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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第二章 妖刀の伝説
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第四十一話 神社捜査


「気になること、ですか。こんな時間に来なくとも、明日でも良かったのでは?」


「まあ、そうなんだけどね。気になっちゃったからさー。こんな時間といえば、朱里ちゃんこそこんな時間まで神社にいるんだねぇ」


「私はここに住んでいますからね」


「そうなんだ」


 自分で質問しておきながらそこまで興味もないのか、朱里の返答には特に大きく反応せず神社の奥へ入っていく流凪。石の道を外れて砂利を踏む音を響かせながら、拝殿を回り込むように奥へ進んでいく。


「流凪さん?」


 そんな流凪の行動が当然気になる朱里もついてきて、二人で拝殿の横を通り、裏へ。表から見たボロボロの拝殿は、横も後ろもその様相が変化することはなく、殴れば簡単に穴が開きそうな弱々しさだ。一応は一見して穴はなさそうだが、もしかしたら木が腐っている可能性もあるのではないかと心配になる、精一杯オブラートに包んで言うなら趣がある建物だ。


「うーん……お?」


 そんな建物を眺めながら何かを考えるように唸っていた流凪は、何かに気が付き足を止めた。その場所は、建物のちょうど裏。賽銭箱がある表側の正反対にあたる。


 そこには、拳も入らないくらいの小さい穴が開いていた。


「これってずっと前からあるの?」


「これ、というと……ああ、この穴ですか。いえ、これはつい最近出来た穴ですね。私がこれを発見したのは一昨日のことですが、少なくともその前日にはなかったことを確認しています」


 つまり、流凪たちが来た日にはなかった穴ということだ。本当につい最近出来た穴であるらしい。改めて穴を観察してみると、直径が四センチほどだろうか。円形の穴で、何かをぶつけて出来たような不揃いな断面をしている。誰かがここでボール遊びでもしていたならこんな穴が出来るのも分かるのだが、流石にわざわざこんな山の中に入ってきて神社の敷地内でボール遊びをするというのもおかしな話だ。


「ここから妖刀が出て行ったとか、ある?」


「え? いえ、どうでしょうか。確かに刀なら通れそうな穴ですが……封印を守る儀式もきちんと毎年行われていますし、独りでに動き出すなどということはない、はずですよ」


 流凪の質問に対して一応きちんと考えてはくれた朱里だったが、そもそも刀が勝手に動き出すなどあり得ないと思っているのか苦笑い気味だ。錬刀神社の巫女ですらこの反応。毎年儀式を行っているとはいえ、恐らく本気で妖刀の伝説が信じられていたりはしないのだろう。朱里が完全に嘘だと分かっていることを人に吹き込むような性格にも見えないし、以前この神社に来た時の言い方からしてきっとこの中に刀は収められているのだろうが、それが伝説の通りに動くとは思っていない、といったところか。


 まあそれならそれで良いかと一旦考えを打ち切って、建物の穴を覗き込もうと目を近づける流凪。


「ちょ、ちょっと、危ないですよ!?」


 しかし、完全に覗き込む前に朱里に止められてしまった。少しだけ見ることが出来た範囲では、真っ暗で何も分からない、ということだけが分かった。


「妖刀は動かないんでしょ?」


「た、確かにそう言いましたけど……だからって、もし動いたらどうするんですか。目に突き刺さったりしたら、良くて失明、悪ければ死んでしまいますよ!?」


「だいじょぶだいじょぶ」


 慌てる朱里の言葉を無視して再び穴を覗き込もうとする流凪。しかしやはり朱里に止められてしまった。


「駄 目 で す !」


 しかも今度はガッシリ抱きしめて穴から引き剥がされ、朱里を無視して覗き込むということも出来ない。残念ながらこの穴を使って拝殿の中を確認するのは諦めた方が良さそうだ。


「大丈夫なのに……まあ良いや」


 穴を覗き込むことを諦めたという姿勢を示すことでようやく朱里に放してもらった流凪は、再び拝殿を回り込んで表側へと戻っていく。これで一周ぐるりと拝殿の全体を確認したことになるが、穴があったのは先ほどの一か所だけだ。確かに全体的にボロボロではあるが、他に穴はない。あの穴が自然に出来たという可能性は排除して良いだろう。


 拝殿の表側には賽銭箱が設置してあり、その先に扉がある。扉には南京錠が付けられていて、鍵がなければ開かないようになっているようだ。


「あの鍵ってどこにあるの?」


「拝殿の鍵ですか? 私が持っていますよ。肌身離さず持っているので、盗られる心配もありません」


「開けてー」


「駄目ですってば。どうしてそんなに拝殿の中が気になるんですか」


「何となくー」


「何となくって、もう」


 呆れたように一つため息を吐く朱里だが、どうやら拝殿を開けてくれる気は全くないようだ。この神社を管理している巫女として、むやみに人を拝殿内に入れたりはしないらしい。ましてやこの神社に祀られているのは刀。一歩間違えば大怪我をすることもあり得る。拝殿内に人を入れるという行為には、余計に慎重にならざるを得ない。


「じゃあもう帰るねー」


「え? 気になることはもう良いんですか?」


「うんうん、それはもう良いや」


 わざわざこんな夜中に神社まで来るほど気になることがあると言っていたのに、それを解決出来た様子もないままあっさり神社を出て行こうとする流凪に首を傾げる朱里。一体何が気になっていたのか、何故ここまで来たのか、何故それはもう良くなったのか。流凪は最後まで何も語らず神社を出ていってしまう。


「あ、そうそう。最後に一つ言っておきたいことがあるんだけど」


「はい、何でしょうか」


 神社を出る直前、鳥居を通る前に顔だけ振り返る流凪。ちょっとした雑談でもするように、何でもないことのように、先ほどまでと何も変わらない様子で口を開くので、朱里も何ら気負うことなく先を促す。





「勝君が死んだ」





 果たしてその口から飛び出したのは、あまりにも非日常的な言葉。


「恐らく刀による傷が死因だ」


「…………そうなんですか。だからこんな時間に何かを確かめに来た、ということですか?」


 朱里は驚いたように目を見開いて、しかしすぐに冷静さを取り戻して質問をしてくる。もし朱里が犯人なら、急にこんなことを言われれば、もう少し動揺したり隠そうと言い訳をしたりしそうなものだ。きっと朱里は犯人ではないのだろう。流凪としてはそれだけ分かれば充分だった。質問を返してきた朱里の様子を少しの間見ていた流凪は、今度こそ神社を出て行こうと歩き始める。


「……うん、まあそうなんだよねー。じゃ、それだけ。またねー」


「はい、さようなら」


 鳥居を通って石段を下り、未だぬかるんだままの山道を歩き始める。玲には皆が寝る前には帰ると言ったが、既に時刻は二十一時半。今から流凪の足で歩いて帰るとなると、約束を守れるかはなかなか怪しいところだ。だからといって、足を滑らせて怪我でもしたら本当に帰れなくなってしまうので、ゆっくりゆっくり、足元に気をつけながら歩を進める。今日はなかなか長距離長時間移動した。休憩時間も多かったが、それでも流凪の脚には結構な疲労が溜まっている。歩き始めてすぐ、ふうふうと息をしながらのそのそ進んでいった。


 結局、家に着いたのは二十三時近くになってから。ただでさえあんなことがあった日に遅くなったので、流凪のことが大変心配だった希美は眠らずに待っていた。珍しく流凪に対して怒る希美の言葉を、流凪は途中で寝ることもなくしっかり聞いていた。

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