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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第二章 妖刀の伝説
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第四十四話 後悔

 流凪を包み込むように抱きしめながら、心配していたと、危ないことはしないで欲しいと、何度も涙ながらに吐き出していた希美は、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。そうしている間に帰ってきていた玲に希美を運んでもらい、一緒に布団に入る。今日は流凪にしてはかなりの距離を自分の足で移動したので、横になった瞬間に意識する間もなく眠りに就いていた。




 自分がいない間に何が起きたのか、確認するような余裕は残っていなかった。




 目を覚ました。時刻は午前五時。体を起こした流凪は、自分が疲労で眠っている間に取り返しがつかなくなってしまったことを覚った。選択を間違えたのか。疲れ切ってしまうような行動をするべきではなかったのか。しかし、昨日の段階では今後何が起こるかなど予想出来なかった。勝をあのまま放置しておく訳にもいかなかったし、未来を見ることでも出来なければあれ以外の行動は不可能だっただろう。


 それでも、後悔は尽きない。


 可能性として、こうなってしまう予想は出来なくはなかった。それでも、まだ確信が持てないから、まだ耐えられそうだから、まだ対処可能だから、しっかり情報収集して、これからの動きを固めてからで良いだろうと。



 もう遅い。



 それでも、動かなくては。



 あちらは対処が難しいかもしれないから、あちらに行くべきだろうと、これからの動きを決めて。メモを一枚残して家を出た。





 やっと乾いてきた山道を歩く。流凪の体力でも昨日ほど疲労することなく進むことが出来るようになっていた。目的地に着いたのは、出発から四十五分ほど経った頃。


「気配は……特に変化なし、かな?」


 流凪が上げた視線の先には、昨日と変わらぬ様子で鳥居が立っている。石段をゆっくりと上り、鳥居を潜り抜けて。



「おはようございます、流凪さん」



 昨日と同様、流凪のことを待ち構えるように立っている巫女装束の女、幸凪朱里がそこにいた。








 午前五時半。目を覚ました玲は、枕元に置かれたメモを発見する。流凪が動く音に反応して起きることが出来なかったのは、恐らく能力で音を消して動いていたからだろうからそれは良いとして。見慣れたその字は流凪が書いた物だと一目で分かったが、そのメモが何を意味するのかはあまり分からなかった。



 道場には誰も近付けないで



 流凪が玲よりも先に起きて行動していることといい、何か異常が発生していることは明らかだ。いや、そもそも異常といえば昨日から発生しているのだが、既に起きてしまった勝殺害事件ではなく、現在進行形で何か起きているのだろう。玲にはそれが何かは分からない。昨日から流凪が単独で行動して調査しているのだろうが、その調査内容は共有されていない。そして、玲には流凪と違い、気配だけで様々な事情を理解出来るような能力は備わっていない。


「道場、ですか」


 道場には誰も近付けないで、ということは、道場で何か起きているのだろう。誰も、というのは恐らく玲自身も含まれる。そこに危険があり、それの対処は容易ではない、と。玲だけでどうとでもなることが予想されるなら、そっちは任せた、というような内容のメモになっているはずだ。玲では絶対に対処出来ないのか、玲で対処出来るか分からないのか、多分対処出来るけど危険だから待機させたいのか。どのレベルなのかはこのメモだけでは分からない。流凪から情報共有がされていない玲では、現状分かることはほとんどない。


 が、分かっていることもある。


 まず、勝殺害に使用された凶器は日本刀だ。何か霊能力的な異常現象によるものではなく、刀という実体がある凶器によって犯行はなされた。


 次に、静香が再び行方不明になっている。昨日も玲が寝るまでは帰ってきていないし、玄関を見る限りでは今も帰っていないように思える。


 そして、流凪が警告している場所は道場だ。勝がいない今、道場にいることが予想される人物など一人しかいない。


 昨日の勝、静香捜索にも参加していなかった。普段から道場に籠っている時間が多く、何かをしていても人に見つかる可能性が低い人物。日本刀を扱えてもおかしくはなく、真剣を持てば勝にも難なく勝利出来るだろう人物。


「気遣いが出来ないだけで、そう悪い人間にも見えなかったのですが」


 残念そうにため息を吐いた玲は、流凪の指示を無視して道場へと向かった。




 道場の扉を開け、中へ入る。朝とはいえ、空調のない道場はそれなりの熱気に包まれている。あまり快適とはいえない環境は、優の鍛錬をより過酷なものとしているだろう。


 しかし、玲の顔をしかめさせたのは、熱気ではなかった。


 道場に入った瞬間から感じる、独特の臭気。嗅ぎ慣れない、良い匂いとは言い難いそれは、しかし探るまでもなくどこが発生源なのかすぐに分かった。



 床から見上げるそれと、目が合った



 真っ赤に染まる床に転がる、女性の頭部。横向きに転がり、いつも前髪に隠されていた目がこちらを見ている。その表情は驚愕一色。何が起きたのか分からないという顔で固定され、その表情が自ら変わることはもう二度とない。その横に倒れる頭部を失った体は力なく寝ているだけ。首以外に傷は見当たらず、抵抗することも出来ないまま、気が付いた時にはもう遅かったのだろう。


 そんな体は、右手を頭上に伸ばしている。床を引っかくように伸ばされた指が、彼女が最期に示した意思の表れだとするのなら、その指が向かう先にいるのがこの惨状を生み出した犯人ということなのだろう。


 倒れる静香の体が指差す先に、血塗れの日本刀を片手にぶら下げる男が一人。


「やはり、あなたが犯人ですか」


 その男は、道場に入ってきた玲の姿が見えているのかも怪しい虚ろな目でぼんやりと立ち尽くすのみ。そして、玲の優れた聴覚でもギリギリ聞こえるかどうかというくらいの音量で、ブツブツと何かを呟いている。



「俺は、操られただけ。これは妖刀だから、妖刀が操るから、仕方がない。俺のせいじゃない。悪いのはこの刀だ。俺のせいじゃない、おれのせいじゃない、おれのせいじゃないおれのせいじゃないオレノセイジャナイ」



 それを聞いて、玲は大きくため息を吐いた。彼の行動は、別に良いとは言わないが、事情があることは分かる。ずっと苦しんできたことは理解しているつもりだし、ついカッとなって父親を殺してしまったと言うなら、まあ分からなくはないのだ。もちろんそれを善と言うことは出来ないが、部外者が否定出来る行動ではないな、という程度には理解を示せるつもりだった。


 だが、これは何だ。何の罪もない、声を失うほどのストレスを感じながらもずっと寄り添ってくれていた母親の首を落とし、あまつさえその行動は妖刀のせいだから自分は悪くない?


 そもそもの話、玲はあの刀が本当に妖刀だとは思っていなかった。もし妖刀などという物がここにあるのなら、流凪がもっとはっきり警告しているはずなのだ。玲は霊的存在への対抗手段がないから、妖刀の存在を伝えた上で近付かないように言うだろう。加えて、もしあれが妖刀ならここに流凪がいないことも不可解だ。流凪ならば妖刀にも対処出来る。物理的な不安が伴うのなら玲に声を掛けて一緒に来れば良い。そうしなかったということは、あれは妖刀ではないということだ。



 つまり、あの男は、優は今、妖刀に操られているということにして、自分のやったことから目を背けているだけ。妖刀に操られたからという言い訳で現実逃避しているだけ。



 そこまで思考を巡らせて、玲の中で何かが切れた。



「ふっざけるなこのグズがッ! ペラペラと都合の良い言い訳並べ立てて、お前がそこまでのクズだとは思わなかった。その軽そうな頭を床に叩きつけて、母親に泣いて謝るまで永遠に擦り付け続けてやるッ!」

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