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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第二章 妖刀の伝説
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第四十五話 幸薙朱里


「やあ、朱里ちゃん」


「今度はこんなに早い時間に、どうしたのですか?」


 穏やかに微笑みながらも困惑を顔に浮かべる朱里。当然だろう。現在時刻は午前六時前。よほどの用事がなければ、このような時間にわざわざ山中の神社になど来る訳がない。挨拶をしつつ目の前の朱里の気配を探る流凪だったが、その気配は昨日までと何も変化していない。ここ数日で起きている事件の犯人が彼女なら、大なり小なり被害者の念が残っているはずだ。昨日の反応でも分かっていたが、やはり幸薙朱里は犯人ではない。


 が、そんなことはもう関係ない。


 流凪には確信があった。


「君こそ、早い時間から活動しているんだね」


「ええ、巫女としてのお仕事がありますから」




「本当に?」




「え?」


 のほほんとした眠たげな垂れ目が、貫くように朱里を見ている。明らかにこれまでとは異なる雰囲気に、朱里の頬に汗が流れた。


「こんな小さい神社に、早朝からやらなきゃならないお仕事なんてあるのかなって思ってさ。お客さんも少ないのに」


 ゆったりとした口調も眠たそうな声色も何も変わらないのに、みるみる空気が重くなっていく。何かをされた訳でもないのに、今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる朱里だったが、しかしそんなことをすれば何か言えないようなことがあると宣言しているようなもの。止まらない汗を暑さのせいだということにして、どうにか表情を変えないまま口を開く。


「ええ、そうなんですよ。巫女なんてお掃除しているだけだと思われることも多いのですが、実は色々とお仕事があるのです」


「ふーん。まあ、良いや」


 そう言って軽く話を切り上げる流凪に、ホッと一息吐く朱里。しかし、まるでその意識の隙間を狙うように、再び流凪が口を開く。


「最初に違和感を覚えたのは、君がわたしを褒めた時」


「はい?」


「ほら、初めてここに来た時、わたしが中央を避けて端を歩いていたことを褒めたよね。それを聞いて思ったんだよ。あれ、この子、いつからわたしたちのことを見てたのかなって」


 初めて流凪たちが錬刀神社に来た時、参道の真ん中を通る優に流凪が注意した。そこは神様がお通りになる道だから避けるのが作法だ、と。それ以降は優も真ん中を避けて歩いていたし、玲と希美は最初から流凪と同様に端を歩いていた。朱里が流凪たちの前に出てきた時には全員がきちんと端を歩いていたはずで、そのことに関して流凪だけを褒めるのは違和感がある。


 だから、もしかして流凪たちが神社に入ってくるところからずっと見ていたのではないだろうか、と。だとしたら何故少し時間が経ってから出てきたのだろうか、と。流凪は最初からそんなことが気になっていた。


「いえ、それは流凪さんの態度が特に良かったから褒める言葉が自然と口から出てきただけで」


「次に、夜に神社に行った時。君は当たり前のようにわたしを待ち構えていたね。そしてこう言った。この神社に住んでいる、と」


 勝の死体を発見し、その後に流凪は神社に向かった。流凪が鳥居を通ったのは夜二十一時近くになってから。それほど遅い時間になっても神社で仕事をしていた朱里に、こんな時間まで神社にいるんだと尋ねると、朱里はここに住んでいるからと答えた。


 だが、常識的に考えてそれはおかしい。


「この神社にあるのは、鳥居とボロボロの拝殿だけ。人間が生活出来るような環境じゃない。君、どこでどうやって生活しているの?」


「それは」


「加えて、拝殿の裏にあった穴。あの穴、自然に出来たとは考えにくい。間違いなく人の関与があったはずだよ。でも君はいつ穴が出来たのか不明瞭だって言う。ずっと神社にいるはずなのにね」


 何かをぶつけて出来たような、直径四センチほどの穴。もし本当に朱里がここに住んでいるのなら、この穴が出来たのがいつのことなのか、はっきり分かるはずだ。しかし、朱里は気が付いた時には穴が出来ていたという。もちろん一時的に外出しているタイミングという可能性もあるので絶対におかしいとはいえないが、朱里の言い分に違和感はある。


「そもそも、最初から君の気配は異様だった。何というか、あまりにも希薄なんだよね。まるで中身がどこか別の場所にあるみたい」


 初めて朱里を見た時から、流凪はそのおかしな気配が気になっていた。怪異よりは人間らしい気配ではある。でも、あまりにも存在感がない。普通の人間だとは思えない気配。だからといって、怪異だと断定して祓うことも躊躇われる、妙な気配。そもそも怪異だとしても悪さをしていないなら問答無用で祓うようなことはしたくないし、よく分からないから後回しにしていたが、何かおかしなことが起きたら神社を、そして朱里を調べようと、流凪は初めて神社に来た時から決めていた。


「少し話は変わるけどさ、勝君は刀によって殺害されたって言ったでしょ?」


「……ええ、そう言っていましたね」


「刀なんてどこにでもある物じゃない。真っ先に疑うべきは当然、この神社に祀られている妖刀だよね」


「それは理解出来ます。しかし拝殿には鍵が掛けられています。錠が破壊された様子もありませんし、恐らくは別の刀をどこからか持ってきたのではないでしょうか」


 朱里の言い分は真っ当なものだ。施錠された拝殿から刀は盗めない。ならば犯行に使われた凶器は別の刀だろう。そこらに刀があるとは考えにくいというのは間違いないが、拝殿内の刀が盗めないならそれしか考えられないのだから。それは当然の意見だが、しかし流凪はそうは考えない。


「別の刀なんてないって仮定したとしてさ。鍵は破壊されていない。でも拝殿内の刀は移動している。なら、単純な話。考えられるのは一つだけだよね」


「それは……?」




「君が拝殿の鍵を開けて、犯人に刀を渡したんだ」




「そ、そのようなことをする訳が!」


「あの穴は最終的に妖刀が勝手に動いたってことにするために君が作ったんだ。わたしが穴を覗き込むのを必死になって阻止したのは、中に刀がないことを覚られたくなかったから」


 流凪が拝殿の穴を覗き込んで中を確認しようとした時、朱里は流凪を無理矢理穴から引き剥がすほど全力で阻止してきた。そのようなことをしなくとも、穴を軽く覗き込んで異常がなさそうだと確認したら流凪だってすぐに納得していたはずだ。しかし、それでは朱里にとって都合が悪かった。あの時は暗かったので、穴を覗き込んで中の様子をしっかり確認するのは難しかったかもしれないが、万が一にも中に刀がないことがばれたら面倒なことになる。だからこそのあの行動だったのではないか、と流凪は予想していた。


「何を根拠にそのようなことを!」


「君がやけにわたしを警戒しているようだからさ」


「え……?」


「わたしがこの神社に来る度に、わざわざ出迎えてくれるから。君、わたしが何らかの霊能者だって感じ取ってるんでしょ。だから警戒して観察してるんだ」


 初めて神社に来た時、強い霊能者が来たことを感じ取って最初から観察していた。だから流凪が参道の端を歩いていたことも見ていたし、他の三人は流凪の真似をしているだけだと分かっていた。流凪だけを褒めたのは無意識にそれが出てしまったから。


 昨日の夜、流凪は神社の前でしばらく休憩していた。本当なら二十一時よりも前に神社に着いていたのだ。だが、敢えて遅い時間になってから神社を訪ねた。朱里の正体が人間ではないのなら、どれだけ遅くなろうと神社にいるはずだ。それを確かめたかった。案の定、朱里は神社に残っていたし、神社の前に流凪がいることに気が付いていたので、流凪が石段を上がってくる時にはもうそこで待ち構えていた。


 そして今日も同様に、流凪が神社に来た時、朱里は待ち構えるように立っていた。いや、待ち構えるように、ではなく、待ち構えていたのだろう。



「要するに、君はわたしのことを警戒しないといけないような何かってことだよ」



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