右手をフリフリ、希美とすれ違うように去っていく流凪。その姿が見えなくなるまで同じく手を振って、ずっと手に持ったままだったことにやっと気づいたスマホを鞄へと戻す。流凪へと連絡を取るために取り出していたスマホだが、流凪と話している間は全く意識になかった。それくらい慌てていたし、それくらい流凪との会話に夢中になっていたということだろう。


「ふふっ」


 自分のあまりにも慣れていなさ過ぎる友達との交流をする様に対し、思わず笑いが出てくる希美。終始異常なほど慌てていて、流凪も呆れたことだろう。


「いや」


 そうではないのかもしれない。流凪は意味もなく慌てる自分の姿を見ても、全く態度を変えなかった。ただ単にマイペースなだけかもしれないが、希美にとってはその方が付き合いやすい。何故なら、自分が馬鹿らしいことをしても、きっと気にしないでくれるだろうという信頼が出来るから。勢いだけで友達になってしまった相手だが、きっと自分との相性は悪くないのだろう。


 そんな相性が悪くない、これからもっと仲良くなっていけるだろう友達と、プールに遊びに行く約束をしてしまった。友達と遊ぶなんて、希美にとって初めてのことだ。


「ふんふふんふふーん」


 楽し気にリズムを取りながら、スキップで自宅へと帰っていく希美。




「ふーん?」


 その姿を、少し離れたところから見つめる影。希美は最後まで、その存在に気づくことはなかった。


「ふーんって何? また何か変なこと考えてるの、凜々花」


「うるさいわね、秋子! 別に何でも良いでしょ!?」


「あなた、いい加減明里さんに付きまとうの止めたら?」


「付きまとってないし! 奏!」


「あ、うん、そうだね。付きまとってないね」


「ほら!」


「はぁ。奏、あなたもその凜々花を全肯定するの止めた方が良いわよ。嫌なことは嫌、駄目なことは駄目、はっきり言いなさい」


「う、うん、大丈夫」


「……はぁ」


 腰に手を当てふんぞり返る凜々花、困ったように笑う奏、そして頭が痛そうにため息を吐く秋子。三人は今日も仲が良かった。

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