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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第二章 妖刀の伝説
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第四十二話 現状報告

 流凪と別れた玲は、その場から離れたがらない静香を無理矢理背負って山道を歩く。しばらくの間バタバタと抵抗していた静香だったが、どれだけ暴れてもびくともしない玲をどうにかするのは自分では不可能だと理解したのか、大人しく背負われたまま山を下りることになった。その後も静香が背中でただ涙を流し続けるので、玲としても無理矢理連れて行くのはあまり気が進まなくなってきたが、とはいえ死体の前にずっと放置しておく訳にもいかない。この山にはイノシシ等も出ると聞いているし、流凪と自分の判断は間違っていないはずだ。そう信じて、佳子が待っているはずの田野山家へと帰った。


「おや、お帰り。静香さんは見つかったんだね。勝はどうだい?」


「いえ……その……」


 家にはまだ希美たちは帰っていないようで、静香を背負った玲を出迎えたのは佳子ただ一人だった。当然ながら、佳子はまだ勝に何が起きたのかを知らない。静香が見つかったことにほっとした表情で、勝は一緒ではないのかと不思議そうに問うてきた。ハキハキと話をするタイプである玲だが、流石に息子を亡くした人にそれを伝えた経験などなく、どう言えば良いのか分からない。


 玲がどう伝えようか悩んでいると、佳子はその背の静香の様子を見て、少しの間、目を閉じた。誰も何も言っていないはずだが、何かを読み取ったのか、目を開けた佳子は悲しみが浮かぶ表情で口を開く。


「……そうかい。ごめんねぇ、玲ちゃん。少しの間、一人にしておくれ。静香さんのこと、お願いね」


「あ、はい……」


 家の奥へと消えていく佳子を見送り、静香を連れて家の中へと入る玲。ダイニングの椅子に静香を下ろし、その前にお茶を置いてみるが、相変わらず反応はない。自分も静香の正面の椅子に座ってその様子を見る。涙は止まっているようだが、長い前髪に隠されたその目はどこを見ているのか。口は一文字に結ばれ、笑みを浮かべることは当然、への字に曲がることもない。慰めるにしても何を言えば良いのか、玲には何も分からない。彼女を慰められるとしたら、もういなくなってしまった夫か、もしくは……と、そこまで考えて、そういえば彼女を慰められそうなもう一人の候補、息子の優を見ていないことに気が付く。


「申し訳ありません、静香さん。少し外します」


 優を探して家の中を歩き始める玲。佳子が閉じこもってしまった仏壇の間を除いて全ての部屋を捜索してみても、優の姿はどこにもない。思い返してみれば、朝からバタバタしていて気が付かなかったが優は最初からいなかった。勝と静香が行方不明という、真っ先に捜索に動きそうな立場にいるはずの優が、流凪と玲の方にも希美たちの方にも混ざっていなかったのだ。もしかしたら一人でどこかを歩き回っているのかもしれないが、しかし玲にとってはそれもなかなか考え辛いことだった。何故なら、遅く起きた流凪と違い、 玲はかなり早い時間から活動していたのだから。早起きの佳子と共に、朝五時半には朝食の準備を開始していた。その時間に既に捜索に出ていた? 誰にも何も告げずに?


 更に付け加えるのなら、昨日優が寝たのは恐らく日付が変わってからだ。一日中道場にいたと思われるので、ずっと剣道の練習をしていたはず。そんな疲労した体で遅くに就寝し、その上で玲より早く起きて外に出ていたというのか。もしそうだとしても、玲ならその物音で起きていたはずだ。玲は身体能力に限らず、視力や聴力といった感覚も人間離れして優れているのだから。まさか、昨日帰ってきてから寝ることなく再び外へ行ったのか? 一体何のために。


 家に優がいないため、その理由を考えることに意識を持っていかれていた玲だったが、家の扉が開く音にハッとして玄関まで駆けていく。


「おかえりなさいませ」


「あ、玲さん。流凪ちゃんは?」


「実は……」


 玲は帰ってきた希美、春希、佳奈美に勝の死体を発見したこと、そこに静香もいたこと、流凪はやることが出来たと言ってどこかへ行ってしまったことを伝える。小学生の希美の前なので死体の詳しい状態は話さなかったが、どんな状態だろうと身近な人の死というのは相応の事件だ。軽い気持ちで受け止められる訳もなく、玲の報告を聞く三人ともに重い雰囲気が漂い始めた。


「分かりました。玲さん、現場まで案内してもらえますか?」


「はい」


「希美はお母さんと一緒に家で待っていなさい」


「え? わたしも」


「佳奈美」


 自分もついていくと言いかけた佳奈美の言葉を遮って、春希が首を振る。声には出さなかったが、その視線はダイニングの方向をチラリと見ていて、静香のことが気にかかっているのは間違いなさそうだ。もし佳奈美も現場確認に向かうとなると、この家には希美、静香、佳子の三人が残ることになる。閉じこもってしまった佳子、ピクリとも動く気配のない静香、小学生の希美。そんな三人だけを残していくのが不安に思えるのは、きっと誰でも同じだろう。遅れてそのことに気が付いた佳奈美は、躊躇いつつも頷いて家に残ることを承諾した。


「では玲さん、お願いします」


 春希と玲は、勝が倒れていた現場を確認するために再び外へと出ていった。








 残された希美は、ダイニングのテーブルに宿題を広げて取り掛かり始めた。しかし、同じテーブルにいるためどうしても視界に入る静香の様子が気になってしまう。伯父のことはあまり好きではなかった希美だって、いきなり彼が亡くなったと聞けば動揺するし、頭の中では死因や犯人が誰なのか、動機は何なのか等、様々なことがグルグルと巡り続けている。ならば夫を亡くした静香の心境とは。優しい希美には、今の状態は気になることが多過ぎる。


 加えて、流凪のことだ。やることが出来たとは何なのか。もしかしたら殺人犯がうろついているかもしれない中、たった一人で行動していて大丈夫なのか。確かに流凪は特別な力を持っている。希美はそれを目の前で見ている。しかし、超常現象が絡まない事件に対して、流凪は見た目通りのか弱い少女でしかないはずだ。流凪は幼い見た目でも立派な大人であることは理解している。何の考えもなく単独行動をするようなことはないはずだと分かっている。それでも、勝を殺せるような人物が相手だとしたらかなり危険なはず。本当に流凪は大丈夫なのか。


「はぁ……」


「希美、大丈夫? 一回顔でも洗ってくる?」


「うーん、そうだね。そうする」


 それで気分が晴れるとは思えないが、このまま宿題をやろうとしても全く進まないだろうことは間違いないのだ。一度区切る意味でも、何でも良いから別のことをやるべきだろう。立ち上がり、脱衣所の扉を開ける希美。そこにある洗面台の前に立ってみると、鏡に自分の顔が映った。今にも泣きそうな、酷い顔だ。勝の死がそれほどまでに悲しい訳ではない。薄情なようだが、希美にとって勝はそれほど大切な人物ではない。それでも、重苦しい雰囲気に小学生の希美の心はあっという間に疲弊していた。マッサージするように自分の顔をムニムニと揉んでいると、鏡越しに母親と目が合った。あまりにそっくりな顔が見えて、希美は自分が母親と似ているのだな、という自覚を持った。


 水を出して、掌で受け止める。それを顔に思い切り叩きつけるように浴びせた。数度繰り返し、冷たい水によって少しは暗い気分も洗い流せたのか、多少はマシになったかな、と顔を上げる。


「うん、よし」


「お母さんも、顔洗おうかしら」


 何も良くないが、敢えてよしと言葉にすることで良いことにする希美。その様子を見て、自分も顔を洗った方が良いだろうと考えた佳奈美が入れ替わるように洗面台の前に立つ。バシャバシャと顔を洗い、そういえばメイクをしていなかったと今更ながらに思い出す。すっぴんでそこら中を走り回っていたのかと、少し恥ずかしくなった。


 無理矢理気分転換をして、親子で顔を見合わせて苦笑い。互いに少しは状態が良くなっていることを確認して、ダイニングへと戻る。



 そこに、静香の姿はなかった。

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